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東京メトロに新線はできるのか? 住吉延伸・品川地下鉄・臨海地下鉄が検討段階に

小林拓矢フリーライター
豊洲から住吉へと延伸が計画されている。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 完成しているかのように見える東京の地下鉄ネットワーク。だがさらに充実させようという動きが進んでいる。

 2016年の国土交通省・交通政策審議会による「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」には、多くの新線計画が盛り込まれていた。その中には、地下鉄の新線も多く見られた。

 この1月から、交通政策審議会の陸上交通分科会鉄道部会には「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」が設けられ、東京での今後の地下鉄をどうするかの議論が行われるようになった。

 具体的には、どんな路線なのか?

東京メトロが運営すべき? 3つの地下鉄

 この小委員会では、計画のある地下鉄の3路線が議論されている。

 まずは有楽町線(8号線)の豊洲~住吉間の延伸だ。臨海副都心と都区部東部の観光拠点や、東部・北部地域とのアクセス利便性を向上させる一方で、JR東日本京葉線・東京メトロ東西線の混雑を緩和することが目的になっている。

 事業計画の検討は進んでおり、江東区や東京メトロとの間で費用負担や事業主体の選定について合意を進めることが課題になっている。

豊洲駅は分岐が意識された構造となっている。
豊洲駅は分岐が意識された構造となっている。写真:アフロ

 次に、都心部・品川地下鉄の新設だ。東京メトロ南北線・都営三田線の白金高輪と、品川を結ぶことで、都心部とリニア中央新幹線の始発駅である品川駅や、国際競争力の拠点となる品川駅周辺とのアクセスを向上させることを目的としている。また、羽田空港アクセス鉄道である京急との接続も可能だ。

 ただ現状、検討が深く行われておらず、事業計画をどうするかが課題となっている。

南北線は相鉄への乗り入れが予定されている一方、白金高輪止まりの列車の品川延伸の可能性も出てきた。
南北線は相鉄への乗り入れが予定されている一方、白金高輪止まりの列車の品川延伸の可能性も出てきた。写真:アフロ

 最後に、都心部と臨海副都心を結ぶ路線と、あわせてつくばエクスプレスを東京駅付近まで延伸する計画だ。この二つは一体となった計画として想定されている。都心と臨海副都心のアクセスを向上させるだけではなく、山手線の混雑緩和にも役立つとされている。事業計画がまだ十分ではないことが課題だ。

 この「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」では東京メトロがヒアリングに呼び出されている。

 東京メトロは法律により完全民営化の方針が打ち出されている中、健全な経営を行いたいとしてこれらの建設には消極的だった。だが有楽町線延伸に関しては都営地下鉄ではなく東京メトロでの運行を地元自治体は想定しており、小委員会での議論を見ると他路線も東京メトロで開業したいという意向が伝わってくる。

経営の健全性を崩さないことを第一とする東京メトロ

 東京メトロは、有楽町線延伸や白金高輪から品川への延伸については、完全民営化をめざした閣議決定や法律を踏まえ、新線建設は行わないとしている。新線建設を求められるとしても、経営の健全性は崩さないことを前提としている。

 いっぽう、有楽町線延伸について東京都は意義があるものとし、東京メトロが整備し、運行することが合理的としている。

 また、品川への延伸については、交通結節点である品川駅と都心を結ぶ路線としてポテンシャル向上に寄与しているとしている。

 東京メトロが現在のような国と東京都が株式を持っている企業形態を続けたままであれば、こういった新線は建設可能であり、交通ネットワークの観点からも、建設が望まれるものといえる。

 しかし、国は東京メトロ株を市場で売却しなくてはならない。その際にこれらの新線計画を進めていることにより、経営の健全性が損なわれる、あるいは株価が高くならないリスクがあるとすれば、企業経営の面からも難しいといえる。

 国が保有する東京メトロの株式は、2027年度までに売却し、東日本大震災の復興債償還費用の財源にすることが決まっている。

 なお、都心と臨海副都心を結ぶ地下鉄については、東京都は民間投資を誘発し、需要が創出できるものとしている。東京メトロは自社のネットワークと関連性がないとしている。確かに東京メトロのネットワークとは築地や豊洲でしか接続できないものであり、乗り入れなどのメリットもない。乗り入れる先はつくばエクスプレスだ。

都心と臨海副都心が直結すれば、確かに便利ではある。
都心と臨海副都心が直結すれば、確かに便利ではある。写真:Paylessimages/イメージマート

 いっぽう有楽町線延伸や白金高輪から品川への延伸は、どこにどう乗り入れるかがわかっている。住吉から豊洲へ行き、有楽町線から西武や東武へということは想像でき、東京メトロ南北線や都営三田線に多く見られる白金高輪行きを品川まで運行するというのも想像しやすい。その意味では東京メトロとのネットワーク性はわかりやすいものとなるだろう。

迫る株式売却の中で新線計画はどうすべきか

 東京メトロの中には、副都心線の開業により東京メトロが関与すべき新線の計画は終わったと考える人もいる。その状態で、課題となっている株式の売却が行えればという考え方がある。今後、「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」では東京メトロ株式の売却をどう進めるかも議論される。

 しかし、新線計画を進め、その中で東京メトロの経営に悪影響をおよぼさないためには何が必要かも考えることになる。

 地下高速鉄道整備事業費補助という制度はあるものの、東京メトロは対象外となっている。鉄道・運輸機構には都市鉄道融資という制度があり、これを利用した事業が現在大阪で行われている。

 東京メトロは株式を売却し自主的な経営を目指しているため、新線計画には乗り気ではない。いっぽう、既存の補助金制度を変えたり、融資制度を利用したりすれば、新線の建設もリスクが少ない状況で可能ではとも考えられる。

 なお、東京メトロはコロナ禍前では大手民鉄でもっとも順調な経営となっており、輸送人員も多い。運輸業による収入の割合も高い。

 健全な経営体制を維持したいという東京メトロの考えは理解でき、リスクを背負いたくないというのも納得がいく。ただ、ここで挙げられた3つの新線計画は都市の回遊性を高めるためには重要な計画であり、実現が東京の発展につながるとも考えられる。

 新線計画のための何らかの制度を設けるか、既存の制度を上手に利用、もしくは改良することが必要だ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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