イギリスはEUから離脱するのか~貧富の格差がもたらしたナショナリズム

離脱派がキャンペーン(写真:ロイター/アフロ)

イギリスがEUから離脱するかどうか。重要な国民投票は6月23日である。1週間を切った。残留派が優勢と伝えられて、接戦にはなるものの、まず現状維持であろうと思われていたが、この1ヶ月の間に離脱派が勢いを増した。ついに逆転し、支持の差を広げつつある。移民に対する感情的な反発もあり、このまま離脱派が逆転の勝利か、と思われたが、16日には残留派のジョー・コックス下院議員が銃で撃たれ死亡するという事件が起きた。まだ、この事件の詳細は報道されていない。こうした事件は、感情的には被害者の側にプラスに働くことが多い。殺人の理由がはっきりする必要があるが、この事件がEUからの離脱の国民投票と関連しているなら、浮動票が残留に流れる可能性が高い。最後の最後まで読めない国民投票となりそうだ。

この国民投票での論点は主として3つ。まずは経済への影響だ。イギリスの産業は弱体化している。その中で群を抜いて強いのが金融業だ。ロンドンは世界の金融市場の中心的役割を担っている。イギリスがEUに加盟していることによって、金融機関はロンドンに拠点を置けば、EU内の国々で許認可を求められることなく、自由なビジネス展開ができる。こうした自由なビジネス展開に規制がかかる可能性がある。ただ、EUに加盟していることによってこれから導入される予定の金融取引税などがかかる。EU離脱がすべて金融業界にマイナスというわけでもない。製造業は弱体化しているもののEU市場をにらんだ外資系企業が活動をしている。日本からもトヨタや日産など自動車工場が進出している。EUを離脱すると、made in UKには関税がかかることになる。イギリスでの生産の優位性が揺らぐ。すぐには撤退しないものの、投資は減る可能性が高い。

もう一つのポイントは移民・難民の問題だ。EU加盟国は難民受け入れを拒否できないし、移民に関してもよほどのことがなければ受け入れ拒否ができない。イギリスは社会保障の制度も優れたほうになり、移民・難民の移住希望も多い。イギリスには移民・難民が非常に多く移住してきている。彼らが争うのは労働者階級の人々だ。低賃金でも働く移民・難民はイギリスの労働者階級の人にとってみれば仕事を奪う人と映る。またイギリスの社会保障制度によって移民・難民が社会保障を受けているのを見ると「気に食わない」と感じる人もいる。それに加えて、最近はテロの恐怖もあり、「移民・難民、お断り」というムードがある。

最後のポイントは、EUに加盟していると、ギリシャなど「オニモツ」の国の支援もしなければならない。これが嫌だと思う人は少なくない。また環境対策や共通農業規制など、イギリスだけで決めることができない規制がでてくる。

こうしたポイントについて、富める人と貧しい人との間で明確な意見の差が出てくる。イギリスの国の貿易などにおいては富める人はEU内での自由貿易が必要だが、貧しい人にとってそうした大きな経済問題には関心がない。そもそも金を持っていないのだから、EUに留まろうと出ようと関係ないと考えているのだ。失うものがある人はEUに残るべきだと考えるが、失うものがない人にとってはどうでもいいことだ。それよりも、現実に自分の職を奪っているように見える外国人を規制する方がいいと思うのだ。

イギリスは金融立国となった。貧富の差が激しくなり、一部の非常に豊かな金持ちと多くの貧乏な労働者に分かれた。マルクスは製造業でこの貧富の差が起こると予測したが、実際には金融資本主義でこの貧富の二極化がおきている。総じて言えば、金持ち層はイギリスがEUに残ってビジネスをすべきだと考え、貧困層はイギリスはEUから離脱して「イギリス的」社会に戻すべきだと考えている。労働者階級ナショナリズムが生まれつつある。これに火がついたら今では後者のほうが多数となっている。一気に流れができつつあるのだ。

こうしたことから、私は最後にはEU離脱派が勝利すると考えていた。しかし、ここにきて残留派議員が殺害されるという事件が起きた。今後の展開によっては、また残留派が盛り返す可能性もある。結局は、大接戦になる可能性がある。

日本がとやかくできる話ではないので、結果を見守るしかない。問題はイギリスがEU離脱を決めた時だ。イギリスがヨーロッパ中心主義ではない道を選択したとき、アメリカ・日本を中心とした関係を強めるのか、中国との関係を強めるのか。イギリスは香港との関係から、金融業では香港との関係が強い。アジアインフラ投資銀行にヨーロッパから最初に加盟を決めたのはイギリスであった。イギリスは外交で世界を渡り歩いてきたしたたかな国でもある。どういう方向性を打ち出すのか。イギリス・インド・日本というトライアングルの関係強化の可能性もある。

イギリスにとっても世界にとってもイギリスのEU離脱問題は、どう転んでもリスクとチャンスが共存するわかりにくい状況となりそうだ。