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東京23区や鉄道沿線の「格差本」がブーム! 鉄道各社もイメージ戦略に躍起

小林拓矢フリーライター
住民の意識と、社会階層に特徴のある中央線。都心までの通勤者が多い。(ペイレスイメージズ/アフロ)

『23区格差』『沿線格差』などと、東京圏の格差を話題にする本がちょっとしたブームとなっていた。とくに首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』(SB新書)は、筆者も寄稿していたこともあり、沿線と格差の問題は、考えることが多いものである。

社会学の重要な研究対象としての「都市」と「階層」

「都市」は社会学において、重要な研究対象であり続けた。社会学の中には、「都市社会学」というジャンルがある。

 社会学者、E.バージェスは、「同心円モデル」として、都心を中心として土地の利用と居住階層が分離する構造を説明した。たしかに東京圏という都市圏は、同心円モデルをそのままあてはめることは困難にせよ、地域によってどんな人が住んでいるかが異なり、生活スタイルや社会意識も異なっている。

 一方で社会学の世界では「階層」というものが重要な研究対象であり続けた。経済的格差を伴う社会層がさまざまにあり、その層を研究することで、社会のありようを見出そうとするものである。

 都市における社会階層が、「沿線」という概念を使用すると、わかりやすく見えてくるのだ。

路線網と社会階層の仕組み

 まずは山手線内、中央線より南側のエリア。このエリアには富裕層が多く住む。そのためのマンションも多く存在する。このエリアでは『日本経済新聞』がもっとも読まれており、新自由主義的な経済思想への親和性も高い。

 山手線内中央線より北側のエリア(とくに文京区)は、文教地区ということもあってか、知識層が多く住む住宅街となっている。このエリアではリベラルな論調の『朝日新聞』が読まれている。

 山手線の外側に目を向けていこう。東急東横線エリアがもっとも不動産価格が高く、そこを中心に外側に向かってなだらかに不動産価格が安くなっていく。もっとも安いのは、京成沿線、あるいは総武線沿線である。この不動産価格が下がるにしたがって、住民の大卒者率が下がり、『朝日新聞』購読率が下がる。

 山手線内だと、企業も多く富裕層も多いせいか『日本経済新聞』がもっとも読まれ、その新聞に書かれているような考えを持つ人が多くいる。

 山手線外では、大卒率と不動産価格により路線の社会階層的なポジションというものが決まっていく。なお、住宅街で大卒率の高いエリアでは、『朝日新聞』が読まれている。『朝日新聞』は、広告主向けの媒体資料で、大卒以上の読者が多いことをアピールしている。

 なお、各路線とも、郊外になればなるほど、不動産価格は下がっていく。

注目すべき中央線

 中央線は、沿線と社会階層を考える上で、興味深い路線である。中央線沿線は、大卒者が多く、『朝日新聞』の購読者も多い。不動産価格も高い。中央線の人たちは、沿線への帰属意識も高い。

 とくに注目すべきなのは、吉祥寺~国立間である。立憲民主党は選挙では強く、愛国的な論調で知られる『産経新聞』がほとんど読まれていない。都心に通う大卒ビジネスパーソンが主な住民である。リベラルな社会意識が非常に強く、アメリカでいえばカリフォルニア州のようなところである。

 その中でも国立は、一橋大学があることもあり、大学街として知られている。その大学生や大学院生は社会問題に対して強い意識を持ち、ときには学内でもさまざまな行動を起こす。

 カリフォルニア州にはカリフォルニア大学バークレー校という学校がある。リベラルな校風で知られる同校を中心としたバークレーという街は、「バークレー人民共和国」と呼ばれ、進歩的な雰囲気に街が満ちている。国立は、それに近いところである。

 沿線と社会階層、社会意識が強烈に結びついているのが、中央線である。

「沿線格差」に対応する各鉄道会社

 私鉄各社は、沿線ごとのイメージを確立させるために、さまざまな施策を行っている。各種関連会社の充実や、サービスの向上など、沿線住民にアイデンティティを持たせようとしている。

 東急は不動産事業や百貨店・スーパーなどの関連事業、クレジットカード事業で住民を囲い込む。小田急はロマンスカーに力を入れ、沿線のイメージアップに努める。京王は多摩動物公園エリアでの事業を強化し、子育て世代向けの路線であることをアピールしている。また京急は、沿線住民をファンにするべく、鉄道の魅力を前面に押し出している。

 そういった施策により各線住民は路線への帰属意識を高め、「愛線心」を育んでいく。

 どの鉄道会社も、自分のところが一番だと、「沿線格差」が叫ばれる現代において帰属意識を高めようとした取り組みに力を入れる。

 たしかに、東京圏ではどこにどんな人が住むか、というのは傾向として存在する。しかしそれ自体も、鉄道会社のターゲット設定によるものである。

 各沿線と社会階層が結びついているだけではなく、鉄道会社がその路線にアイデンティティをもたせようとすることによって、「沿線格差」の話題は、さらに広まりを見せてくる。それで議論になっていく。

 鉄道路線のありようが、そこに住む人々の意識を規定するのである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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