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よく遅れる通勤電車はどこ? 国交省が「見える化」、最多は千代田線、大規模遅延は埼京線

小林拓矢フリーライター
ラッシュ時には鉄道は目一杯の活躍をする(写真:アフロ)

 通勤電車は、なぜ遅れるのか。人身事故などで遅れるのはわかるとしても、なぜ日常の電車の遅れはなくならないのか。

 2016年4月の交通政策審議会答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」の中で、「遅延の現状と改善の状況を分かりやすく『見える化』することが特に重要」、「遅延の発生状況について毎年公表し、経年で確認できるようにする」と記された。これを受けて、国土交通省は遅延証明書の発行状況や、遅延の発生原因、鉄道事業者の遅延対策について、数値や地図やグラフを用いて、わかりやすく「見える化」することになった。

 その最初の取り組みとして、2018年度(平成30年度)の遅延状況が「見える化」された。ここから何がわかるのか。

遅延証明書をもっとも多く発行した路線は?

 1ヶ月の平日、20日あたりの遅延証明書の発行日数を見てみよう。

 もっとも遅れるのが、東京メトロ千代田線で、19.8日である。その次は中央快速線・中央本線と中央・総武線各駅停車で、どちらも19日である。ほぼ毎日と言ってよい。意外と多いのが、小田急線で18.8日、複々線の効果によりこれは改善されることが見込まれる。

 一方で、意外な路線が遅れていない。京王井の頭線の2.0日や東急玉川線の1.7日というのは、ほかに乗り入れていないからという理由がわかる。一方、乗り入れなどがさかんな東武伊勢崎線は4.0日、東上線は3.5日となっている。さらには、京王線は6.5日と、ふだんののろのろ運転からは考えられないほど、実は正確に運行されている。

 朝ラッシュ時の運行は、過密ダイヤである。一方、遅いわりに遅延証明書を出していない路線は、列車を遅く走らせるようにして、実情に合った通勤時間帯のダイヤにしている。よく、京王については明大前の「渋滞」のことが言われるが、これはあらかじめ定められたダイヤに沿って走っているものである。

小規模な遅延と大規模な遅延

 鉄道の遅延を、国土交通省は「小規模な遅延」と「大規模な遅延」に分けている。「小規模な遅延」は、10分未満の遅延であり、大規模な遅延は、30分以上の輸送障害である。

 小規模な遅延の多い路線を見てみよう。たとえば小田急線の13.6日、東京メトロ副都心線の11.9日、千代田線の11.7日、丸ノ内線や半蔵門線の11.6日といったところが筆頭にある。実は中央快速線・中央本線は9.0日で、10分超~30分以下の遅延証明書発行で9.2日と、より遅れが目立つ路線となっている。

 10分未満の小規模な遅延の発生要因として、約54%が乗降時間超過や、ドア再開閉といった乗降時のものとなっており、急病人や乗客トラブルなどの突発的な要因は40%未満、故障は約6%となっている。

 一方、30分以上の遅延が目立つのは埼京線・川越線の2.3日や横須賀線・総武快速線、宇都宮線・高崎線の1.6日と、広域な路線網を有するJR東日本に大きな数字が出ている。

 この輸送障害の要因としては突発的な要因が約75%ともっとも多く、その最大のものは52.4%を占める自殺である。線路内立ち入りは7.3%だ。

 故障などによる要因は約20%で、施設故障等が10.3%ともっとも多く、車両故障や保守作業ミスがそれに続く。

列車遅延にどう立ち向かうか

 日本の鉄道は、時間の正確さを重視している。他国から見たら遅れとはいえない小規模な遅延でも、この国では鉄道の大きな課題とされる。

 小規模な遅延については、乗降時の要因が大きなものとなっており、利用者のマナーアップを働きかけることが必要、と国土交通省は分析している。

 対策としては、乗車表示サインの変更や、ホーム要員・警備員の増加、スムーズな乗降への啓発活動が挙げられる。

 そのなかで優れていると筆者が感じられるのが、京王電鉄と京急電鉄である。京王は、小規模な遅延の対策として、分散乗車の推進を呼びかけている。京王線は新宿駅の階段に近いという理由から、6号車から9号車に利用者が集中し、この車両にはなかなか乗りにくいという状況になっている。その状況を解消するために、それ以外の車両への乗車を呼びかけている。京急電鉄は、駅の乗車位置サインを細かく設定し、乗る列車により並ぶ箇所を変え、スムーズな乗降を行えるように工夫している。

 ハード面での対策は複々線の整備や、ホームの拡幅、車両の更新などがある。小田急の複々線は、この調査の数字が出たあとに効果を発揮できたことが考えられる。相鉄海老名駅ではホームを拡幅した。東急電鉄では大井町線に新型車両を導入した。連続立体交差事業に力を入れる事業者も多い。

 一方、大規模な遅延の原因としては自殺や車両・施設の故障がある。自殺者への対策としては、ホームドアの整備は大きい。これには各事業者が取り組んでいる。また、車両の主要機器の二重系統化や、影響を小さくするために折り返し設備を整理し、運転整理を柔軟にするなどの施策を行っている。

 また、各事業者は遅延の際に、アプリなどで情報を提供することにも取り組んでいる。

 現在の都市鉄道は、ちょっとした乗客の動きにより発生した短い遅延が課題になっている。その課題に対し各事業者工夫をしており、少しでも遅延をなくそうと努力している。また長時間の遅延を避けるべく、ホームドアの設置にも熱心だ。各事業者の取り組みにより、少しでも都市鉄道の時間の正確さが高まることを期待したい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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