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【権力との戦い方】英調査報道センター所長に聞く -ジャーナリズムが国家機密と格闘するとき

小林恭子ジャーナリスト
非営利組織「調査報道センター」(CIJ)のウェブサイト

(日本の調査報道にエールを送るために、過去記事に補足したものを数本、ここに掲載しています。オリジナルは「Journalism」ーー朝日新聞出版社ーーに2010年から2011年に掲載され、筆者のブログやキュレーション・メディアなどに転載されました。)

国家機密に相当するリーク情報をメディアが入手したとき、これをいかに扱うべきだろうか。国家機密とメディアの関係について、ロンドンシティ大学に拠点を置く非営利組織「調査報道センター」(CIJ)の所長で同大教授ギャビン・マクフェイデン氏に見解を聞いた。(朝日新聞「Journalism」2011年4月号掲載分に補足したものです。)

米国人のマクフェイデン氏は、所長就任前、米英両国でドキュメンタリーや調査報道番組のプロデューサーとして活躍した。ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジは友人の1人。メガリーク報道では、ウィキリークスから直接生情報を入手し、これをCIJの姉妹組織で非営利の番組制作団体「調査報道局」に提供する橋渡し役を演じた。長年の経験を元にした、歯に衣着せぬ物言いを拝読していただきたい。

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「メガリークは民間人の組織的殺害を明るみに出した」

―どのようにしてウィキリークスと関わるようになったのか?

マクフェイデン所長:有名になる、はるか前から知っていた。

ウィキリークスに興味を持ったのは内部告発者の身元が本当に擁護されていると思ったからだ。内部告発者は身元が十分に守られていると確信できないと、告発しようとは思わないものだ。きちんと守ってくれる体制があれば、もっと告発者が出てくるだろう。ウィキリークスはこうした見方が当たっていることを十二分に証明した。

私たちがウィキリークスに注目し始めたのは2007年ごろ。実際に、直接ウィキリークスと関わるようになったのは2010年5月か6月だ。代表者ジュリアン・アサンジがアフガニスタンやイラクでの米軍の戦闘日記や外交公電情報を公開する準備のために、ロンドンにいた頃だ(注:アフガン紛争についてのメガリークは2010年7月末、イラク戦争については4月、大々的には10月、外交公電は11月末)。最初は、アサンジはガーディアン紙と共同作業を行っていた。

CIJの妹的な存在となるのが、「調査報道局」(Bureau for Investigative Journalism、BIJ)だ。これはCIJ同様に拠点をロンドンシティ大学に置いているが、番組制作を担当している。テレビ用の映画を作る。

BIJがウィキリークスとイラク戦闘日記の件で共同作業を行った。CIJやBIJなどから人が集まって、情報の処理に取り掛かった。他のメディアがアフガン戦闘日記の情報を公開したときのような間違いを犯さないように、とね。あの時は消すべき名前が消されなかったことがあったからだ。

―何人ぐらいが関わったのか?

大体20人ぐらいだ。最多でも23人ほど。生の情報から危険だと思われる部分を消してゆく作業に関わった。作業は大成功で、不本意に出てしまった名前は一つもなかった。

―作業を通して、見えてきたことは何か?

1つには、民間人が数千人規模で組織的に殺害されたという点だ。ベトナム戦争と比較しても、バグダッドの路上でさらに多くの人が殺害された。例えば、ある場所で680人が亡くなったことがあった。このうちの11人は戦闘員だったが、そのほかは民間人で、女性や子どもたちもいた。

こういう情報は米政府を喜ばせなかった。そこで、米政府はすぐにウィキリークスやアサンジを攻撃し出した。米国の新聞の大部分が、メガリークの情報を掲載しないようにと政府から圧力がかかった。今(注:2011年)でもそうだ。

―イラク戦争の情報が出た後での圧力か?

アフガン、イラクの戦闘記録、外交公電―すべてだ。愛国心に訴えて、「頼むから掲載しないでくれ。政府が困ってしまうから」と。

CIJやBIJのジャーナリズムは違う。ジャーナリズムは独立した存在であるべきだ。政府や野党勢力のプロパガンダのための広報官にはならない。

―英政府と一連の報道に関して連絡を取ったのだろうか?

