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上手でエコな電車の運転とは? JR東日本が山手線で「省エネ運転」の研究開始

小林拓矢フリーライター
山手線のE235系では新しい試みが次々と行われている(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 自動車教習所で、どのような運転が上手な運転なのかということを教官から聞かされた人も多いと思われる。どうアクセルを踏むか、衝撃の少ないブレーキのかけ方はどうなのかなどといった話だ。

 車を運転するようになると、燃費も気にするようになる。近年の乗用車は省エネ性能に優れているものの、あまりにもスポーティーな運転をしていると、ガソリンを無駄遣いする。

 電車の運転も同じだ。電車は自動車に比べエコな乗り物ではあるものの、やはり運転の上手下手があり、それにより乗客の乗り心地も変われば、運転エネルギーの消費量も変わるのである。

JR東日本はどんな省エネ運転をするのか?

 現在、JR東日本では運転エネルギー削減のために省エネ運転の研究を行っている。駅間の所要時間を変えずに最高速度を抑え、運転エネルギーを削減する。加速時間を短くし最高速度を抑えた上で、惰行の時間を長くし、減速時間を短くするというものだ。

 自動車の運転のようにアクセルを踏み続けるのではなく、加速して必要なスピードが出たら、そのスピードであとは惰性で動くようになっている。惰性で動く時間を長くし、ブレーキをかける時間を遅くすることにする。

 JR東日本は、山手線で省エネ運転を試行するにあたり、このような結論を出した。最高速度を落とすことでだらだらとした運転にはなるものの、その速度で走る時間を増やすことでカバーしている。

 この分析をするのに役立ったのが、E235系電車の車両モニタリング機能だ。

データの収集・分析が省エネ運転に役立つ

 どうすれば省エネ運転ができるのか。現場だけではとても考えることができなかったものが、テクノロジーによって生み出された。

 車両モニタリング機能を活用して走行データを取得し、駅間ごとに消費電力量や所要時間、加減速操作などのタイミングを分析する。それをもとに、省エネ効果と乗務員が実際に運転しやすい加減速操作のやり方を決定する。

なぜ、省エネ運転をしなくてはならないのか

 JR東日本グループは、環境優位性を向上するために、2050年度のCO2排出量実質ゼロを将来的な目標としている。実際に省エネ運転をやってみた結果、約10%の運転エネルギー削減効果が確認できた。山手線1年間の運転に換算すると、CO2約1,200トン、電力にして約500万kWhの運転エネルギー削減となる。もし首都圏の在来線全線区で同様の省エネ運転に1年間取り組めば、CO2約7.3万トン、電力にして約2.3kWhの運転エネルギー削減が実現できる。

 地球温暖化が重要な課題となっており、気候変動による災害が鉄道を襲う中、鉄道会社としても環境の課題に取り組む必要がある。確かに鉄道は自動車に比べエコではあるが、よりエコになり、地球環境を考慮することが今後のためにも重要なのである。

 なお、走行データの収集・分析も今後は自動化し、適切なアルゴリズムでどう運転したらいいかを乗務員に伝え、運転を支援するシステムもつくるという。

 上手な電車の運転には、乗り心地や経済性、環境への配慮といったものが含まれるものの、現場の創意工夫、乗務員の修練で技能を獲得できる傾向はこれまでは大きかった。近年は電車の運転もシステム化し、技能の平準化が進んだものの、これにエコまでシステム化することになる。

 乗務員の創意工夫だけではなく、技術を利用した省エネ運転は、鉄道の環境への負荷をより一層低めることになるだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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