アベノミクスによる円安誘導策は功を奏しています。日経平均は先週末までに週間ベースで12週連続で上昇しています。「岩戸景気」のさなかの1958年12月~59年4月の17週連続に次ぐ54年ぶりの記録といいます。実際にまだ、アベノミクスが本格的に動いているわけではなく、「今から動くぞ」という宣伝効果で、こうした現象が起きています。私は、円はこれまで高すぎる相場で動いてきたと考えています。つまり心理的な変化をもたらす政策があれば、1ドル=100円程度にはなるし、それはかなり持続すると思っています。安倍首相は金融緩和策をアベノミクスの中心に据えていますから、また円高に戻りかけることがあっても、大きな動きとならず、長期にわたっての円安が進むと考えています。

 非常に日本経済に効果がある円安ですが、円安が進むと、「喜ぶ人もいれば、困る人もいる」といういい方が出てきます。つまり功罪相半ば論が出てくるのです。しかしこれは日本の産業構造をみれば、円安は全体としては日本経済にプラスの効果をもたらすと思います。決して相半ばではなく、プラス、です。輸入品が安くなっても、それを買うお金がないなら、結局デフレ経済になり、厳しくなるのです。それまでの蓄積で生活するならデフレは決して悪い話ではないかもしれませんが、今、稼ぐお金が少なくなれば、安いものでも買えなくなります。あるいは安いものしか買えなくなります。これが牛丼などの安売り競争を起こしましたが、これで日本経済が良くなることはありません。輸出産業が活気づき、食材でも国産ものが競争力を増し、日本の産業が蘇ってこそ、高くなっても海外からのものを買うことができるのです。

 とはいえ、産業によっては、困るところもでます。少なくとも短期的には大きな赤字を計上しなければならないところもでます。ちょっと整理してみましょう。

 まずは、原油や天然ガスなど化石燃料系です。これらはほぼ100%輸入に頼っていますから、明らかに値上がりします。電力会社は厳しい状況に置かれます。これまでは、円安になればほぼ自動的に価格に反映することができました。円高でも円安でも損することはない設定になっていたのですが、原発事故から電力会社への風当たりは強く、簡単に値上げができない状況が生まれています。原発のほとんどが止まっている中で、化石燃料に頼る部分は大きくなっており、円安は収益に直接的に響きます。最近の「エコ」意識によって、経済が良くなっても電気の使用量はそれほど増えないかも知れません。企業もかなり省エネ努力をしました。電力会社はほぼ確実に損を被る側になりそうです。ガソリンスタンドなども厳しくなります。1リッターが170円、180円となると、さらに省エネカーへの移行が進みます。ガソリンの使用量は減る傾向にありますが、これに拍車がかかります。航空会社も燃料費のアップがあり、かなり打撃を受けます。ただ、短期的には厳しくなりますが、時間がたてば、経済の活性化によって飛行機を使った出張や旅行も増える可能性があります。

 食事関係の業界も打撃を受けるところがあります。チェーン店の多くはかなりの食材を輸入物に頼っています。円安は仕入れ価格をあげることになります。ただ、これまで、安く食材を買えても、提供価格も価格競争に入ってきました。結局、それほど儲けにはつながっていないのです。円安によって、景気が回復するなら、食材価格の高騰は吸収できると思います。

 農業や畜産業、水産業にも影響はあります。農業の肥料はかなり輸入の資源に頼っています。円安はこうした費用の増大につながります。畜産業では、家畜の飼料はほとんどといっていいほど輸入に頼っています。飼料価格の高騰は必要経費を着実に上げます。水産業においても、船の燃料価格が上がりますから、厳しくなります。とはいえ、これらは、海外からの輸入物に対しての価格的優位性を持ちます。実際に、円高であったこの20年にこうした産業は潤ったでしょうか。衰退の一途になったのです。全体としてこの産業では円安の方がいい効果になると思います。また金回りが良くならなければ、高い国産牛などの消費はのびません。松阪牛は、デフレ時代には苦戦するのは当然。インフレ時代にまたブランド力を高めるのです。

 100円ショップが意外と苦戦しそうです。100円(105円)と価格を決めていますから、原材料の価格が上がれば、卸値も上がり、利潤は少なくなります。あれだけ安く提供するには、中国やアジアで安く作り、それを大量に売るという戦略しかありませんでした。しかし、卸値が高くなれば、100円でやっていけるのかどうか、ということにつながります。景気が回復すれば、100円ショップ離れも起きるかもしれません。150円ショップなどに一気に変わるかもしれません。インフレ時代にはそれが正しい選択肢と思います。

 このように見てくると、業種によってかなり影響が異なります。課題は、円安になたから、有利不利というだけでなく、それが日本の実体経済を回復させるところまでいくかどうか、です。輸出産業が短期的に黒字をあげても、実体経済を改善することがなければ、一時的な景気回復に終わってしまいます。実体経済を回復させるために何ができるのか、何が必要なのか。円安はそのためのチャンスでしかありません。