日銀黒田総裁の大胆な金融緩和政策~日本はルビコン川を越えた

黒田東彦日銀総裁の就任は、アベノミクスの目玉の一つです。その黒田東彦総裁が就任後初の政策決定を下しました。大胆な金融緩和政策を打ち出しました。株式市場は好感し、国債市場でも、国債が買い進まれて価格が上昇、10年物の利回り(長期金利)は史上最低水準を更新しています。この大胆な黒田日銀政策には当然、賛否両論があります。否定的なものはそのいわゆる副作用を懸念するものです。

基本的な政策は、日銀が供給する資金の量を2年で倍増させるというもの。つまり、日銀が金融機関から国債などを大量に買うというものです。日銀が買い取ると、市場に流通するお金は増えていきます。貨幣価値は下がり、インフレ基調になると予想されます。円安が進み、輸出が伸び、株式が上がる、というのがアベノミクスのプランニング。しかし、金利も上昇しますから、国や自治体の借金も急速に膨らみます。税収の増加を上回れば、機能不全に陥ることも考えられます。一種の金融バブルを人為的に起こすようなものなので、実体が伴わなくなれば、円の信用は薄れ、経済が混乱に陥る可能性も否定できません。アベノミクスの好調な展開がどこまで続くのか、多くの人が見守っているのです。黒田日銀の政策は、今の段階では「ありうる政策」と思います。私もこれだけ国と自治体の借金が増えて閉塞感のある経済状況では、大胆な金融政策をすべきだと主張してきました。ただ、これは大きなリスクを同時に抱えることになります。

金融政策だけで現状を突破できない、ということを私たちはもう一度確認する必要があります。黒田日銀の金融緩和策はいわばカンフル剤。これを永遠に続ければ、日本経済が蘇る、というほど単純なものではありません。金融緩和策によって、円安・株高が誘導される中で、同時に、総合的な日本再生政策が展開され、国際社会の中における日本の実体経済の成長が実現されなければ、リスクが現実化し、日本はさらに厳しい状況に追い込まれる危険性はあるのです。まずは1)国際戦略です。この失われた20年の間に、日本企業は世界の市場の支配権を次々と失いました。市場の支配権とは市場の占有率のことだけではありません。その市場のスタンダードを作り、リードしていく力です。家電市場で総崩れ、携帯市場で総崩れ、IT市場で総崩れ。日本の企業の技術は今でも世界のトップクラスながら、マーケティング、ソフト力、情報発信力、ネットワーク力で負け続けているのです。世界に先駆けた戦略とそれを世界で実践するソフトパワーを展開しなければなりません。

重なりますが、2)情報戦略も大切な部分です。日本は、先進国で数少ないというか唯一の海外への発信メディアがない国といっていいでしょう。NHKの衛星放送があるくらいです。でもその衛星放送を一体どのくらいの人が見ているのか。読売新聞の発行部数は1000万部で、世界でのトップです。ではDaily Youmiuriはどのくらいの外国人が本当に読んでいるのか。つまり日本からの情報発信はほとんどを海外のメディアに頼っているのです。自分から自分を表現できない国なのです。幸いに、こうした状況にありながら、日本文化に対する世界の関心は高まっています。それだけ魅力のあるものを持っているのです。日本の文化、日本の製品、日本の社会システムを世界に発信する力をつけることが必要です。

これらを実践するには3)日本人の語学力の向上は不可欠です。今でも高校入試、大学入試ではキーとなるのは英語力。ですから日本人の多くは、英語を長年にわたり勉強します。しかし、それでも話せない。これは英語教育の方法の問題です。音読を取り入れた実践的な外国語教育を行い、使える語学力をつけることは日本が世界で活躍するための必須条件。やればいいだけなのですが。。。

4)挑戦意欲を持った人材の育成も重要です。この20年の間に、若者の気質も大きく変化をしました。一言で言えば、「守りの気質」です。何か挑戦をしてやろう、という若者は少なくなり、安定志向が顕著になりました。これから社会が大きく変わろうという時には、この「守りの気質」では新たな展開は拓けません。

そして、日本の企業も社会も、5)時代の急速な流れについていける迅速な意思決定システムをつくることも大切なポイントです。政治もだらだらと遅いのですが、企業も遅い。日本型の大企業システムは、誰にも決定権を与えず、大きな事業の方向をつけるのに長い時間を要します。韓国のサムソンが次々と決断を下し、世界をリードしたのと対照的に、日本の企業は後手に回りました。アメリカがTPPでしかけてくるのに、日本は後手の後手に回り、結局は受け身の状態。その状態での意思決定さえ今なお明確にはできない状態です。円安で株価が上がろうとも、この状態ではチャンスを活かすことができません。チャンスを活かせなければやがてくるリスクだけが残るのです。

このように考えると、金融緩和策の是非を問うのは、それだけでは無理で、他の総合的な政策と一緒に効果をあげることができるか否かにかかっていることがわかります。それだけの展開をアベノミクスは備えているのか。今のところそのようなものは見えてきません。いかにつくるのか、にこれからの日本の将来がかかっています。黒田日銀の大胆な金融緩和策によって、日本はすでにルビコン川を越えました。天国のシナリオも地獄のシナリオもどちらもありえます。総合的な日本の改革が求められています。