カショギ氏殺害で5人に死刑判決 皇太子側近は無罪に 豊富な石油資源と対米コネで批判を鎮静化できるか?

カショギ氏の婚約者だったトルコ人女性ハティジェ・ジェンギズさん(左)(写真:ロイター/アフロ)

 「正義と反対の結果が出た」。

 国連のアグネス・カラマード特別報告者は、23日、サウジアラビア出身のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された事件の判決について、こうツイートした。

 「殺害の実行者たちは死刑となった。殺害を計画した人物は無罪となった」、とも。

 首都リヤドにある刑事裁判所は、起訴された11人の中の5人を死刑とし、殺害を命じたともいわれる、事実上の最高権力者ムハンマド皇太子の側近らを無罪とした。

 報道の自由を擁護する組織「国境なき記者団」のクリストフ・ドロワール事務局長は、殺害実行者となった5人を死刑にしたのは、彼らを「生涯沈黙させ、真実を隠すためだったのではないか」と述べた。

カショギ氏殺害事件とは

 カショギ氏はサウジアラビアの政策を批判し、国外に出ざるを得なくなったジャーナリストの1人で、生前は米ワシントンポスト紙のコラムニストとしてよく知られていた。

 昨年10月2日、トルコ人女性のハティジェ・ジェンギズさんと結婚する予定だったカショギ氏は、必要な書類を整えるため、ジェンギズさんとともにイスタンブールのサウジ総領事館に向かった。同氏は1人で中に入り、ジェンギズさんは外で待っていた。

 サウジ側の説明によれば、殺害は「交渉チーム」のトップが命令したという。チームはサウジの情報機関の副代表によってイスタンブールに派遣された。目的はカショギ氏をサウジに帰国するよう「説得すること」、そしてもし同氏が帰国に応じなければ「強制的に」帰国させることだった。

 帰国することに同意しなかったカショギ氏は身体を拘束され、大量の薬を注射された。過剰摂取が直接の死因だという。同氏の身体はバラバラに切断され、総領事館の外にいた「協力者たち」に渡された。同氏の遺体は、まだ見つかっていない。

 リヤドで開かれた会見で、サウジ検察幹部はカショギ氏を帰国させるというミッションには、殺害は当初目的に入っていなかったと述べた。

 「その場で殺害が決定された。交渉チームのトップが総領事館を調べたところ、交渉を再開するための安全な場所」に、カショギ氏を移動させることが「不可能」と判断したためという。「そこで、チームのトップと実行班が総領事館での殺害を決めた」。

 国連報告者カラマード氏は、殺害の意図は当初なかったという結論は「完全におかしい」とツイートした。トルコの情報機関による盗聴記録によると、カショギ氏が総領事館に入ったと同時に、総領事館の担当官らがどのようにカショギ氏の身体を切断し、移動させるかを議論していたという。

 事件を調査した国連の報告書によると、殺害は「司法管轄外の処刑」であり、サウジ国家に責任がある、としている。ムハンマド皇太子を含むサウジ王室の指導部数人が殺害の背後にいることを示唆した。

 昨年11月、米CIAは、皇太子の関与は間違いないという結論を出した。

 皇太子は関与を否定してきたが、今年10月になって、「サウジアラビアの指導者として、特にサウジ政府のために働いていた個人が実行したことでもあり、自分が完全な責任を負う」と述べていた。

 サウジ検察当局は事件に絡んで31人を捜査対象とし、21人を逮捕。最終的に11人がリヤド刑事裁判所で裁かれ、そのうちの5人が死刑、3人が24年の禁錮刑となった。裁判は非公開で、11人の名前も公表されていない。

 サウド・カハタニ王室顧問が職を奪われ、殺害事件で捜査対象となったが、「証拠不十分」として起訴されなかった。アフメド・アシリ元情報機関副長官は裁判にかけられたが、同様の理由で無罪となった。

これから、どうなる?

 サウジ問題や諜報情報に詳しい、BBCのフランク・ガードナー記者の見方を紹介したい(BBCニュースなど)。

 「過去1年以上、カショギ氏の殺害はサウジの国際的名声に影を落としてきた」、「おそらく、ムハンマド皇太子側は今回の判決で、区切りをつけたいところだろう」。

 しかし、そううまくはいかないのではないかというのがガードナー記者の見方だ。

 殺害計画を練ったとされる2人の人物が無実となったことで、国際社会の批判が高まる可能性がある。

 それでも、豊富な石油資源と米国との強いコネを持つサウジ側は、批判の嵐がいつかは消え去り、「いつも通りに戻るだろう」と期待しているのではないか、とガードナー氏は指摘する。

 独裁政権の国家では報道の自由はないに等しく、ジャーナリストの仕事が命がけとなることは珍しくない。

 サウジアラビアは言論・報道の自由が保障されている国とは思われていないものの、「政府を批判する者は、残酷に殺される」というメッセージがカショギ氏の殺害によって世界に広く伝わり、大きな批判を招いた。カショギ氏は、文字通り「口を封じられた」のである。

英外相の声明文はおざなり?

 サウジ側が「ひとまず、これで区切りにしたい」と思う一方で、国際社会はサウジに何を求めてくるだろうか。

 筆者自身は、大国の方針として、「表向きは今回の事件をめぐってサウジを批判するが、ビジネスや政治上の事情から逆風が過ぎ去るのを待つ」になるのではと思っている。

 例えば、英外務省はドミニク・ラーブ外相による、判決についての短い声明文を発表している。

 「ジャマル・カショギ氏の殺害はひどい犯罪だ。カショギ氏の家族は、この残酷な殺害に対し、正当な裁きを受けるに値する。サウジアラビアは、確実にすべての関係者の責任を問い、このような残酷な行為が2度と起きないようにするべきだ」。

 「英国は、原則としていかなる状況下でも死刑の宣告を非難する」。

 声明文は一般的な物言いに終わっており、殺害への強い怒りが感じられない。

 カショギ氏よりも英国の国益の維持を重要視しているがために、強い批判ができないのではないか。

 例えば、英国にとって、サウジアラビアは重要な貿易相手だ。

 英国からサウジアラビアへの輸出額は2017年で42億ポンド(約5900億円)に上る。10年前と比較して、120%の増加だ。輸出項目は機械、航空機、武器、自動車など。サウジからの輸入(半分以上が石油)は24億ポンド。これは10年前の2倍以上である。

 世界の武器産業の動向を追うシンクタンク「ストックホルム国際平和研究所」の調査によると、2013年から17年の5年間でサウジに最も武器を販売していたのは米国(61%)、次は英国(23%)だった。

 同じく2013年から17年の5年間で英国の武器輸出はこれ以前の5年間と比較して37%増加しており、輸出先のトップはサウジアラビア(49%)となっている。

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