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ローカル線は必要か JR西日本が地元と協議、JR北海道は線区別の利用状況発表

小林拓矢フリーライター
芸備線で使用されるキハ47。広島に近づくほど利用者は多い(写真:KUZUHA/イメージマート)

 JR北海道の石勝線夕張支線、札沼線北海道医療大学~新十津川、JR西日本三江線など、過疎化で利用者が激減した路線の廃止が続いている。高波被害で運行ができなくなったJR北海道の日高本線鵡川~様似間は、代行バス輸送のまま路線廃止となった。

 これまで、利用者の少ない路線は都市部や新幹線・特急の利益で支える構造になっていた。しかし、閑散路線の利用低迷が長引き、コロナ禍で都市路線の利用者も減少し、いよいよ支えきれなくなってきた。

 そんな中で、あまりにも利用者の少ない路線の存廃を視野に入れた論議が始まった。

JR西・芸備線で協議始まる

 JR西日本では、利用低迷が続く芸備線の一部区間の課題を洗い出すため、沿線自治体や住民と協議する意向を8日に発表した。

 芸備線は広島から備中神代を結ぶローカル線であり、この中の山ノ内~備中神代が課題の洗い出しの対象になっている。

 JR西日本は否定しているものの、『朝日新聞』などでは存廃も視野に入れていると報じられたこともあり、もともとの芸備線の利用者数も少ないこともあってか、存廃を気にかける声がネット上で高まってきた。

 そもそも、この区間の利用者はどれだけ少ないか。

 2019年の輸送密度を見ると、一日あたり備後庄原~備後落合間が61人、備後落合~東城間が11人、東城~備中神代間が81人となっており、利用状況の低迷が著しい。備後落合は木次線への乗換駅として知られるものの、こちらの輸送密度は190人となっている。

 芸備線、木次線ともに国鉄時代は急行列車の走っていた路線であり、いっぽう高速バス網の普及で長距離移動がバス主流になり、これらの路線は利用者が減っていった。

 とくに備後落合~東城間の11人というのは、鉄道として成り立っているのかどうか不安を感じさせる。

 実際、広島県庄原市内の駅と岡山県新見市内の駅では1日当たりの乗車人員が10人を切る駅があるどころか、0.5人未満の駅もあるという。

 そんな中、どうすれば芸備線の利用者が増えていくのか、という議論をJR西日本と地元が行うようになった。過疎化が進む一方で、少子化で高校生などの利用も減少、都市部の収益でも支えきれなくなり、輸送密度の低い路線をどうするかが課題となっていく。

 すでにJR西日本は三江線を廃止しており、この路線はもっとも輸送密度が低い2013年度には44人となっていた。なお、廃止が決まると、お別れ乗車に多くの人が訪れ、輸送密度は高まった。

 備後落合~東城間の輸送密度は、すでに三江線の最悪の状況を下回っており、その他の区間でも数字的には問題視される状況となっている。

 そんな中で、「廃止」の言葉は出さないまでも、地域の鉄道をどうすべきかの議論は出てしかるべきである。

 地域に公共交通としての鉄道は必要なのか、それとも鉄道が必要ではなくなるほどなぜ人はいなくなってしまったのか、考えなければならない。

 そんな中、同じJR西日本の越美北線(福井県)では、3月に県や地元自治体とJR西日本金沢支社が利用促進の連携協定を結んだ。しかし、秋のダイヤ改正で本数削減となる予定となっている。越美北線はもっとも輸送密度が低い2017年度で373人と、まだ生き残りの可能性がある。

 越美北線については地元自治体が通勤通学時間帯の利便性を確保するとしているものの、芸備線の該当区間はほぼ削減しきっているという状況にある。

 地域と議論を行うにしても、廃線によるバス転換か存続かの2択しかなくなっている。

 線路は、必要か。維持できるのか。

 鉄道会社まるごとそんな状況に追い込まれているところもある。JR北海道だ。

コロナ禍で赤字最悪のJR北海道

 2020年度の線区別収支を、JR北海道は4日に発表した。赤字額は841億5900万円となり、前年度よりも289億7600万円拡大してきた。

 もともとJR北海道は赤字体質ではあったものの、過疎路線の赤字を札幌圏と主要な特急で埋めるという構造になっていた。

 ところが、2020年度は快速「エアポート」などの利用者が激減したため、ここで156億1800万円の赤字となった。

JR北海道が稼げる数少ない列車、快速「エアポート」
JR北海道が稼げる数少ない列車、快速「エアポート」写真:taka_c/イメージマート

 部分開業しかしていない北海道新幹線は、札幌開業までJR北海道で利益を生み出す存在にはならず、大きな影響を及ぼしている。

 利用者の少ないことが問題になっていた路線ではなく、利用者の多い路線の赤字が目立ったため、閑散路線は救えない状況となった。

 そんな中、JR北海道の島田修社長は北海道議会の地方路線問題調査特別委員会に9日、参考人招致され、地元自治体の費用負担による維持困難路線の協議を進めることを話した。中期経営計画が終了する2023年度までには合意形成を進める考えだ。

 しかし、この状況を考えると、輸送密度や営業係数に問題がある閑散路線を多少いじったところで、JR北海道自体の厳しさは変わることはない。

 もはや都市部が閑散路線を支えられなくなっている。

 コロナ禍の影響で、残るローカル線をどうするかを考えなければならない鉄道会社もあれば、全体的な赤字でローカル線をどうにかしたところで改善の余地が見えないところがある。

 そんな中でローカル線は必要なのか、公共交通としての鉄道は求められているのかという問いが発生する。

 廃止が相次ぎ、人口減少の中で見通しは厳しく、利用者はマイカーと高速バスに奪われる。簡単には解決できない問題を鉄道会社は背負わされている。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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