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ラジオで世界の最新情報を一足早く入手 ―ポッドキャストでBBC、「エコノミスト」を聞く

小林恭子ジャーナリスト
エリザベス女王がBBCラジオ4の番組「TODAY」のスタジオを訪問(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 (新聞通信調査会が発効する「メディア展望」1月号に掲載された、筆者の原稿に補足しました。)

 海外事情を紹介する際には文字情報(新聞、雑誌、ニュースサイト)から引用することが多いが、テレビやラジオも欠かせない情報源となる。特に筆者が重宝しているのがラジオである。

 近年、ラジオの聞き方は大きく変化した。以前は決まった時間に特定の放送局の周波数につまみを合わせて番組をリアルタイムに聞いていたが、現在はインターネットで聞く人が多い。リアルタイムに加えて、ポッドキャスト方式、つまり特定の番組を「購読」することで自分が所有する携帯機器にその番組が自動的にアップロードされるようにしたり、番組再生アプリを使って自分が都合の良い時に聞く。

 国際情勢、政治・社会・文化事情についての最新情報が収集でき、知的な刺激を得られる英国発のいくつかの放送局・番組を紹介してみたい。英語を勉強中の人にも大いに役立つのではないかと思う。

BBCのトークラジオの定番「BBCラジオ4」

 BBCのラジオ局の中に「BBCラジオ4(フォー)」というチャンネルがある。トーク専門の教養チャンネルで、ニュース好きにはうってつけだ。

 筆者がほぼリアルタイムで毎晩聞いているのが、平日午後10時から45分間の「The World Tonight」(以下、特記以外は平日)。その日の国際ニュースが網羅され、現地リポートや政治家インタビューが入る。

 筆者はこの番組を聞くと、「世界」が自分のもとにやって来た思いがする。2012年12月に、インド・ニューデリーで女子大学生が男性数人にバスの車内で集団レイプされ、死亡する事件があった。この時、別のレイプ事件の被害者となった女性が「The World Tonight」に出演し、被害の状況について話した。司会者やレポーターが代弁するのではなく、この女性の生の声を直接聞いた時、レイプされたことへの痛みや悲しみが鮮明に伝わってきたことを覚えている。しばらくの間、彼女の声を忘れることができなかった。

 気になるニュースがある日は午後1時の「World At One」、午後5時の「PM」が役に立つ。いずれの番組でもベテランの司会者が鋭いインタビューをこなし、ニュースをより深く紹介する。

 政治ジャンキーの人には午前6時(土曜のみ午前7時から)の「Today」を午前8時過ぎから聞くことをお勧めする。大物政治家のインタビューがあり、その日のトップニュースになることもある。

 国会開会中は午後11時半からの「Today in Parliament」がその日の政治議題を振り返る。日曜日午後10時からの「Westminster Hour」は若手政治家数人が出演する。比較的リラックスした雰囲気の中で議論が進む。それぞれの政治家の名前を覚えたり、将来の大物の「芽」を掴むことができる。

 ニュース解説番組でもし「1本のみ」に絞るとしたら、毎週木曜日午後8時からの「The Briefing Room」を挙げたい。タイムズ紙のコラムニスト、デービッド・アーノロビッチが司会役となり、その時々のトピック(ソーシャルメディアの伸長、サウジアラビアの改革、北朝鮮の脅威など)についての数人の専門家の見方を紹介する。北朝鮮問題ではもし実戦となったらどの程度の被害が出るのか、また抗生物質が効かなくなる状況はどこまで広がっているのかなどを聞いているうちに、身震いがしたものだ。「一歩先の」情報を得たい方にぴったりだ。

 メディア状況の把握には水曜日午後4時の「The Media Show」がある。司会者は元高級紙インディペンデントの編集長だったアモル・ラジャン。それまでの経験を活かし、年末には高級紙フィナンシャル・タイムズ(FT)やガーディアンの編集長らを質問攻めにした。例えばFTの編集部が広告部からの圧力で紙面を変えたことはないのかと問い詰めた。答えは「ない」だった。編集部と広告部の間には干渉しないための壁があるという。