取らなかった。全然なかった。英政府がまったく関与しないというのは珍しい。政府と私たちは全然関係ない。政府はこちらに連絡を取らなかったし、こちらからも政府に連絡を取らなかった。ただ、ガーディアンの上層部は連絡を取ったかもしれないが。

―しかし、政府あるいは軍事関係者に連絡を取って、情報の信憑性を確認する必要があったのでは?

なかった。元軍隊にいた人からの情報があって、「この数字は正しいか?」「この場所は、これで合っているか?」などと聞くことができたからだ。

―先ほどの、20人ほどの作業者というのは全員がジャーナリストか?

ジャーナリストとテクノロジー関係者だ。実際に、数千もの名前を消す作業にはコンピューター技術の知識が必要だった。データベースの専門家なども使った。CIJではこうしたことも教えているので、普通のジャーナリストよりはデータベースやコンピューターに関して詳しい。

―どうやって秘密を守らせるようにしたのか?

厳しくコントロールした。作業室には他の人が誰も入れないようにした。作業に関しては、部外者には、これは家族も含むが、話してはいけないことにした。これが作業に参加する条件で、情報を門外不出とする契約書に署名してもらった。誰一人、情報を漏らした人はいない。

―それはすごい。

全員が調査報道を経験しており、政府に仕事上の秘密を話したりするような人たちではない。

―お金のために情報を売る人もいるが、ここのスタッフはもちろん、そういうことではなかった、と。

そうだ。

―情報は、ウィキリークスから直接受け取ったのか?

そうだ。

良心が関わってくるとき

―内部告発で得た情報は「盗まれたもの」であるという理由から、これを大手報道機関が公開することを批判する声があるが、どう思うか。

政府や企業との雇用契約の中で、職務上知り得た秘密を口外しないという項目があった場合、雇用主は従業員に情報の守秘を要求する権利がある。

しかし、良心の問題がある。情報を得て、それが道徳的あるいは倫理的に悪いことだと思ったら、内部情報を広く公開することは市民の義務だと思う。大きな犯罪を露呈させるために機密情報を明るみに出す行為は、公益という目的において正当化される。企業の利や政府が困惑するかどうかよりも、公益目的の内部告発を優先するべきだ。

政府がある情報の公開を拒むとき、ほとんどの場合は自分たちが恥をかきたくないためだ。政府は国民が払う税金によって仕事をしている。恥をかいたって、それはそれでいい。政府は困るかもしれないが、国民は心配しなくてもよい。

―しかし、国益のために、政府は秘密を守る権利があるのではないか。

政府はいつも「国益のために」という。たいがいの場合、政府が誰かから賄賂を受けとり、その事実を暴露されたくないときにこれを理由として使う。

―民主主義社会では、国民には国家に関わるほぼすべての情報について知る権利がある、ということか?

そうだ。ほぼ100%の情報に関して、知る権利がある。

―公開されれば人命を危険にさらす、あるいはプライバシーを侵害するなど、ごく少数の例外を除く、ということだろうか。

そうだ。例外というのは、個人の例になるかと思う。私やあなたの健康関連の情報は公開されるべきではないと思う。銀行口座の情報もそうだろう。こうした情報はあなたの情報であって、政府の情報ではない。

―米国メディアは人々の知る権利よりも、国益を優先化していると思うか?

そうは思わない。同意しない。(米国人として)そういう見方に反論したい。

国民のために、つまり、「公益」というのは原則だ。国民が政府に対し、国民のために働くように権力を与えている。国民のためにであって、国民の利に反するために働くのではない。国民は自分たちが支払ったお金がどのように使われているかを知る権利がある。選挙で選んだ人がどんな仕事をしているのかを知る権利がある。

どのように公的なお金を使っているのか、どのような仕事をしているのかに関して透明性がないと、説明責任がなくなる。政治家にしてみれば、何も質問をしない国民は扱いやすい。何でもやりたいことができる。私たちは何が起きているのか知らされなくなる。しかし、もし国民が何が起きているかを知っていれば、もし間違った方向に物事が進んでいれば、これを正すことができる。

