東京都知事選 改革と安定のベクトル

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

一般的に言って、経済成長が順調で社会不安が少ない時には人々は政治の継続を望む。つまり安定した政治家を好み、できるだけ現状維持を志向する。経済が行き詰まり、社会不安がある時には、人々は改革路線を望む。現状を打破し、新たな社会構造、経済構造を創るパワフルな政治家を好むのである。

単純なようだが、これはかなり有効な視点だ。海部俊樹氏が首相になったとき、誰もが短期政権を予想した。党内基盤が脆弱であり、短期の中継ぎ的な役割での首相への選出であった。しかし時代はバブル経済の真っ只中に突入する。政治の継続を多くの人が望み、海部政権は思いがけない2年3ヶ月にわたる長期政権となった。

バブル経済が破綻してから日本の経済は低迷を続けた。現状維持を嫌がる時代を反映して、首相はほぼ1年ごとに替わるという異常な事態が起こる。その中で、長期政権を実現したのは小泉純一郎氏だ。「自民党をぶっ壊す」という発言は皆の度肝を抜いた。自らの政治基盤である自民党をぶっ壊すとはどういうことなのか。驚きとともに、何かをやってくれるかもしれないという期待感が高まったのである。従来の「日本的選挙」「日本的政治」「日本的経営」をぶっ壊して新たな社会を創るという姿勢に、方向はよくわからなくても多くの日本人が支持したのである。

現状をみてみよう。安倍政権が誕生して、円安株高のもとに日本経済は復活していくかの状況ができた。その前の民主党政権の失敗もあり、経済的に伸びる安倍自民政権に対しては、多くの人が安定・継続を望む雰囲気が生まれた。安倍政権が選挙で連勝し続ける基礎となっている。

しかし、イギリスのEU離脱の決定や中国経済の低迷による世界経済の不安、テロによる社会不安などが重なり、日本経済も行き詰まり感がでてきた。現状維持だけではだめだという雰囲気が急に大きくなっている。

東京都政をみてみると、舛添要一前知事の政治と金の問題がでてきたばかりでなく、どうやら東京都議会も大規模な改革が必要だということが分かってきた。日本も東京も順風だと思っていたのが、大きな改革が必要だという感覚が急速に強まっているのだ。現在の都知事選は社会が改革を志向する中で行われていることを把握することは大切だ。

現在、世論調査などでトップを走っているといわれるのは小池百合子氏だ。小池氏が最も改革・闘争的な雰囲気を醸し出していることも大きなプラス要因だと考えている。自民党は組織票を固めるために、推薦している増田氏以外の候補者を応援したら「除名などの処分対象になる」との文書を所属する国会議員や地方議員に配布した。議員本人だけでなく親族による応援も禁じる内容であった。これに対して、小池氏は徹底的に戦う姿勢を見せ、そうした古い体質を改革するというスタンスで臨んでいる。「改革」の方向性はよくは分からないが、とにかく改革する姿勢はアピールできている。小泉純一郎氏ほど、徹底したものではないにしても、今のところ改革派のイメージは強く付いた。これが今のところ、支持されていると思われる。

増田氏は「混迷に終止符」というのがスローガンだ。安定志向の時には非常に強く支持されるだろう。官僚出身で、自治体運営も経験していることは安定した政治を実現するのにはプラスだ。これは多くの人が認めるメリットだが、改革よりも現状維持というイメージがでてくる。東京都議会との関係はうまくいくのだろうが、古い体質を残すことにならないか、という疑問が出てくるのだ。当然のことながら、安定と改革は二者択一ではなく、どちらにより重点を置くかという割合の問題である。今の政治状況であれば、増田氏はもっと改革のイメージと政策をアピールする方がいいだろう。現状維持ではだめだという声が強い中では、どのような改革をしていくのか、が問われる。

鳥越氏は、野党の支援を受けていて、ジャーナリストという職業もあり、最も改革派としての期待があった。それが選挙戦の序盤では小池氏と競り合う支持を得ていたことに繋がる。しかし、現在の世論調査では、小池氏から離されつつあり、増田氏にも競り負けているという記事が多くなっている。もちろん、これには女性スキャンダルの記事が大きく影響していることは間違いない。それだけではない。安倍政権の「暴走」にストップというアピールは改革のイメージに結びつかないのだ。安倍政権に問題があるのであれば、それを止めるだけでなく、積極的に改革の狼煙をあげなければならない。日本を、東京をどう改革していくのか、という戦うイメージが必要だ。それが明確になれば、浮動票はまた戻ってくる可能性がある。がん検診は大切だ。これをさらに広げて「社会のガンを撲滅する」というようなスローガンにするなら、政治の腐敗などを社会のがんにみたてて、戦うイメージはできそうだ。

この他にも候補者はたくさんいる。上記の3人を脅かす程にはならないにしても、支持を伸ばしている人は改革のイメージを強く出している候補者だ。上杉隆氏やマック赤坂氏などは改革のイメージは強い。

これから投票日まではあまり時間がない。改革のイメージと政策をどれだけ有効に打ち出せるかが、最後の勝敗を決めそうだ。