ドイツはヨーロッパの優等生。経済においても外交においてもヨーロッパのリーダーとして活躍してきました。その中心にいるのがメルケル首相です。2015年秋にフォーブス誌が発表した「世界で最も影響力のある人物ランキング」でロシアのプーチン大統領に次いで2位にランクされています。つまり、世界で最も影響力のある女性といえる人です。メルケル首相は28カ国が加盟する欧州連合のまとめ役を務め、まさに順風満帆というところでした。時期国連事務総長の候補として推す人も少なくありません。素晴らしい評価を受けてきたドイツ、そしてメルケル首相ですが、最近は状況が変わってきています。

日刊紙ビルト紙が世論調査会社INSAに委託した調査で、ドイツのメルケル首相(キリスト教民主同盟)率いる、保守大連立政権の支持率が2.5%下がり、2013年9月の総選挙以来最低水準の32.5%になったことが報じられています。 国内外からの高い評価・支持があったのですが、向かい風が吹いてきています。

まずなんといっても重要なのが、難民・移民の受け入れ問題です。メルケル首相は、これまでは難民の受け入れに前向きでした。昨年に難民問題がクローズアップされた時も、メルケル首相は、ハンガリーで足止めを食っていたシリアやイラクなどからの難民を、ドイツに受け入れることを発表しました。難民の人権を考える責任ある国でありたいということと、ドイツにとっても将来の有力な労働力となるという視点、つまり明日の希望の存在として、受け入れを表明しました。しかし、難民・移民の流れは止まりません。ドイツ国内でも難民のさらなる受け入れに反発もでてきました。悪いことに、ケルンで昨年の大晦日に、560人以上の女性が大勢の男に取り囲まれ、性的暴行や窃盗などの650件以上の被害がありました。その容疑者の半数以上がアルジェリアやモロッコなどの難民であったこともあり、難民・移民に対しての批判の声が高まったのです。メルケル首相も方向を軌道修正しつつあり、難民・移民の受け入れを抑制するように動いています。しかし、これまで前向きな姿勢をとってきたメルケル首相に対する反発は強いのです。

フォルクスワーゲンの排ガス規制逃れはドイツの産業界や政界を揺るがしています。まだ決定的な打撃にはなっていませんが、今年は大幅な売上の減少とリコールにかかる費用の負担、賠償金などがかかると予想されます。フォルクスワーゲンはドイツ最大の自動車メーカーです。ドイツの屋台骨を支えてきた優良企業です。雇用も最大級で国内の雇用者数は27万人を超え、部品納入業者も加えればさらに多くなります。その大企業が揺らぐとドイツの経済も揺らぎます。ドイツにとってはギリシャの混乱よりもはるかに大きな打撃になりそうです。フォルクスワーゲンによる経済問題が顕在化するのは今年です。メルケル人気も好調なドイツ経済があってのこと。一気に風向きは変わります。

フォルクスワーゲンも含めて、ドイツは中国依存度を高めてきました。メルケル首相の中国への肩入れは不自然なほど強くありました。メルケル首相は頻繁に中国に行き、大きな商談をまとめてきました。日本とドイツは戦前も、「戦中」も、戦後も関係が深かったのですが、メルケル首相は中国をアジアの最重要パートナーとして位置づけてきました。フォルクスワーンも世界で3台に1台は中国に販売している状態です。この中国依存の体質が、中国経済が失速する中で裏目に出つつあります。中国の車の販売も伸び悩むようになりました。また世界の工場としての機能も人件費等のアップから優位性を失いつつあります。中国の景気の低迷は、ドイツ経済にも打撃を与えることになります。

ヨーロッパの中心国として影響力を高めたドイツ、そしてそのリーダーとして国内外からの賞賛を受けていたメルケル首相。一気に変わる環境に戸惑いを隠すことはできません。メルケル首相の退陣を求める声も高まっています。経済の減速があると、おそらくこの批判に耐えれないのではないかと思っています。伊勢志摩サミットまでメルケル首相が在任することができるかどうか。そうとうに危ない状況です。

これはヨーロッパにも大きな影響を与えます。ギリシャ問題のようなときに、強いドイツと強いメルケル氏がいたから、なんとかまとまったのです。自己犠牲も惜しまないドイツ・メルケル首相。だからこそ、ユーロはなんとか持ちこたえました。イギリスではできなかったことです。今、ドイツとメルケル首相に難題がふりかかっています。強いリーダーシップを持っていたメルケル首相が退陣となれば、ユーロ経済に与える影響も大きいのです。

難民、VW不正問題、中国経済低迷の3重苦の打撃には、さすがのメルケル首相も 耐え切れないように思います。