 ニュース解説番組としては毎週火曜午後8時からの「Analysis」もあり、現在のトピックを長期的な視点からとらえる「The Long View」も人気が高い。後者はガーディアン紙のコラムニスト、ジョナサン・フリードランドが進行役となり、今問題になっているトピック・事件と文脈が似ている過去のトピック・事件を取り上げ、これにちなんだ場所に専門家や俳優とともに出かけて何が起きたかを再現する。現状が違って見えてくる。

 BBCラジオ4の聞き手の中で非常に人気が高いのが、作家兼司会者のメルビン・ブラッグが仲介役を務める「In Our Time」(木曜日午前9時放送)だ。その時々のトピック(例えば1814年の「ウィーン会議」、ピカソのゲルニカ、数学者ガウスなど)について専門家となる数人の大学教授をスタジオに呼び、ブラッグによる問いかけに学者たちが答える形で、そのテーマの全容を構築していく。

 文化・娯楽関係に関心があれば、映画俳優、監督、アーチストなどの肉声が聞ける「The Film Programme」 (日曜午後11時)や「Front Row」(月曜午後7時15分)がある。

 上記の番組を筆者はBBCラジオの専用アプリあるいはポッドキャストで聞く。日本でもし専用アプリが入手できない場合、BBCラジオ4のウェブサイトからアクセスできる。

 同じ番組でも放送分とポッドキャスト分では異なる場合がある。例えば「The Media Show」ではポッドキャスト版は放送分より数分長く、著名ゲストのインタビューの長尺版を配信している。

 夕方のニュース番組「PM」はポッドキャスト版で「iPM」という番組を配信しているが、これは読者が寄せた体験談を取り入れる。例えば不倫をした男性のインタビューが放送されたことがあったが、これに妻の側のインタビューが続いた。別のエピソードでは、娘が麻薬中毒になった母親のインタビューの後、今度は娘が登場して自分の気持ちを吐露した。ご関心がある方はサイトをご覧いただきたい

―「エコノミスト」とFTのポッドキャスト

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」はポッドキャスト用の番組をいくつかそろえているが、オリジナルの「The Economist Radio(All audio)」を購読登録すると、その週にどんな出来事が起きるかの紹介、その時々のトピックについての議論に加えてインタビューが楽しめる。インタビューは俳優やミュージシャンも登場し、「トランプ政権の1年を振り返る」と称してエコノミスト誌の記者二人に知識を競わせる番組もあった。

 知的な友人・知人たちの会話の場に居合わせたかのような感覚が楽しめるのが、フィナンシャル・タイムズ(FT)のポッドキャスト番組「FT Politics」(毎週土曜配信)である。司会役のセバスチャン・ペイン記者に政治記者、論説委員などが加わって、政権の行き先についてしゃべり合う。最近の英政治情勢は変化が激しく、記者たちの見立ては次週までに大外れとなることもあった。しかし、それが逆にその時々の雰囲気をストレートに伝えている証拠でもあり、この番組のだいご味でもある。

 ながら聞きを停止して内容に耳を傾けざるを得ないのが、毎週水曜日に配信される「FT World Weekly」である。論説面のコラムニスト、ギデオン・ラッチマンが複数の専門家やFTの記者に国際情勢の分析をしてもらう。BBCラジオ4の「World Tonight」で出たトピックを掘り下げる論点が紹介される。

 近年、「パナマ文書」報道が世界の耳目を集めたが、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税金逃れや金融グローバル化の諸問題を解決するために立ち上げられた英国の民間組織「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN=税金正義組織)」は、毎月一度、「The Taxcast」という音声版ニュースレターを配信している。この問題にご関心がある方にお勧めしたい。

 英主要メディアはポッドキャストに力を入れているが、ブームを作るのに大きな貢献をしたのは2014年、米ラジオ番組「This American Life」のスピンオフとして始まった「Serial」というポッドキャスト番組の大人気だった。1999年にボルティモア高校で発生した実際の殺人事件を追う構成になっており、2016年3月末まで続いた。1年後には新たなシリーズ「S-Town」の配信を行った。「Serial」は今年、新シリーズの配信が開始予定となっている。

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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