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大井川鐵道で電気機関車が大増発 なぜ客車列車は減り、再び注目されるのか?

小林拓矢フリーライター
大井川鐵道では電気機関車も大切にしている(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 静岡県にある大井川鐵道では、10月31日から本線電化70周年を記念し、EL(電気機関車)牽引列車を大増発することになった。ふだんはSL(蒸気機関車)牽引の客車列車が大人気の大井川鐵道ではあるが、ELも保有し、今回は1949年製造の2両を使用する。

 定期運行の客車列車が2016年の「はまなす」廃止でなくなってしまい(大井川鐵道井川線を除く)、残る客車列車はSLなどによるイベント的な列車が中心となった。

今回運行される大井川鐵道の電気機関車と旧型客車(大井川鐵道プレスリリースより)
今回運行される大井川鐵道の電気機関車と旧型客車(大井川鐵道プレスリリースより)

ほかでも見られる機関車牽引の客車列車

「SL大樹」を運行している東武鉄道では、SLが整備のため運行できない日には、ディーゼル機関車牽引の「DL大樹」が運行されている。また、ことしの4月30日から5月1日にかけては、改元を記念し南栗橋から鬼怒川温泉まで夜行の「DL大樹」が運行された。

「パレオエクスプレス」の運行で人気を集めている秩父鉄道では、SLの運行ができない場合や、沿線でイベントなどがある場合は、ELの「パレオエクスプレス」を運行している。来年はSLの運行が行われないため、ELの「パレオエクスプレス」を運転するのかどうかきがかりだ。

 最近では、12系客車を使用した急行「津軽」が秋田~青森間で運行され、その中には短距離ながらも夜行で運転される列車もあった。12系客車という向かい合わせのクロスシートの車両で夜を明かすという、珍しい体験が可能になった。

 客車急行が多く見られた時代は、こういう列車はあたりまえのようにあったが、特急の増加と相次ぐ急行列車の廃止、そもそも客車列車も定期運行がなくなってしまったため、イベント的な要素が強い場合でないと、客車列車は見られなくなってしまった。

お座敷列車なども電車・気動車に

 かつてはお座敷列車などの特別車両は客車列車だった。国鉄からJRに変わる時期に「ジョイフルトレイン」として製造された列車も客車列車が中心だった。しかし、特別車両の運行自体が減り、機関車の運転ができる人も少なくなり、「扱いのいい」電車が中心となっていった。

 以前は14系客車や50系客車を改造した車両が各地で見られたものの、現在では電車・気動車ベースの車両が用いられ、しかもそういった車両もなかなか見られない。

 列車に合わせた特別な塗装を施した機関車などもJRは保有していたが、そういう機関車は廃車になったり、もとの塗装に戻ったりした。

よく見られた客車普通列車

 JRになってから客車普通列車の活動領域は狭まっていったものの、90年代なかばに筑豊エリアや東北エリアで50系客車による普通列車がなくなり、2002年に青函間を結ぶ快速「海峡」が廃止になったため乗車券だけで乗れる客車列車はなくなった。

 客車列車には、乗客の多い少ないに応じて増車・減車がかんたんだというメリットがある。そういったメリットから、地方での通勤列車や、繁閑の差が激しい青函間の列車にも利用されていた。だが、メリットよりもデメリットのほうが増す状況になっていった。

客車列車のデメリットとは

 客車列車とは、自前の動力では動けない列車のことである。このことが、乗客の人数による編成の増減が可能なメリットを打ち消すようになっていった。

 まず客車の増解結には、入換用の機関車が必要であり、その手間もかかる。その場合、固定編成の電車をそのまま動かしたほうが楽なのだ。通勤時間帯には多くの人が乗り何両も必要な客車列車も、昼間の時間帯にはそれほど人が多く乗らず、一方でその度ごとに増解結を繰り返すというのは面倒である。

 また客車列車は、折返しの際に「機回し」を行わなければならない。到着した列車の機関車が反対側に行く場合、別の線路を使って移動する必要がある。その際には、別の線路をふさぎ、そこに列車が通れないようになる。そのことが、ダイヤ編成上の不便さを生み出す。

 最近では、長編成列車にまとめて乗客を乗せることよりも、短編成列車を多く走らせ、少しずつ乗せることのほうが求められている。地方の普通列車でも、本数が多いことが望まれ、その際には電車のほうが都合はいいということもある。

 さらに客車列車は電車や気動車列車に比べてスピードが遅く、列車ダイヤを作る上でもネックになる。そういったことから、客車列車は避けられていった。

 50系客車が登場した際には、普通列車の旧型客車置き換え車両として、余剰気味の機関車に牽引させるという方針だったが、JRになる前には事情は変わってしまった。

 また機関車運転士の養成課程は電車とも気動車とも別であり、SL・EL・DLともに違っている。あるJRでは、機関車の運転士の養成をやめたところがあると聞いたことがある。そのコストもまたかかる。

 そういうこともあり、機関車牽引列車は貨物を除き消えていった。

イベント色強まる機関車牽引列車

 いまの状況では、旅客列車は機関車が牽引するというだけで、イベントとして成立する。その時点で集客が見込まれ、沿線には多くのカメラが並ぶことだろう。

 クルーズトレインにも客車ではない車両がある現在、客車列車というものの珍しさはより高まっている。だからこそ、注目されるのだ。

(お詫び) 機関車の免許と養成課程の箇所、間違いがありましたので修正しました。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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