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JR東日本、お得な普通回数乗車券を発売終了へ 私鉄でも相次ぐその理由と背景は?

小林拓矢フリーライター
以前は短距離利用での回数券使用は多かったのではないか?(写真:イメージマート)

 JR東日本は先月26日、普通回数乗車券の発売を9月30日で終了すると発表した。特急や新幹線の回数券廃止はこれまで見られ、一般の回数券も発売を取りやめるところが続いている。

 普通回数乗車券は200キロ以内の区間で発売する。乗車券10枚の金額で11枚つづりとなっていて、3か月間有効である。途中下車や乗車区間の変更はできない。

 この回数券は、以前は節約術などの話で話題に取り上げられることが多かった。また、金券ショップでは新幹線などの回数券に加え、短距離の回数券も販売されていた。

 以前は、財布の中に回数券を入れて、財布がふくらんでいる人も多く見られた。ところがその回数券事情が、大きく変わっていった。

変わる回数券事情と利用者の行動

 JR東日本では、ふつうの券売機で回数券を販売しなくなり、指定席券売機で回数券を販売するようになった。その回数券の大きさは、長距離乗車券や特急券と同じ大きさである。いかにせん、財布の片隅に入れておくということができなくなった。

 また近年の鉄道は、相互乗り入れが多くなり、乗り入れする列車で回数券を使用するには、別の鉄道事業者では精算機で精算しなくてはならないという不便なことになっている。精算をしなければならないのは当然のことだが、交通系ICカードが普及したことにより、面倒なことになるということを多くの人が感じるようになった。

 そんな中で交通系ICカードが相互利用できるようになり、関東ではJR東日本を中心とするSuicaエリアと、地下鉄や私鉄を中心とするPASMOエリアが、スムーズに行き来することが可能になり、回数券のお得さよりも交通系ICカードのスマートな利便性のほうが重宝されるようになった。

 以前はいちいちきっぷを買うのが面倒で回数券を買っていた人が、こんどは交通系ICカードにチャージするようになり、オートチャージやスマートフォンでの交通系ICカードへのチャージに移行するようになった。

 鉄道の利用者は、金額的なお得さよりも、利用の際のスマートさを大切にするようになっていった。

自動改札にタッチして鉄道を利用する人は多い
自動改札にタッチして鉄道を利用する人は多い写真:イメージマート

 コロナ禍前でさえ、ふつうの鉄道利用者は定期券内の範囲で移動していることが多かった。その定期券でさえ交通系ICカードであり、そこにチャージしておけば、はみ出した区間では自動で精算することが可能になっている。

 筆者がよく乗車するのは京王電鉄の調布~新宿間ではあるものの、そこから都営地下鉄に乗り入れたり、また京王とJRの乗り換え改札をスムーズに通ったりすることを考えると、この区間だけ回数券を買って乗る、という気にはならないのである。はみ出した区間は精算機で、というのはそのぶん時間がかかるとも考えている。

 交通系ICカードが鉄道利用者の行動を変え、その変化が回数券の使用を激減させたといえる。

関東圏の交通系ICカード、SuicaとPASMO
関東圏の交通系ICカード、SuicaとPASMO写真:アフロ

回数券の代わりはポイントに

 JR東日本は、同一運賃機関の利用が同一月内に10回で、運賃1回分相当のJRE POINTを還元する「リピートポイントサービス」を導入している。さらに11回以上乗車すると、運賃の10%がポイント還元されるようになっている。

 ほかの鉄道事業者にも似たようなものがある。小田急電鉄では、同一運賃区間での同一月内における乗車回数に対して、小田急ポイントが貯まるというサービスを行っている。小田急は、すでに回数券を廃止し、紙のお得なきっぷは10枚つづりの「小田急チケット10」に移行している。

 回数券を廃止したJR西日本のICOCAエリアでは、利用回数に応じたポイントが付与されるというサービスもある。

 阪神電気鉄道は、3月10日に回数券を9月30日に発売終了すると発表した。すでにPiTaPaでの利用回数割引を行っているのに加え、ICOCAでのポイントサービスを開始する。

 今後も、回数券の廃止は続いていくだろう。そのたびに、交通系ICカードを使用するポイントサービスへと移行していく。

発表には気になる一文が

 回数券廃止のプレスリリースには、次のような一文が必ずと言っていいほどある。

「※身体障害者割引、知的障害者割引および通学用割引の普通回数乗車券は引き続き発売します」。

 障がい者用の回数券、通信制高校スクーリングなどのための回数券は引き続き発売するということだ。

 だがこれも、将来は交通系ICカードに組み入れられることが考えられる。

 東京都では、障がい者向けに都営交通の無料乗車券を支給している。これにはICカード式のものがある。

 また、身体障がいの人や、知的障がいの人には、JRや私鉄の割引があり、その人たちむけの回数券がある。

 このあたりの情報も、交通系ICカードに搭載できるように将来はなるのではないか。またスマートフォンの交通系ICカードアプリなら、障がい者向けの手帳や通信制高校の学生証などをアプリに読み込ませ、AIで処理できるようになる時代が来るということも、当然に想定できることである。

 引き続き発売する回数券はあるものの、このあたりは技術的な問題などもあってまだできないもので、将来は交通系ICカードに移行することが予想される。というより、障がいなどがあっても、交通系ICカードの便利さから排除されていいということはない。

なぜ回数券は減っていくのか?

 回数券が減っていく背景に、交通系ICカードの普及というものがある。鉄道各事業者も、それに合わせて交通系ICカードのみの自動改札を増やしている。

 いっぽう、紙のきっぷを処理できる自動改札機の場合、メンテナンスコストが大きくかかるという問題もある。紙のきっぷを改札機内で物理的に処理するための機構の生産や維持管理にお金や手間暇がかかるということだ。交通系ICカードだと、タッチして電子的に処理するだけでいいので、自動改札機内部に機械的な装置を設ける必要がない。簡易的な改札機だと、チャージ金額不足や強行突破の際に通過させないようにする装置すらない。

交通系ICカードのみの自動改札は内部構造が簡単だ
交通系ICカードのみの自動改札は内部構造が簡単だ写真:イメージマート

こちらは紙のきっぷを通せる自動販売機。メンテナンスが課題になっている
こちらは紙のきっぷを通せる自動販売機。メンテナンスが課題になっている写真:イメージマート

 そういった装置のコストを下げたい、というのが鉄道事業者側にはある。

 そんな中で交通系ICカードは普及していった。その状況にあわせて、回数券を廃止する、利用者も少なくなったから、という状況にあるのではないか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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