マーシャル諸島の核実験被害~核の連鎖を人間の連鎖が超えるために

 放射線による被害は広島・長崎の原爆被害にとどまるものではありません。これまで多くの核実験が行われてきました。また原子力発電所などの事故も起こってきました。その都度、放射線による被害が起こってきました。これらは過小評価される傾向がありますが、各々のケースをみてみると非常に悲惨な状況となっているところがあります。しかもほとんど注目もされず、治療もされず、支援もない、というところが多くあります。そうした「見捨てられた被曝者」の被害と苦しみを明らかにしていくことも「核時代」の実態を総合的に捉える上で重要な活動です。

 4月2日に東京大学駒場キャンパスにて、参加型シンポジウム 「福島・マーシャル・タヒチ 核被害者と考える民主主義」が開催されました。主催はピースボート、共催は 東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム (HSP)、同研究科グローバル地域研究機構持続的平和研究センター (RCSP)、同研究科グローバル地域研究機構持続的開発研究センター (RCSD)、特定非営利活動法人「人間の安全保障」フォーラム(HSF)でした。

 太平洋においては、巨大で汚い核実験が非常にたくさん行われてきました。広大な太平洋の中の小さな島で被曝した人々は、核実験と放射線被害についての正確な情報や知識を得ることもできず、世界の多くの人から知られることなく、アメリカの政策・方針に振り回されながら密かに苦しんできました。彼らはどのような生活をしており、どのような課題を抱えており、どのような展望を持っているのか、持ちうるのか。

 このシンポジウムには、マーシャル諸島など太平洋の島々からもスピーカーとして来てくださっていました。ミシェル・アラキノ/Michel Arakino さんは、フランス領ポリネシア地域でフランスによる核実験が行われた際、労働者として核実験場で働いた労働者です。作業場所はモルロア環礁近くのレアレ環礁で生まれました。モルロアとファンガタウファの核実験場でダイバーとして17年間、珊瑚の海底に実験装置の配置や放射能分析のためのサンプルの準備をしました。徐々に核実験の被害の実態を知るようになり、現在は核の使用に反対の運動に関わっています。彼は核実験はそこに住む人に甚大な放射線被害を与えたこととともに、海の環境、珊瑚礁なども大きく破壊してしまったことを目撃しました。

 デズモンド・デューラトラム /Desmond Doulatram さんは、67回の核実験が行われたマーシャル諸島に暮らし、核実験の破壊的な影響を見てきました。彼は、大統領府の環境企画政策室で気候変動政策を担当し、その後、地元の高校で教鞭もとってきました。現在はマーシャル諸島にて『マーシャル群島における放射能の影響を人類に伝達する運動(REACH-MI)』などNGOの活動に関わっています。いかに、隠れた被害を世界の人に伝え、世界の人と繋がることができるのかが課題だといいます。「核の連鎖に人間の連鎖が勝てるのか。」ヒロシマの活動家であった故森滝市郎氏の言葉です。まさにここに課題が集約されそうです。

 ブルック・タカラ/Brooke Takalaさんは、アメリカ生まれ、アメリカ育ちですが、2006年にマーシャル諸島共和国に移住してきました。今もそこで暮らしています。彼女の母親は幼い頃にカリフォルニアで行われた放射線の人体実験に知らずに参加したことから、癌を患い他界します。また義理の両親も核実験の影響による健康被害で亡くなっています。こうした核による被害者の現状を明らかにすることとともにそうした被害者を作らないために、NGO 「Elimondik」を設立しています。活動家であり、研究者でもあります。

 このシンポジウムを聞きながら、私は、活動の原点として、悲惨な部分の紹介だけでなく、マーシャル諸島の「誇り」とこれからの「明るい」「展望」についても考えていくことの大切さを感じました。素晴らしい太平洋の島々の環境を誇り、守り、そして新たな展望を築くことも重要です。核の被害という非常に重く、暗い課題に向かいながら、それを超える人間の連鎖と自然と文化の素晴らしさをもとに新たな展望を構想していかなければなりません。