英官邸前で「メイ首相、辞任せよ」コールに数千人結集 「大混乱」政権の発足阻止を求める
6月8日の英総選挙で過半数の議席を取れなかった、与党・保守党。メイ首相への辞任コールは日々強くなるばかりだ。
選挙から1週間も経たないうちに、ロンドン西部の低所得者用高層住宅で火災が発生し、現在までに少なくとも58人が行方不明で死亡した(ロンドン警視庁)。
火災の原因はまだ分かっていないが、住宅を運営するケンジントン・チェルシー行政区が住宅に十分な防災設備を設置していなかったのではないかと言われている。
「低所得者をおざなりにした」と言う批判の矛先は行政区ばかりではなく、メイ政権にも向けられている
17日午後、ロンドン市内の数か所で反政府の抗議デモが行われた。そのうちの1つ、ガーディアン紙のコラムニスト、オーウェン・ジョーンズ氏がフェイスブックで呼び掛けた官邸前のデモに行ってみた。
参加者は数千人規模と言われている。フェイスブックで「行く」と答えた人は3400人を超えた。
壇上には労働党のルッパ・ヒック議員、アンジェラ・レイナー議員、労組幹部などが登場し、反メイ政権の演説を行った。
抗議デモのテーマは「DUPとの大混乱の連立政権発足には、ノー」だ。DUPとは北アイルランドの地方政党「民主統一党」のことだ。
何故、「DUPとの連立にノー」なのか
保守党が過半数の議席を取れなかったため、メイ首相はDUPとの閣外協力の話し合いを続けている。18日朝時点で、まだ交渉は終わっていない。
北アイルランドでは、プロテスタント系とカトリック系の住民の対立が続いている。
DUPはプロテスタント系の政党で、北アイルランドが英国の一部であることを望んでいる。一方、カトリック系政党のシンフェイン党はアイルランド半島の南を占めるアイルランド共和国と1つになることを願う。
1998年の「聖なる金曜日協定」により、プロテスタント系とカトリック系の政党がともに地方自治政府を担当する形が続いてきたが、地元のエネルギー問題をきっかけに、今年1月、自治政府が崩壊。政府復活のための話し合いが続行中だ。
協定によると、英国政府は「中立の立場」で北アイルランドの自治を支援することになっている。
しかし、もしDUPがメイ政権に閣外協力をすることになれば、「中立性」が崩れてしまう。
こうした協力では政府側が何らかのオファーをすることが推定される。DUPは北アイルランドへの投資を「おねだり」すると言われており、メージャー元首相は英政府が中立の立場から逸脱することを指摘している。国内の中でもことさら北アイルランドに投資されることへの疑問も呈した。
レイナー労働党議員は「メイ首相は選挙前に、労働党に投票したら、大混乱の連立政権ができると言っていました。それも、コービン労働党党首と言う弱い指導者の下で」。
「それが今はどうでしょう。メイ首相こそが弱い指導者で、大混乱の連立政権になるのではないでしょうか」。
集まったデモ参加者から、一斉に指示の声があがる。
「DUPと協力するなんて、信じられません。DUPは権力の座にいるためには、自分の祖母さえを売ることを何とも思わない政党なのに!」
コービン氏による労働党政権発足を願う
デモには幅広い年齢層が参加していたが、若者たちの姿が良く目についた。
労働党支持者、反メイ政権支持者、今回の住宅火災での政府の対応に大きな不満を持つ人などが参加していたようだ。
最大野党・労働党は保守党との議席数の差を縮小し、選挙には負けたが「大躍進」と受け止められている。特に「コービン氏では選挙に勝てない」と労働党議員でさえそう思っていたからだ。
「大混乱」が続く中で、メイ政権を退陣させ、労働党を政権につかせたい…そんな強い思いが充満する抗議デモだった。
「メイ、辞めろ」というシュプレヒコールが響く官邸前からウェストミンスター議会に向かって歩くと、パブで土曜の午後を楽しむ人々がいた。