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消費増税で運賃も値上げ 良心的なJR東日本と東海、大幅値上げの北海道

小林拓矢フリーライター
値上げ後の運賃が掲載された最新の『JTB時刻表』と以前の時刻表(筆者撮影)

 駅の運賃表に、シールのようなものが貼られているのをお気づきの方も多いのではないだろうか。そのシールの下には。10月1日からの新運賃が貼られている。

 新しい運賃表にあらかじめ貼り替えておき、その日になるとはがすようになっている。もっとも、いまのように多くの人が交通系ICカードを使用するようになると、細かな運賃を気にしないという人も多いだろう。だが、きっぷを使用する人は券売機では運賃の金額しか出ず、行きたい駅まで買おうとすると値段を見るしかない。そういう人にとっては、値上げの額がお財布の中に響くであろう。

なぜ値上げするのか

 値上げの理由としては、鉄道の運賃・料金は内税であり、値上げをしないと鉄道会社の取り分が減ってしまうから、ということがある。そのため、運賃や料金を値上げする。

 いっぽうで、なにもないときに値上げをする、というのも難しい。経営が厳しいから、という理由で大幅に値上げをしたら、反発は大きい。消費税増税を機に、経営の厳しいぶんをなんとかするために値上げ、という鉄道会社もある。今回、大幅に値上げする鉄道事業者は、そのパターンだ。

 前者の典型例がJR東日本や東海であり、後者の典型例がJR北海道である。JR北海道の場合、もっと前に値上げしていて、さらに今回の消費税増税で値上げという形でもよかったが、それだと二度手間でかつ反発も大きい。消費税の増税があったからこそ、経営の安定のために値上げできるという鉄道事業者もある。

値上げの発表が遅れた理由は

 消費税増税にともなう値上げは、本来ならばもっと早くから動いていてもよかったはずだ。にもかかわらず、景気の低迷等により消費税増税を回避すべきではないかという意見は安倍政権支持者などの間でも高まり(保守系論壇誌でも消費増税反対の論調は強かった)、おそらくは首相もそのあたりのことを気にしていたのだろうか、統一地方選挙・参院選のころには明確な方針を示していなかった。

 鉄道事業者はその間はやきもきしていたことだろう。消費税は増税するのか、しないのか。しかし増税の方針が政権より示され、JR各社が発表し、その他の鉄道事業者も追随した。国土交通省も値上げを認可、ようやく各社の足並みが出そろった。

実際の値上げ幅は?

 実際の各社の値上げを見てみよう。まずはJR東日本。幹線は、3kmまでが片道140円だったのが150円になる(電車特定区間は140円)。交通系ICカードでは、電車特定区間は133円、幹線は144円だったのが、電車特定区間は136円、幹線は147円になる。この場合は、消費増税ぶんだけの値上げといえる。

 いっぽうで経営の厳しいJR北海道は、3kmまでが170円から200円となる。

 近距離では意識しにくい金額なので、遠距離を見てみよう。

 多くの人が利用する東海道新幹線の東京~新大阪間の「のぞみ」では、現在は運賃8,750円、通常期の指定席特急料金5,700円、あわせて14,450円となる。なおエクスプレス予約では13,370円だ。10月1日からは運賃8,910円、料金5,810円、あわせて14,720円となる。差額は270円。なおエクスプレス予約では13,620円で、差額は250円となる。参考までに、東海道新幹線の車内販売のアイスは税込み290円である。

 JR東海だから、この程度の値上げで済んでいるのかもしれない。

 JR北海道の特急「スーパー北斗」を札幌~函館間で利用すると、現在は運賃が5,720円、指定席特急料金が3,110円、計8,830円のところ、10月1日から運賃6,270円、料金3,170円、計9,440円となる。差は610円だ。値上げ幅は大きなものとなっている。駅売店で缶ビール・サッポロクラシック350ml2本を買うよりも大きい。

 私鉄でも値上げは行われる。たとえば京王電鉄は新宿~京王八王子間で360円から367円に(交通系ICカード利用)、渋谷~吉祥寺間で195円から199円となっている。

 なお京王電鉄や、京急電鉄では一部区間で加算運賃の引き下げが行われ、それにともない増税分よりも運賃が下がる区間も生まれている。

チラシで値上げについてお知らせする京王電鉄(筆者撮影)
チラシで値上げについてお知らせする京王電鉄(筆者撮影)

経営状態のいい事業者は実質的な値上げを行っていない

 国鉄がJRになり、消費税が増税されて以降、経営状態のよい鉄道事業者は大きな値上げを行わず、増税時に小幅な値上げを行って済ませることができている。そういった事業者では、実質的な値上げは行われていないといってよい。とくにJR東日本や東海・西日本ではそうだ。また大手私鉄も同様である。

 しかしJR北海道や四国・九州は厳しい状況に置かれている。JR北海道の置かれた状況は厳しく、実質的な値上げをこれまで何度も行ってきた。その上で今回の値上げは、JR北海道の現状を考えると仕方がないことだと言える。

 消費税増税にともなう値上げは、各社の経営状態を浮かび上がらせるのである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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