「国益が意味するところを権力者は説明しない」

―ジャーナリストは公益よりも国益を時に重視するべきか。

ジャーナリストは公益のためにこそ存在する。国益という考え方そのものが何を指すのか。一体誰のための国益なのか、一握りの銀行家のための国益か。どこかの軍人のための国益か、あるいは国民全体の利益のことか。私自身は、一般的にいって、国益という概念を容認しない。国益が何を意味するのかを権力者は説明しない。

―メガリーク報道をめぐる米政府やメディアの対応をどう見るか。

米政府はすぐにウィキリークスとアサンジに対する攻撃を開始した。また、大部分の米国の新聞は暴露報道をしないようにと圧力をかけられた。政府側は新聞社の愛国心に訴えた。「どうか報道はしないでくれ。米政府が困惑するから」と。

米国の大手報道機関は難しい状況に立たされた。ジャーナリストたちはスクープを欲しがる。しかし一方では、メディア自体が巨大化し、大きな権力になっている。そこで、政府が耳元でこうささやく。「この報道は勧められませんね。出さないほうがいいんじゃないですか。政府批判なら別のこんな話はどうですか。今回の話だけはやめてください」と。メディアはいつもアクセスをしたがる。アクセスがすべてといってもいいくらいだ。

―「アクセス」とは?

権力へのアクセスだ。すべての大手メディアが、オバマ米大統領に電話して、プライベートに何かについて話してくれることを願っている。もしオバマ大統領に反対する記事を書けば、アクセスは難しくなる。アクセス権が、当局の情報開示を阻む武器になっている。

ペンタゴン事件のときとは状況が違う

―「ペンタゴン文書」事件(米国防相の指示の下で作成された極秘報告書「ベトナムにおける政策決定の歴史1945-68年」が、1971年、シンクタンクの調査員ダニエル・エルズバーグによってニューヨーク・タイムズにリークされた。政府は報道差し止め令を裁判所に出させたが、審理の結果、この差し止め令は解除された)のときと比較して、ニューヨーク・タイムズは変わったと思うか?

そう思う。いや、タイムズ自体が変わったというよりもータイムズは前よりもリベラルになっているーー周りの環境が変わった。

ペンタゴン文書の際には、米社会の非常に重要な階層の人々が、ベトナム戦争に反対していた。今でもイラクやアフガン戦争に反対の人がいるが、ベトナム戦争のときのようには、その声が表に出ていない。

あの時、たくさんの人が参加する反戦デモが頻繁にあり、何万人もの兵士が軍隊から逃げて、カナダやスウェーデンに向かった。まだそういうことは米国では起きていない。

ベトナム戦争をめぐって、当時は米社会に大きな変化が起きていた。そうした背景があって、ペンタゴン文書のリーク報道があった。今は、ペンタゴン文書のときのような、ニューヨーク・タイムズへの熱い支持は起きていないと思う。

そして、ベトナム戦争時には、政権の上層部が戦争継続に反対だった。今はそうではない。少しはいると思うけれども。しかし、イラクやアフガンの戦況を見て、社会の上層部が圧倒的に反戦となる動きにはなっていない。

―ペンタゴン文書の件についてだが、ある日本の論客が言うには、「ニューヨーク・タイムズは、国益に考慮した公益のために行動した」と述べた。したがって、ニューヨーク・タイムズによるペンタゴン文書のリーク報道はメディアの勝利ではない、と。私がそう思っているわけではないが。

私もそうは思わないがー。変な論でもあるね、というのも、ニューヨーク・タイムズなどの大手の新聞が、何かに関する真実を報道したことで政府によって攻撃を受けるのは、この100年で最初だったからだ。当時それが可能になったのは、裕福で権力も持つたくさんの人が反戦だったからだ。

アフガンやイラク戦争に反対する人は今いるけれども、数が小さい。

ベトナム戦争が始まった時、米国は大きな繁栄時期にいた。本当に裕福な時代だった。しかし、イラクやアフガン戦争は、大きな金融危機の時期と重なっている。負債がこれまでにないほど膨らみ、崩壊の危機だ。国民はすべてのことに恐れを抱いているーベトナム戦争の時と比べると。

今、右派勢力は当時よりももっと組織化されている。右派政治家セラ・ペイリンはその典型だ。こうした人たちがアサンジを殺せ、と主張している。二つの戦争を支持したのもこういう人たちだ。

ペンタゴン文書の時代と今は、ずいぶんと違う。

ガーディアンの失態

―今回リークされたのは米国の外交公電だったが、例えば英国の外交公電がリークされたとしたら、ガーディアンを含めた英国の新聞は堂々と情報を報道できると思うか?

