欧州の「ジハディスト」とは何者か ―イタリアのシンクタンク「ISPI」が調査

マクロン仏大統領は10月30日、テロ対策の新法を公布すると述べた。(写真:ロイター/アフロ)

(新聞通信調査会発行の「メディア展望」10月号に掲載された、筆者原稿に補足しました。)

 欧州で、イスラム系テロ事件が止むことなく続いている。

 2004年3月に発生したマドリードでの列車テロ事件以降、テロが起きない国と思われていたスペインも再度テロに見舞われた。

 今年8月17日夕方、スペイン北東部の主要都市バルセロナの繁華街で、ワゴン車が歩行者を次々とはねる事件が発生した。続いて翌18日にはバルセロナから南西に約120キロ離れたカンブリスで、海岸沿いの歩道にいた歩行人に車が突っ込んだ。事件後に亡くなった人を含めると16人が死亡した(実行犯を含まない数字)。

 筆者はこの時、休暇でフランス・リヨンにいたが、18日時点で実行犯がスペインから国外に逃げたという情報があったせいか、繁華街には武装警官が多く目についた。

今年秋、バルセロナ中心街の様子。警察の監視用車両が置かれていた(筆者撮影)
今年秋、バルセロナ中心街の様子。警察の監視用車両が置かれていた(筆者撮影)

 欧州では誰もが逃れられない事件となってきたイスラム系テロの実行者(「ジハディスト」)は一体、どんな人物なのか?

 今年6月、イタリアのシンクタンク「ISPI」がこの問いに答える報告書「汝の隣人を恐れよ ー西側諸国での過激化とジハディストの攻撃」を発表している(ここでの「西側諸国」とは欧州連合加盟の28カ国とノルウェー、スイス及び北米を指す)。2014年から今年5月の英マンチェスター・テロまでに発生したテロ事件から見えてくる犯人像を調査した。

 しかし、その後もテロが続々と発生したため情報をアップデートし、8月末時点までの状況について、報告書の書き手の1人であるロレンツォ・ヴィディノ氏がBBCニュースに寄稿(8月30日付)している。

 同氏の寄稿記事と報告書の内容の一部を紹介してみたい。

 なお、報告書の書き手は「ジハド(聖戦)」が必ずしも暴力的攻撃ではないことを承知している。しかし、イスラム系テロを行う者を一般的に「ジハディスト(聖戦戦士)」と呼ぶことが多いため、ジハド、ジハディストという表記を報告書の中でも使っているという。

3年間で63件のテロ攻撃

 ヴィディノ氏によると、イスラム系テロの大部分は欧州及び北米地域以外で発生しているものの、イスラム過激集団「イスラム国(IS)」のアブー・バクル・アル=バグダディがイスラム帝国の建設を2014年6月に宣言してから、この地域でのテロが急増しているという。

 2014年9月に米オクラホマ州の食品処理工場で男が首をはねられた事件から、今年8月末のスペインのテロ事件まで63件のイスラム系テロ事件がこの地域で発生した。犠牲となった死者は424人、負傷者は約1800人。最も死者が多かったのは2015年11月のパリ・テロ(130人死亡)で、国別ではフランス、米国、ドイツ、英国、ベルギーで多発している。

 実行犯(85人)の平均年齢は27・5歳で、特に若いわけではない。最年少は15歳で、一人は仏マルセーユでユダヤ人の教師をナタで攻撃し、もう一人は独ハノーバーの駅で警官を刺した。最高齢は54歳で、オーストリアの都市リンツで高齢者のカップルを刺殺した。実行犯の大部分は20代だった。85人の中で女性は2人のみ。

 実行犯の74%はその国の捜査当局などがすでに何らかの形でその存在を知っていた(この項目のみ、8月に発生したテロ事件の実行犯を除く。以下、50%、26%、64%も同様)。50%に犯罪歴があり、26%は服役経験があった。64%はテロ攻撃が発生した国の国籍を持っていた。

 テロと移民あるいは難民とを関連付ける議論がよく起きるが、実行犯の中で違法移民や難民の割合は非常に小さいという。大部分がその国で生まれ育ったか、合法に移民となったか、近隣国から合法にやってきた人物であった。

