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他社の中古車両の活用で重くのしかかる「整備費問題」 いすみ鉄道のキハ28引退

小林拓矢フリーライター
いすみ鉄道のキハ28形(写真:イメージマート)

 地方の鉄道では、古くなった車両を他社から譲り受け、それを走らせていることが多い。主な理由は2つだ。

 1つは新車を導入するには初期コストがかかるからである。億単位のお金を車両メーカーに支払えないと、新車を買うことはできない。最近では、総合車両製作所「sustina」などのように規格化された新車シリーズがあっても、それなりの本数を導入することができないと意味がない。地方の鉄道の場合、そんなに多くの車両はいらないのだ。

 この視点で成功しているのは静岡鉄道で、「sustina」を導入して旧車両を入れ替えている。しかし、ある程度の本数を必要とするからこそ、新車の導入となる。

 新車が1編成、あるいは2編成程度の場合は、どこかから譲渡してもらってそれを改造して、というほうがコストはかからないのである。

ファンサービスとしての中古車活用

 もう1つは、ファンサービスのためである。各地で活躍した車両を集めて、多くの鉄道ファンに来てもらうということを目的としている。とくにSL列車ではそういった動きは多い。

 このあたりに熱心なのは、静岡県の大井川鐡道である。大井川鐡道では、SLだけではなく、電車も、さまざまなところから車両を集めている。もと近畿日本鉄道やもと南海電気鉄道、もと十和田観光電鉄(最初は東急電鉄)といった車両がある。また、もと西武鉄道の電気機関車もある。

大井川鐡道で使用されているもと南海電鉄の車両
大井川鐡道で使用されているもと南海電鉄の車両写真:イメージマート

 また、富山県の富山地方鉄道もこのあたりを意識した車両の導入を行っている。宇奈月温泉や立山に向かうという、観光要素の高いこの鉄道では、もと西武の「レッドアロー」「ニューレッドアロー」が特急車両として使用されていた。特急が富山地方鉄道からなくなったのは、残念ではある。もと京阪電気鉄道のダブルデッカー車両というのもある。

 山梨県の富士山麓電気鉄道(以前の富士急行)も同様だ。他社で人気があった中古車を購入し、改造して特別列車で走らせる。

 そんな中でファン心理に着目し、第三セクターで中古車の導入に熱心なところがあった。千葉県のいすみ鉄道だ。いすみ鉄道では新車を導入する傍ら、国鉄型気動車の活用に熱心で、それを集客の材料としている。JR西日本のキハ52形やキハ28形を導入し、観光向け、あるいはファン向けの列車に使用していた。

いすみ鉄道のキハ52形
いすみ鉄道のキハ52形写真:イメージマート

 その中で導入したキハ28形が、ことし11月27日に運転を終了する。なぜなのか?

金がかかる、部品がない!

 いすみ鉄道は引退の理由を次のように述べている。まず検査切れにより、全般検査を施工する必要がある。走行エンジンも老朽化し、交換部品の生産も中止、保守体制は不安定に。冷房エンジンも老朽化、やはり交換部品も枯渇しているとのことだ。運行のためにはいすみ鉄道の運賃収入の年間売り上げを超える金額が必要だという。

 当然ながらいすみ鉄道は経営状態が厳しい。

 キハ28形は、国鉄時代の「DMH17H」というエンジンを使用しており、1960年の技術水準でつくられたものだ。キハ58系やキハ80系に使用されていた。根本となる設計は、戦前に行われた。

 そんな車両にはたして、交換部品というのはあるのだろうか? オーダーメードしなくてはならない。この系列の車両はもうどこにも走っていない。ここまでくると、自動車ならば「大切にしている中古車」ではなく、「古すぎる名車の維持管理」状態になっている。ごくまれに、数十年前の自動車を大事に乗り続けている人がいる。そういう人は車に相当なお金をかけている。

 それと同じことを鉄道がやろうとしている。

 こういった車両は、10年持てばいい。経費節減のために中古車を導入しているような鉄道会社でも、長く使うのではなく、ある程度使いつぶして次の中古車を導入する。ファンへのアピールのために導入する過去の名車なら、大切にする必要があるものの、企業の経営体力の問題もある。

 同じ千葉県の銚子電気鉄道のように、他社にて中古で活躍していた車両をさらに安く買ってという場合、状態が悪くても支援がある場合もある。しかし、それは他社に技術者がいたり、電車ゆえに替えの部品があったりという状況ゆえに、不安定さが若干和らいでいるだけなのだ。

 SLの場合は、維持管理にお金がかかる。部品の新造などしょっちゅうだ。しかしそれは、お金のある鉄道会社がやっている場合がほとんどで、また一点ものでも作りやすい部品が多いというだけである。

 最近では、兵庫県の北条鉄道がキハ40を導入した。予備車の不足を解消するためという理由だが、ファンからの注目が集まったことはいうまでもない。もともとJR東日本の五能線で使用された車両で、当時の塗色を変えずに走っている。ただ、こういった形で走らせるには、メンテナンスをきちっとやらねばならず、いずれ走れなくなるときは来る。製造後40年ほど経っている車両で、ほかの北条鉄道の車両が2000年ごろに導入されたことを考えると、厳しいことが予想される。

 さまざまな理由で中古車両を導入する鉄道事業者は多いものの、整備などを考えると、限界があるのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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