リオ・オリンピック前の政治混乱の可能性~苦悩するブラジル

(写真:アフロ)

 今年はリオ・オリンピックの年。いつもなら開催国は盛り上がりつつある時期ですが、今回のブラジルはちょっと状況が異なるようです。いくつもの問題が重なって、オリンピックに浮かれているような余裕が消えてしまっています。

 最も重要な要素は経済の低迷です。ブラジルはBRICS(あるいはBRICs)の一角をなし、未来の主役の国としてもてはやされました。実際に高い経済成長率を誇り、その勢いからワールドカップ、オリンピックと次々と国際的ビッグイベントの誘致に成功し、前途洋々といったところでした。これを支えたのは中国の経済成長です。ブラジルは中国での需要の拡大を背景に、資源を売り込み、途上国の経済成長のシンボルとして台頭しました。3~4年前までは経済には素晴らしい勢いがありました。悪かった治安も徐々に改善し、広大な領土、2億人の人口、アマゾンを持つ豊かな自然、原油・天然ガスもある豊富な資源を持つ国として、世界が注目しました。

 しかし、中国の経済が停滞し始めると、ブラジルの資源の需要も衰え、ブラジルの経済は一気に悪化します。中国よりもブラジルの方が直接的には深刻な危機を迎えています。景気が良かったものですから、公共投資も行いましたが、その状態で景気が悪くなると、税収が減り、結局、収支のバランスが崩れてしまいました。医療、福祉、教育など、国民生活に直接的に関わる分野での資金が足らなくなりました。その不満が、ワールドカップやオリンピックに向けられることになったのです。

 施設はかなり完成しているようなので、開催がなくなることはまずないでしょう。しかし、国民の不満からオリンピック前の反対デモや反政府集会などが開かれそうです。ワールドカップの前にも抗議デモや集会は開かれました。しかし今年の経済状況は2年前の時とは比較にならないほどひどくなっています。国民の生活はその時よりも悪化しています。しかもワールドカップはブラジルのお家芸のサッカー。ブラジルでは明らかにオリンピックよりもワールドカップの方が盛り上がります。

 今回のオリンピックに際して中南米での「ジカ熱」(ジカウイルス病)の感染拡大も懸念される要因としてでてきました。ジカ熱自体は、感染しても 症状がないか、症状が軽いため気付きにくいくらいのもののようですが、妊娠中のジカウイルス感染と胎児の小頭症に関連がみられるということで、世界的に注目されているのです。ブラジルは多くの観光資源も持っていますから、オリンピックを契機に売り込みたいところですが、これもジカ熱との関係で、限定的なものになりそうです。しかも蚊の駆除などで特別予算が必要になり、それでなくても厳しい予算がさらに厳しくなっています。

 こうした国家的な苦境は、政治の混乱も招きます。ルセフ大統領の支持率は8%にまで落ち込みました。ほとんど支持されていない状況です。

 汚職問題も支持率を下げている大きな要因です。ブラジル警察は2月22日にルセフ大統領の選挙参謀に対する逮捕令状を取ったと発表しました。与党・労働者党の選挙参謀、ジョアン・サンターナ氏に対する捜査は、国営石油会社ペトロブラス(PETR4.SA)を巻き込む巨大汚職疑惑捜査の一環です。これがブラジルを揺らがすまでの大事件になっています。サンターナ氏は、建設会社幹部や与党上院議員と共謀し、ペトロブラスとの請負契約金を水増しして賄賂資金を捻出した疑いがあるといいます。これはルセフ大統領には大打撃です。2014年に再選を果たした大統領選の選挙資金に流れた可能性が明らかになると、支持率低下だけではすまされず、大統領弾劾裁判にまで発展しかねません。こうなるとオリンピックどころではなくなります。

 オリンピックの前は海外からのメディアがやってきます。デモや集会に対して手荒なことはできないのです。一気に反政府運動が高まり、ルセフ大統領の辞任を迫るということさえ、シナリオの一つには考えなければなりません。

 私は、政局を楽観しできないと考えています。ワールドカップ時とは比較にならないほど状況は悪く、この半年でさらに悪化することが予想されます。外国資本はブラジルを避け、むしろ資金を引き上げる傾向にあります。今でも中国頼みの構造は変わらないようで、中国はペトロブラスに100億ドルの融資を約束しています。インフラへの投資も約束しています。それが本当にやってくるのかどうか。中国経済も悪化する中で、中国にとってもそうした投資は今はあまり意味がないのです。もし予定通りに融資がこなければ、ブラジルはオリンピックを前に、経済と政治の混乱に巻き込まれる可能性があります。オリンピックがどうなるか。いつもとは別の視点からも注目しなければなりません。