 西欧に非合法にやって来て、テロを実行した例としては2015年11月のパリ・テロがある。実行犯のうち少なくとも2人が難民と称してギリシャからフランスに渡ったと見られている。難民申請中であった実行犯には今年4月ストックホルムでトラックをハイジャックして4人を殺害した、ウズベキスタン出身のラクマット・アキロフや、昨年12月ベルリンのクリスマス・マーケットでトラックを使って攻撃を行った、チュニジア出身のアニス・アムリがいる。

ISとのつながりは

 実行犯とISとの関係では、ISから直接指令を受けて複数の場所でテロを行ったのがパリ・テロと2016年3月に発生したブリュッセル・テロ(犠牲となった死者は32人)だ。この2つの事件の実行犯の何人かは、シリアなどでIS戦士として戦った経験を持つ者であった。

 パリ・テロとブリュッセル・テロ以外に多数の犠牲者が出たのは、2016年6月の米フロリダ乱射事件(死者49人)や同年7月の仏ニース・テロ(死者86人)だ。この2つの事件の実行犯はISやそのほかのジハディスト・グループと連携がなく、個人が独自に引き起こした事件だった。つまり、「紛争地に一度も足を踏み入れたことがないが、一人でテロを実行できる人物が高度に訓練された戦闘員のチームと同じくらいに危険」であることが分かる。

 海外のジハディスト・グループと実行犯の関連性を証明するのは容易ではない。報告書は2014年から今年5月のマンチェスター・テロまでのテロ事件を3つに分ける

 (1)IS指導部から直接指令を受けた場合(全体の8%)

 (2)ISとは全く関係ないが、ISのメッセージに触発されて発生した場合(26%)

 (3)ISと何らかの関係があるものの、直接の指令を受けずに自らの判断でテロを実行した場合(66%)だ。

 例えISが犯行を実行させたのは自分たちであると述べたとしても、証拠を出していないので、関係性を判別できない。

 しかし、ISの影響は多大だ。実行犯10人中6人がジハディスト・グループ(ISであることが多い)に忠誠を誓っているからだ。

 過激化のパターンを見つけるためには実行犯の社会的背景や融合の度合の研究が重要になるが、これだけでは過激化する原因を見つけ出すのは困難という。

カギは拠点(ハブ)の存在

 カギを握るのは過激化の拠点(「ハブ」)の存在だ。ハブは戦闘的なサラフィー主義(イスラム教スンナ派の厳格派)のグループ、過激主義思想のモスク、カリスマ的魅力を持つ人物、友人同士のグループなどを中心として築かれる。社会的背景よりもこうしたハブの存在が過激主義への移行を促す主因と報告書は見ている。

 「テロリストに一つの決まったプロフィルはない」ものの、実行犯の74%が攻撃を行った国の国籍を持っており、「ホームグロウン」(その国で育った)の人物である場合が多い。

 現在、ISは中東で軍事的にはその影響力を減少させつつあるが、「グローバルな聖戦に向かわせる動機はISがなくなっても続き、今後何年にも渡って西側諸国への脅威となるだろう」と報告書は予測する。

 この脅威に対抗するにはどうするか。報告書は、包括的なアプローチが必要だという。諜報情報を強化する、共有するとともに、過激化を止めるプログラムも必須となる。

 報告書の書き手となった3人は、ヴィディノ氏(米ジョージワシントン大学の「過激思想プログラム」のディレクター、ISPIの「過激化と国際テロ・プロラグム」の統括者)、フランチェスコ・マロン氏(ISPIの同プロラグムのアソシエート・フェロー)、エヴァ・エンテンマン氏(オランダ、ハーグにある「反テロリズム国際センター」のプログラム・マネージャー)である。

 報告書の構成は「近年、欧米諸国でのイスラム系テロが始まるまでの背景」(第1章)、「過去3年の攻撃とその分析」(第2章)、「攻撃の三部構成」(第3章)、「過激化ハブの役割」(第4章)に加え、事件及び攻撃者のリストが付く。欧州・北米のイスラム系テロ事情の研究に役立ちそうだ。

 報告書は以下からダウンロードできる

10月末のNYテロ

 秋以降も、米国・欧州でのイムラム系テロが発生し続けている。

 10月31日には、米ニューヨーク・マンハッタンでトラックが自転車専用路を暴走し、8人が命を落とした。ウズベキスタン出身のセイフロ・サイポフ容疑者がテロ犯罪の疑いで訴追されている。