菅直人元首相、原発事故をめぐるメールマガジン記事で、安倍首相を提訴

 菅直人元首相が、東京電力福島第1原発事故を巡り安倍晋三首相が2011年に配信したメールマガジンで「菅総理の海水注入はでっち上げ」などと批判され名誉を傷つけられたとして、記事の削除や約1100万円の慰謝料の支払いなどを求め、東京地裁に提訴しました。菅元首相は、安倍首相からこの提訴に関して対応コメントがないことを理由に「安倍総理はまともに答えられないので黙っているのだと思う」と7月17日(2013年)のブログに書いています。

 まず、今は選挙の真っ最中。公示に入ったというか、選挙戦も最終コーナーになっている段階。あと数日で投票日という時に、提訴し、それへの返答がない、というのもかなり無理があります。安倍首相本人のことであれば、状況によっては意味があるかもしれませんが、今回の件は、菅元首相の「名誉」に関するもの。しかも、2年も前のメールマガジンの記事ということになれば、なぜ今でなければならないのか、という疑問がでます。

 菅元首相の海水注入に関する記事は、マスコミも多く取り上げました。安倍氏だけが菅首相(当時)の責任問題を取り上げたのではありません。情報が混乱しているということは確かです。東電も、官邸も混乱していて、誰が何を知っていて、どういう指示を出したのか、ということはいまだに分からないところがあります。

 事故調の報告書の261ページに配下のように記されています。

「1号機への海水注入が開始されてから約20分がたったころ、武黒フェローは吉田所長からの電話で海水注入が始まったことを知ったが、官邸で海水注入のリスクについて検討が進められていたため、吉田所長に対して海水注入をいったん待つよう指示した。これは、菅総理や官邸内からの指示ではなく、武黒フェローが、リスクについて検討中であった官邸との関係をおもんぱかり、『最高責任者である総理の御理解を得て進めるということは重要だ』と考えて、独断で指示をしたものである。約3時間前の15時20分にはファクスで官邸を含む関係各所に海水注入の意向が伝えられ、17時55分には海江田経産大臣から海水注入命令が官邸で行われていたわけであるから、吉田所長から海水注入開始の報告を受けた武黒フェローは、その事実をそのまま官邸へ伝えるべきであった。武黒フェローの指示は合理性がなく、結果として、その後の指揮命令系統の混乱を招いた。

この時、官邸では、菅総理が淡水から海水に切り替えると『再臨界』の恐れがあるのではないかとの疑問を抱いていたため、班目委員長が中心となってその解消に腐心していた。菅総理は、既に海水注入が始まっていたことを知らなかったために時間があると思って慎重に確認したものと考えられるが、技術的には無駄な議論であった。」

 少なくとも、官邸と東電、吉田所長のいる現場とのコミュニケーションに大きな問題があったことは確かです。これはかなり実質的な問題となったと考えられます。そしてその要因として関係者があげているのは菅元首相が「怒り続けて」冷静なコミュニケーションが取れなかったことです。またこのやりとりからは、菅元首相が海水注入を主導したとは考えられません。

 確かに吉田所長の判断によって海水注入は止められていなかったですし、菅首相自らが海水注入を止める指示を出したこともなかったようです。しかし、官邸内での情報不足やコミュニケーション不足によってスムーズな対応はできていなかったことも確かのようです。その当時の情報から推察すれば、官邸の判断に大きな問題があったと考えても不思議ではない状態です。

 菅元首相が安倍首相にメルマガで、修正記事を書くよう要請するのは当然です。当時の情報には混乱がありましたから、当時の状況がより明確になった今の情報をもとに、安倍首相も新たに分析をする必要はあります。しかし、選挙の最中に提訴するべきものかどうか。

 原発事故は選挙の駆け引きに使うような軽いものではありません。歴史を変えるくらい重要なものです。選挙数日前に提訴し、すぐに返答がないから批判する、というスタイルはなかなか理解しがたいものです。

 事故の当時、本当に何があったのか。どういうやりとりがあったのか。真実の解明にはまだ時間がかかると思っています。東電や政治家、官僚の当事者はまだ現役の人も多いのです。彼らが現役を退いたころ、また新たな証言が出るのかもしれません。

 いずれにしても、今回の提訴には驚かされました。名誉回復にしてももっと違うやり方があるのではないか。選挙が終わってから、政治的な思惑を疑われることなく、真実を明らかにするという姿勢をとるべきではなかったのか、と思います。重要な原発を巡るやりとりの解明が、選挙に使われるようで、残念です。