英EU離脱 通商交渉がようやく合意へ 年末年始の混乱は避けられるか
英国と欧州連合(EU)が、英国のEU離脱後の自由貿易協定に大枠合意し、24 日午前(英国時間)にも公式発表となる見込みだ。
英政府関係者の情報を基にした英メディア報道によると、懸案になっていた漁業権及び「公正な競争条件」に関する問題を解決したことで、一気に合意に向かっているという。細かな部分の調整を経て、ジョンソン英首相とフォンデアライエンEU委員長が記者会見を行う。
英国は2016年の国民投票を経て今年1月にEUを離脱したが、12月31日までは移行期間を設け、加盟時とほとんど変わらない状態にあった。
2000ページに上ると言われる合意文書は1月1日以降の英EU関係を規定するもので、英議会及びEU議会での承認が必要となる。
ここまでの交渉は難航し、もし合意なく移行期間が終了すれば、関税が発生し、物価を上昇させる可能性があった。通関業務が複雑になると、現在、新型コロナウイルス問題によって英ドーバー海峡で大型トラックが列をなしているような混乱が発生するとも言われてきた。
これまでの争点とは
交渉中、大きな懸案となったのは、一つには英海域での漁業権の問題だ。
英国は海に囲まれ、水産資源も豊富だ。EUは加盟国別の「排他的経済水域(EEZ=Exclusive Economic Zone)」を共通海域として一本化しており、これによって、加盟国の漁船は漁獲上限を守れば、他国の排他的経済水域でも操業できる。
このため、英国の排他的経済水域(以下、地図参照)にはフランス、ノルウェー、オランダを含むほかの加盟国の漁船が入ってきた。
英国はEU加盟国による英海域での漁獲量を減らすため、EUと毎年交渉をして漁獲割当量を決めることを主張。EUは長期の現状据え置きを望んでいた。
また、「公正な競争条件」でも交渉が難航。これは先に英国とEUが合意した「将来に関する政治宣言」の中で定められた、公正で開かれた競争を実現するための条件を指す。
例えば両者は政府補助金、競争法、社会・雇用規制、環境基準、気候変動、租税の分野で共通の規則・基準を採用することになっている。
EU側は英国が大幅な規制緩和を実施して、EU企業を出し抜く意図があるのではと警戒する。英国はEUの規則に縛られ続けることに反対で、規則違反逸脱の際の報復の厳しさにも反発していた。
10の注目点
BBCニュースのクリス・モリス記者が、合意内容の10の注目点を列記している。
これによると、
(1)漁業問題
英国側はEU漁船による漁獲高の80%削減を求めていたが、EU側は18%の削減を希望。さて、どちらがどれほど譲歩したのか。
(2)公正な競争条件
英国の企業はどこまでEUの規則を遵守することを求められるのか。
(3)紛争解決のシステム
英国とEUの間で合意に反する事態が発生した時、どこで紛争を解決するのか。
(4)欧州司法裁判所
離脱後は欧州司法裁判所の管轄には入らないと宣言してきた英国。その方針は維持されたのか。
(5)旅行
1月1日から、英国籍を持つ人がEU加盟国に旅行する場合、パスポートが10年以内に発効されたものであることや、有効期限が最低でも6か月あることが条件となる。これに変更があるのかどうか。
(6)金融サービス
英国の金融サービスは「EUの規則を遵守している」と見なされるのか。
(7)データ
EUから出るデータについて、英企業はどのような保護義務を持つのだろうか。
(8)製品基準
英国とEUを行き来する製品について、互いの基準を相互に認める形を取るのか。
(9)資格
英国で取得した資格、例えば会計士や調理師などはEUでも同様に認められるのだろうか。
(10)治安
離脱によって、英国はEUの治安当局のデータベースへのアクセスを失う。今後はどの程度の協力が可能なのか。
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ジョンソン首相とフォンデアライエンEU委員長による合意会見(英国の24日午前中に予定)後、合意案は年内に英国とEUの議会での承認を得て、来年から実施される。