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今年度12億円の赤字見通し JR四国はなぜ苦境なのか? 好調なJR九州との違いは

小林拓矢フリーライター
JR四国は鉄道の利便性を向上させるためさまざまな努力をしてきた(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

「三島会社」と呼ばれるJR北海道・四国・九州は、JRになってからは経営が厳しいと言われていた。その中でJR九州は株式を上場し、関連事業の成功により経営状態はよいとされている。しかし、JR北海道や四国は経営が厳しい。JR北海道の経営の厳しさはさまざまなところで報じられているものの、JR四国もまた厳しいことはなかなか知られていない。

国土交通省より指導

 JR四国は、国土交通省より3月31日に「JR四国の経営改善について」という文書を提示され、経営改善への指導を受けた。

 同社は、同日発表した2020年度事業計画において、12億円の経常赤字を見込んでいる。鉄道事業の赤字は129億円、その他の事業を含めても126億円の赤字を予定している一方、その赤字を経営安定基金の損益などで埋め合わせ、それで12億円の赤字にしているという状況だ。

 2011年度に10年間の「経営自立計画」を策定し、2020年度の経常利益3億円という目標を達成するべく、JR四国は経営改善の取り組みを進めてきた。

 しかしこの2020年度の事業計画では、経営自立計画を大きく下回ることになった。目標は、達成されない。

 4月1日の『日本経済新聞電子版』によると、2020年度の業績予想を2月ころにまとめて国土交通省に提示したところ、利益水準について「中期経営計画」と乖離していたため、経営改善の指導となったという。2017年度からの中期経営計画では、2020年度の経常利益を3億円、子会社で13億円、連結で15億円というのを目標にしている。

 なぜ、このようなことになったのか。

経営環境の悪化とJR四国の関連事業

 国土交通省は、背景に人口減少や他の交通手段の発達により厳しい経営環境があることを把握しており、その中で「経営自立計画」を作らせたという経緯がある。その計画では、主として鉄道事業の経営改善をめざすものとし、JR四国としても一定の実績を挙げていた。

 またJR四国は、増収のために観光列車の運行や、コスト削減にも取り組んでいた。

 一方、その間にも四国の高速道路網は充実し、各地に高速バスが走るようになった。とくに、徳島県では大阪エリアへ直行するバスが充実し、それ以外の県でも大阪とのアクセスが密になっていった。

 それに対抗すべく、JR四国は特急の高頻度化による利便性の向上や、振り子式車両による高速化への設備投資にも力を入れてきた。

 一方で、関連事業による利益の創出も行っている。マンション事業や駅の再開発などの関連事業は黒字であり、鉄道事業の赤字を補っている。

 JR四国をグループ全体で見ると、バス事業やホテル事業、物販事業での経常利益が本体を支える構造になっている。

 ただ、バス事業というのが鉄道会社としてのJR四国にとってはやっかいな問題である。

縮小する地域の中での「共食い」構造

 JR四国バスは、四国のバス会社各社とともに、高速バスを共同運行している。多くの路線でJRと競合関係になっており、グループ内で共食いの状態となっている。もちろん、多くの場合は高頻度運転である。

 四国の場合は高松中心の鉄道網であるゆえに、それを補わなくてはならないという事情があるものの、鉄道とガチンコで競い合っている路線もある。そういった路線が利益を上げ、連結での経常利益につながっている。

 こうした状況の中で、鉄道事業だけを見て経営の厳しさを指摘するというのは、ナンセンスである。

 たしかに、鉄道事業の経営が厳しいのは問題だ。少子化による利用者減少に加え、従業員の高齢化による退職者の増加に伴う人手不足、瀬戸大橋の維持更新の必要性や老朽施設の更新という事情もある。

 しかしJR九州は上場をしているとはいえども、利益がしっかりと出ているのは関連事業のほうであり、それもホテルや飲食店の東京進出など、積極的な姿勢を示しているからこそである。こういったことをやるからには、独創的な思考のできる経営者がいないと難しい。地域でホテル事業などをやっているだけでは、困難である。

 もともとJR四国は事業規模が小さく、それゆえに大きな利益が出ることはなく、少額の赤字でも影響が大きい。地域全体の人口も少なく、利用者も少ない。グループ内での利用者の取り合いさえ起こっている。しかし、バス事業をやめることが、自グループの利益となるわけではない。

新型コロナウイルスの影響は

 今回の「2020年度事業計画」では、新型コロナウイルスによる利用者減・減収は考慮されていない。3月の鉄道運輸収入は前年同期比54%減、瀬戸大橋線の利用者は45%減、ちなみにJR四国バスの乗客も半減、関連ホテルの利用者も減少している。

 また、JR四国がこの春にデビューさせる予定だった観光列車「志国土佐 時代(トキ)の夜明けのものがたり」は、運行できないままでいる。

 国土交通省は、「観光列車などインバウンド観光客を取り込むための施策の充実」などを指導内容に盛り込んでいるものの、インバウンド観光客も現状では来ず、さらに観光列車の運行さえ見通しが立っていない。「コスト削減や意識改革」も国土交通省は要求しているものの、すでにさまざまな施策を取っているJR四国にとっては、精神論でしかない。

 新型コロナウイルスによる大幅な利用者減という状況におかれたJR四国は、もともと経営が厳しくなる構造を抱えている中で、さらに厳しいことが予測されるだろう。その中で、経営を改善するよりも、まずは持続させることを第一と考えるべきではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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