できないと思う。英国の新聞は倒れてしまうのではないかな。公務員機密守秘法とか、米国と違っていろいろ厳しい法律があるからだ。米国には英国の公務員機密守秘法に相当するものはない。米憲法の第一条修正で表現や宗教の自由の権利が保障されている。

英国、フランス、ドイツ、それにほとんどの欧州諸国、それと多分日本でも、法律上の問題で外交機密レベルの情報を報道するのは難しいだろうと思う。すぐに刑務所に送られることだってあるだろう。

ガーディアン自体が、セーラ・ティズドール(Sarah Tisdall)という内部告発者を牢獄に送ったことがある(*ティズドールさんは元外務省職員。1983年、政府の機密書類を省内でコピーし、ガーディアンに送った。政府は裁判でコピー文書を渡すよう、ガーディアンに要求。ガーディアンが渡した書類を精査すると、外務省内のコピー機を使っていたことが判明し、ティズドールさんは公務機密法違反で実刑となった。)警察がガーディアンに告発者の名前を聞き、ガーディアンは名前を教えてしまった。ほかにもあるが、これが最悪のケースだったと思う。この事件は、その後の調査報道の進展に大きな悪影響を与えたと思う。

英国の新聞は法律を真面目に考える。英国の名誉毀損法は非常に厳しくて、名誉毀損ではないことを、ジャーナリスト側が証明する必要があるために、さらに状況は厳しい。

―調査報道で、少々非合法の手段を使うことは、真実を探るためには仕方ないと思うか?

非合法な手法の大部分はコンピューターを使わなくてもできるものだ。例えば著名人のゴミ箱をあさるとか。「ゴミ箱男のベニー」と呼ばれる人物がいた。複数の新聞社に雇われて、著名人のゴミ箱をあさって情報を探した。まったく汚いやり方だけどね。

私たちは一般的にいって、そういうことはやらない。ハッキングもしない。罰金が高すぎる。それに、原則として、よっぽどの理由がない限り、個人のプライバシーを侵害したりはしない。

もしどうしてもやるとすれば、例えば、重要な社会問題、医療や軍事情報、人権の乱用などの本当に大きなことを探るときだ。

しかし、普通は違法行為はやらないし、違法行為を可能性として考えることさえしないーよっぽど重要なことでなければ。他のやり方で情報を取ることができるはずだ。

時として、法律を破ることは正当化されるかどうか?社会的重要性がものすごく大きい場合、正当化される。

―ウィキリークスは調査報道の面から、何を変えたと思うか。

内部告発者の力が、広く理解されるようになった。ウィキリークス以前は知っている人は少なかったが、今はみんなが知っている。公益のための内部告発を後押しする大きな動きを作った。

しかし、メッセージの中味よりも、メッセージを伝える人のほうが重要になってしまった。有名人文化が強い現在、仕方ないのかもしれないが。

―アサンジのように?

そうだ。アサンジは確かにすごい人物で、大変勇気がある。しかし、ウィキリークスが暴露した情報の中味より、アサンジのほうが大きなニュースになってしまった。不幸なことに。

―アサンジに関する否定的な報道が多いので、ウィキリークスは支持するが、アサンジは支持しないという声も聞く。

確かに、そういう声がある。

しかし、忘れないでおきたいのは、国家がその批評家に対してよく使う手が、否定的な報道を広めることだ。アサンジは自分を攻撃対象にしてしまった。無理もない、あんな国家機密を暴露してしまったのだから。しかし、ああいう情報を暴露すれば、誰だってーー例えあなたでもーー悪者扱いされるだろう。誰にしろ、攻撃されてしまうようなことを抱えているものだ。

