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日本の「経験と知識に裏打ちされたキーパーソン」31人が全員男性 性の平等には「見える化」努力必要

小林恭子ジャーナリスト
英BBCによる、出演者の男女比率を半々にする試み(ウェブサイトより)

 最初に断っておきたいが、特定の本をバッシングするのがこの記事の目的ではない。しかしながら、筆者がこれまで日本のメディア報道の中で目にした「ある現象」を表している本だったので、一つの例として書いてみたい。

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 フェイスブックを眺めていたら、女性の友人がある本を紹介する記事について、コメントを出していた。

 記事のタイトルは「アフターコロナ」はどうなる? 31人の論客が語った金言名句を一挙公開で、この「31人の論客」がすべて男性なのだという。

 記事に飛んでみると、最初の2人の提言が紹介され、残りの29人の名前が掲載されていた。以下、記事からの引用である。

次ページ以降で29人のインタビューを掲載

掲載しているキーパーソンは次の通りです。アリババ DAMOアカデミーAIセンター長・華先勝氏、建築家・隈研吾氏、日本交通代表取締役会長・川鍋一朗氏、衆議院議員・平井卓也氏、星野リゾート代表・星野佳路氏、『感染症の世界史』著者・石弘之氏、日本経済団体連合会会長・中西宏明氏、連合会長・神津里季生氏、インテグリティ・ヘルスケア会長、医師・武藤真祐氏、理化学研究所計算科学研究センターセンター長・松岡聡氏、リクルート執行役員・山口文洋氏、レオス・キャピタルワークス社長・藤野英人氏、米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズCEO・エリック・ユアン氏、ボストン コンサルティング グループ 日本共同代表・杉田浩章氏、作家・竹内薫氏、編集者・黒鳥社・若林恵氏、ライゾマティクス・アーキテクチャー主宰・齋藤精一氏、米ムーブン創業者・ブレット・キング氏、インテル 事業企画・政策推進ダイレクター・野辺継男氏、京都大学大学院教授・藤井聡氏、東京大学大学院経済学研究科教授・藤本隆宏氏、社会学者・小熊英二氏、経済産業省・中野剛志氏、早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏、経済産業省商務・サービスグループ政策統括調整官・江崎禎英氏、情報通信研究機構理事長・徳田英幸氏、建築家・内藤廣氏、慶應義塾大学教授・村井純氏、ベンチャーキャピタリスト・伊藤穰一氏

出典:(日経XTECH)

 筆者は人名に何度か目を凝らしてみたが、「経験と知識に裏打ちされたキーパーソン」31人は全員男性のようだった(見落としていたら、ご指摘ください)。

 全員が男性であることを知り、筆者は衝撃を受けた。

 繰り返すが、「特定の本や記事の批判」が本稿の目的ではない。しかし、全員=男性と思ったとき、心臓がバクバクするように感じた。

氷山の一角

 なぜこれほど衝撃を受けたかというと、「2020年なのに、まだこんなことが」と思ったからだ。

 一体、何が問題なのか。

 あえて言えば、「31人」に女性が一人も入らなかったこと自体が問題なのではない。この企画自体が日本を代表するもの、というわけではないのだし、編集部が独自の視点で選択した人々である。どのような基準でそうしたのかは筆者には分からないが、編集部には自由に人を選び、本を制作する権利がある。「この人の意見を掲載するべき」という基準で選んだ時に、「トップ31人」の枠に女性は入らなかったのかもしれない。女性に声をかけても、「参加したくない」といった人がいたのかもしれない。

 筆者が問題視するのは、どのような基準であれ、編集部が「アフターコロナの社会への提言」という枠の中に31人を選んだ時に全員男性であり、そこで「あれ?女性は?」という疑問が出なかったようである点だ。

 「提言」をする場に女性が入っていないことが問題視されない=このこと自体が、筆者は大きな問題だと思うのである(今思うと、「男性の」とつけたらよかったのかもしれない。例えば「経験と知識に裏打ちされた男性のキーパーソン」など?それはそれで次の疑問を生んでしまうかもしれないが)。

 今後の社会を作っていくときに、「女性が普通にその場(提言の場)にいること」は非常に重要だと思う。

 「たかが1冊の本なんだから」、「海外では女性がもっと進出しているだろうけど、ここは日本だし」などという意見が聞こえてきそうだが、日本だからこそ、今だからこそ、「女性が普通にその場(提言の場)にいること」が重要だ。

報道番組で、女性の比率50%を目標とした英BBC

 英BBCは2017年から、報道番組の出演者の半分を女性にするプロジェクト(「50:50チャレンジ」)を続けている。番組「アウトソース」で司会者を務めるロス・アトキンス氏の発想で始まったプロジェクトで、ほかのニュース番組にも参加しないかと声をかけた。どれぐらいの比率を達成したのかを番組毎に競い合った。

 これまでの達成度を調査した「インタリムレポート」によると、当初は女性が50%あるいはそれ以上であった番組は全体の34%だったが、今年3月時点では66%に到達した。

プロジェクト開始すぐでは34%(上のグラフ)だったが、今年3月には66%(下)に(インタリムリポートより)
プロジェクト開始すぐでは34%(上のグラフ)だったが、今年3月には66%(下)に(インタリムリポートより)

 BBCのニュース番組を見ていると、司会者も含めて出演者(専門家、大学教授、NGOの代表など)のほとんどが女性である場合がしばしばあり、「ずいぶん女性が増えたなあ」と思っていたが、このような意識的な取り組みがあった。

 ほかのテレビ局も同様の流れになっている。

 メディア出演、政治界、経済界で女性が「普通にその場にいる」=「数に入っている」状態になると、子供にとっても大人にとってもそうした光景が常態となる。このため、例えば少女は「自分もメディア界に入る・政治参加する・企業の経営陣になる」ことを視野に入れるだろうし(逆に言えば、度外視しない)、少年はそんな少女が隣にいてもおかしくは思わない。少年少女の親もそんな進路選択を普通のこととして受け入れる。

 「社会に向かって、広くxxを提言する人」を選ぶときに、「女性が(も)入る」がデフォルトになる。入っていないと、「あれ?」と思うようになる。

 「2020年の現在、提言者の人選が一つのジェンダーのみで、これが特におかしいとは思われない」・・・という考えはすでに過去のものになった。

 ・・・と思っていたので、非常に筆者は驚いたのである。

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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