羽生さんの奇跡のスケーティング~東日本大震災を乗り越えた強さと、被災者を思う優しさ

羽生結弦さんの滑りには鬼気迫るものを感じました。彼は自分のために滑っているのではないのでしょう。人のために滑るからこそ生まれた奇跡だと思います。

フィギュアスケートGP第3戦「中国杯」で男子ショートプログラムで2位だった男子の羽生結弦さんは、フリープログラムでも2位となり、合計でも2位となりました。この大会は腰痛で鎮痛剤を打ちながらの強行出場であり、それだけでも大変なことでした。ショートプログラムでの不振を取り返そうと臨むフリーでしたが、直前の公式練習で中国の選手と衝突しました。すごいスピードで不意にぶつかっていますから、大きなダメージを受けました。流血し、意識も朦朧としている様が映像に映し出されました。

このとんでもないようなアクシデントを乗り越えての2位は奇跡といっていいでしょう。オリンピックの金メダルよりも価値があるかもしれないくらいです。負傷した頭に包帯を巻いた姿は、いつも爽やかな美男スケーターのイメージを大きく変えるものでした。痛々しいくらいです。それでもなりふり構わず彼は演技をしました。ジャンプで5度も転倒しても、その度に立ち上がり、最後まで演じました。途中でリタイアしても誰も批判する人はいないでしょう。しかしそれでも彼は滑りきったのです。演技を終え、涙を流す羽生さんの姿。誰もが感動しました。

脳震とうを起こしていた可能性が高い状況ですから、滑るべきではなかったという声も強くあります。その通りとも思います。アスリートは選手生命の命取りになるようなことをしてはならないのです。怪我をしたらその治療を優先すべきです。日本の根性論はアスリートをダメにしてしまうことも多々あります。脳震とうを起こしたら絶対安静、というのが常識のようですから、羽生さんは滑るべきではなかったというのが正解だとは思います。

これは彼も十分に認識していたことでしょう。それでも彼は滑った。

彼を決断させたのは、東日本大震災の体験でしょう。震災の瞬間、羽生さんは地元・仙台のスケートリンクで練習していて、死ぬかも知れないという恐怖を感じたといいます。多くの被災者が苦しむ中、スケートを続けていいのかと悩んだといいます。スケートをやめることなく、オリンピックの金メダルを獲得した羽生さん。金メダルを獲得した後も、「被災地のことを忘れないでほしいという思いを伝えるために、これからも滑り続けるつもりです」と言っています。

羽生さんは普通のアスリートの殻を超えているのでしょう。あの震災で苦しんだ人の思いを受けて、彼は演技しているのではないか。不意のアクシデントにも負けずに、滑りきった裏には東日本大震災を乗り越えた彼の強さと、被災者を思う彼の優しさがあるように思います。素晴らしいと思います。