―実際に知っているアサンジとは、どんな人物か。

これまでにたくさんのジャーナリストに会ってきたが、疑いなく、最も頭のいいジャーナリストの一人だ。アサンジはメディアが何で、どんな風に機能するのかを知っている。情報をどのように安全にするかを知っているし、科学的過程を大事にする。もともと、科学を学んだ人物だー数学、物理学など。

同時に、非常に好青年だ。嫌いにはなれない。非常にナイス・ガイだ。暴力的ではない。気が狂ってもいない。真面目で、言論や報道の自由を心から信じている。そのために、アサンジは他のジャーナリストたちを居心地悪くさせているかもしれない。私たちは妥協をすることに慣れているが、アサンジは妥協を好まない。

―ウィキリークスはジャーナリズムの一部だろうか?

絶対にそうだ。世界の中で、一見ジャーナリズムとは思えないものがジャーナリズムだったりする。例えば印刷機だ。コンピューターも。ジャーナリズムの一部と見なされるようになったのは、これを使ってジャーナリズムが生み出されるからだ。印刷機を使った人の多くがジャーナリストになった。

米国の著名ジャーナリストの中で、自分の印刷機を持っていた人が結構いる。 有名なのが I.F. Stone.という人で、ニックネームがIzzy Stone(イジー・ストーン、1907-1989年)だった。毎週、自分の印刷機を使って、週刊新聞を発行した。数千人規模の購読者に新聞を郵送したんだ。みんながこの新聞を読んだものだ。ストーンは印刷業者だったけれど、非常に良いジャーナリストでもあった。

―今で言うと、ブロガーのようだ。

電子メールが生まれる前の時代の「印刷ブロガー」だったのかもしれない。現在はみんながコンピューターを持つようになった。印刷機を持つ人は少ないけれど、コンピューターだったら買える。

ウィキリークスはジャーナリズムか?今までとは異なる種類だが、そうなのだと思う。

戦争と調査報道

―調査報道にとって、現在は良い時期だろうか。

インターネットの出現でやりやすくなった面もあるが、もし調査報道が栄える時期になっているのだとすれば、その本当の理由は戦争だと思う。

米英両国は今、イラクやアフガニスタンなどの戦争に関与している。戦争は人々を批判的にし、考えさせ、疑い深くさせる。真実を学ぶ機会にもなり得る。私たちがやっているような調査報道が、人々の物事に対する見方を変えることができたらと願っている。

―確かに、戦争をめぐっては論争が起きやすい。

イラク戦争では嘘を元にした戦争で、多くの人が殺害された。とても大きな論争を引き起こすのも無理はない。

―これまでにも、それほど十分ではない理由で、あるいは国民に理由を説明しないままにたくさんの戦争が起きたー。

それこそ、「国益のために」だ。

ー確かに。

そんな理由付けのほとんどがいかに間違っていたかを、私たちは今、知っている。道徳上間違っていたし、倫理的にも間違っていた。嘘を元にしていたんだ。

米国人であろうと、日本人であろうと、ドイツ人であろうと、ロシア人であろうと、何人であろうと、戦争は常にーーほとんど常にーー嘘の理由に基づいて開戦となった。すべてとは言わないが、そのほとんどは嘘だった。

―民主主義社会に生きる私たちにとって、「国益」とは何かを本当に査定するときが来たー。

査定するのはジャーナリストであり、国民だ。今すぐ、行動を起こしてほしい。

***こぼれ話***

CIJの事務所は、ロンドンシティ大学の通常の建物の端っこにある。「センター」というからある程度大きいのかなと思うと、秘書の部屋がまず一つあって、これが荷物や本を置く場所になっている。所長の部屋も本が一杯で、ゲストが1人入るともう何も入らないほど小さい。「ようこそ、調査報道センターへ!」と言って向かい入れてくれたが、そこでもう互いに笑ってしまった。インタビューは真面目な話と大笑いが錯綜した。大笑いは、「誰でも隠したいようなことが一つか二つはあるよ」といって所長が声を低くした時と、最後、「行動を起こすのはあなただ!」とボールがこっちに返ってきた時だ。米国のジャーナリズムの状況を一生懸命説明する姿が印象的だった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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