インドにおける新型コロナ・ウィルスの感染拡大(第二波)に関する報道が過熱している状況下、インド国内における感染率は急速に低下の一途をたどっている。

 首都デリーでは、4月下旬のピーク時には、一日で2万8千人の感染者数が見られ、医療施設がパンク状態に陥り、酸素ボンベや病床の不足から街中が騒然となったというニュースが印象に残る。私も含め、多くの方々が心を痛める報道だった。

 しかし、5月31日の新規感染者数は648人と報道され、ピーク時に比べると急激な減少を迎えることとなった(ピーク時の40分の1程度)。全国的にみても、5月6日にピークを迎えた際には41万人を超える新規感染者が出ていると報道されたが、現在では12万人ほどまで減少している。

【ニュース記事NHK「インド 首都ニューデリーは感染者減少:外出制限を段階的緩和へ」2021/05/31】

 一方で、日本国内では「インド株」というネーミングも相まって、「インドはコロナでヤバい危険な国」というイメージが定着、南アジア周辺諸国からの帰国者や、国内のインド系移民の方々に対する警戒心が高まっている状況が見てとれる。「インド」がコロナの代名詞のように語られてしまっていることが、残念でならない。

 こうした報道による国家イメージの固定化という現象は、今までにもあった。特に2010年初頭にメディアを騒がせた一連の「レイプ関連」の報道だ。私の所見では、残虐なレイプ事件をきっかけに、インド国内でレイプ撲滅運動や女性蔑視的な感覚を是正するような法整備や世論の高まりに伴って、国内メディアがレイプ関連ニュースを取り上げるようになり、それが世界でそのまま垂れ流されるようになったことから、インド=レイプ大国というイメージが定着したのではないかと考えている。実際には、世界的にみてインドにおけるレイプ犯罪の発生率はずっと少ない方であり、メディアの偏向報道に近い取扱を受けたと捉えられてもおかしくない。

Rape Statistics By Country 2021(国別レイプ事件発生率2021)の統計データからは、発生率の高さから考えたときに遥かに下位に属することがわかる。

民間レベルでの酸素ボンベの供給作業が急ピッチで進められている
民間レベルでの酸素ボンベの供給作業が急ピッチで進められている写真:ロイター/アフロ

 そこで一つ提案したいのは、「インド株」という名称をやめませんか?ということだ。5月31日には、WHOが新型ウィルスの変異株に関してギリシャ文字のアルファベットで統一しようという発表を行った。これまで、二重変異株が「発見」された場所に因んで「インド株」と名付けられたが、これはどこでも起こりうることであり、インド国家やインドに生活する人々に特別の意図や、災厄につながるような原因があったわけではない。こうしたパンデミックにまつわるイタチごっこは、グローバルに展開しうるものであり、特定のナショナルな枠組みにとどまるものではない。

 さてWHOでは、インドで最初に確認された「懸念される変異株VOC」としての認定が継続される「B.1.617.2」系統の変異株に関し、「デルタ株」と命名することを発表した。また、インドで確認されたもう一つの亜系統「B.1.617.1」に関しては、「注目すべき変異株(VOI)」として認定しつつ「カッパ株」と呼ぶことを提示している。

 日本における報道で問題とされているのはVOCの二重変異株のことであることが多い。これに従って、ぜひ報道関係者の皆様には、「インド株」ではなく、「デルタ株」の名称を使用していただきたいと考えている。WHOの今回の措置は、国名と特定のウィルスを結びつけることによる「偏見の助長」に対する対処であることも、心に留めておかなければならない。また、インド政府からも、SNS各社に対し「コロナウイルスの『インド変異株』と名指ししたり、言及したり、ほのめかしたりするコンテンツを全て、プラットフォームから直ちに削除」するような指示が出ているという報道がなされた。

【Time紙 "India Is Demanding Social Media Remove References to the ‘Indian Variant’ of COVID-19." 2021/05/26】

【ニュース記事BBC NEWS「インド政府、SNS各社に「インド型変異株」言及のコンテンツ削除を命令」2021/05/21】

 このことは、「インド株」にとどまらず、イギリスやブラジルに関しても同様である。言わずもがなだが、今回のパンデミックは「世界史」的な問題としてグローバルな現象として捉えるべきものであり、ナショナルな枠組みで考えることにはあまり意味がない。イメージの固定化につながるような表現にはセンシティブでいたいものである。

※本記事はシリーズ化されます。次回はインドの首都デリーでの現状を現地に住む日本人にお聞きした内容を中心に紹介し、具体的な現状の把握につながる内容になります。