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アマゾンが書評情報の共有サイト「グッドリーズ」を買収 サイトCEOはどう見たか

小林恭子ジャーナリスト
米書籍情報の交流サイト「グッドリーズ」のウェブサイト

米アマゾンが、28日、書評共有サイト「Goodreads(グッドリーズ)」を買収すると発表した。買収手続きは4月以降に開始される予定。買収金額などは公表されていない。

グッドリーズは利用者同士が読んだ本について感想や書評を共有するソーシャル・ネットワーク・サイト。著者(登録者6万8000人以上)が自分の本を紹介したり、読者と結びつく場としても利用されている。

2007年、本好きのオーティス・チャンドラー氏が、自分だったら「友人に勧められて本を選ぶ」ことに気づき、利用者同士が情報を交換できるサイトを妻と一緒に立ち上げた。

サイトによると、現在米国人を中心として1600万人が利用。3万のブッククラブ(本を書評しあうサークル)がある。2300万を超える書評が書かれ、登録されている本は5億2500万冊に上る。

アマゾンはウェブサイト上に利用者による書評を掲載しているが、グッドリーズのような利用者同士の交流機能がない。Facebook, Twitter, Pinterestが人気となる中、買収によって、書評に「ソーシャル」というレイヤーを重ねることができる。

アマゾン社によると、電子書籍キンドルとグッドリーズが協力することで「読者と著者の喜びとなるような多くの新たな活用方法を作りたい」という。

しかし、グッドリーズの利用者からすると、特定の書籍販売小売サイトと結びつく点で、不安感はないのだろうか?

デジタルメディアの動きを追うサイト「ペイドコンテンツ」によれば、グッドリーズは「中立」のサイトとして、利用者を増加させてきた。

2012年まではサイトに掲載された書籍のメタ情報はすべてアマゾンのサイトから利用してきたが、途中から、情報入手先を書籍卸売業イングラムに変えた。当時、グッドリーズは、「すべての読者にとってオープンな場所にしたい」と利用者に通知した。

書籍を購買する場合は、サイト上の書籍アイコンをクリックすると、複数の小売書店(左側にコボが出て、右側にアマゾン、バーンズ&ノーブル、アイブックスなど)を選択できる。

ペイドコンテンツが、グッドリーズの最高経営責任者(CEO)オーティス・チャンドラー氏と、同氏の上司となるアマゾン・キンドルのコンテンツ担当幹部ラス・グランディネッティ氏にインタビューを行っている。その中から、一部を紹介したい。

なお、ペイドコンテンツの親会社に投資するベンチャーキャピタルの1つがツルー・ベンチャーズだが、ここはグッドリーズにも投資している。

―グッドリーズは読者、作家、出版社のための自然な集合場所だった。アマゾンによる買収でどこが変わるのか?

チャンドラー氏(CEO):重要な点は利用者が何を読んでいるかを共有できること。この点を変えるつもりはない。キンドル利用者にとっても利用しやすいように変えるが、そのほかは変わらない。

―別個のサイトのままなのか、スタッフはこのままか?

チャンドラー氏:アマゾンの独立した子会社の1つになる。これまでのようにサンフランシスコに本拠地を置く。CEO職もこのままだ。買収を機に特にサイトを変えようとは思っていない。

―アマゾンがグッドリーズの利用者データにアクセスすることになるのだろうか?

チャンドラー氏:グッドリーズはアマゾンの完全子会社となるので、そうなる。しかし、利用者の知らない間に何かが行われるということはない。アマゾンの棚にある書籍をグッドリーズに移動させたいと利用者が言えば、簡単にできるようにしたい。利用者には常に何が起きることになるかを知らせる。

―アマゾンは、グッドリーズ上に出た書評を、自社サイトに掲載するのか、それとも、アマゾンの読者による書評がグッドリーズのサイトに移動するのか?どれぐらいのコンテンツが両サイトの間で共有されるのか?

チャンドラー氏:利用者にとって何が最善かを考えている。現時点では特に計画はない。

グランディネッティ氏:(どちらの利用者にも)損害を与えないことを主眼としている。統合するのであれば、利用者に恩恵があるようにしたい。

―現状では、グッドリーズの書評はさまざまな小売店のサイトにリンクをつけている。今後はどうなる?

チャンドラー氏:利用者には様々な形で利用できるプラットフォームでありたい。リンクをどうするかは利用者の視点から考えたい。利用者がどうしても(アマゾン以外の小売店に)リンクをしたいのであれば、おそらく、そうなるだろうと思う。

―グッドリーズの国際展開は?

グランディネッティ氏:ここ2,3年、キンドルの国際展開に力を入れてきた。(英語以外の)新たな言語やほかの国でのサービスについては、グッドリーズとともに考えたい。

―グッドリーズはメタデータ情報をアマゾンから取ることを昨年、停止した。その後はイングラムから取得しているが、今後は?

チャンドラー氏:どういう形が最適かを決めることになるだろう。アマゾンのメタデータにアクセスできるので、おそらく、こちらを使うだろう。

―アマゾンはグッドリーズと同様のサービス、米Shelfari(シェルファリ)を2008年に買収したが、その理由は?失敗だったと思うか?

グランディネッティ氏:(シェルファリを通して)書籍についての追加情報を発信することができた。(登場人物や、重要な場所、引用などの追加情報を出す)「ブック・エキストラ」や(映画鑑賞で補足情報を見せる)「X-Ray」などの開発に役立った。しかし、グッドリーズは単なるソーシャルな結びつきのサイトではない。大きなソーシャルネットワークなのだ。キンドル上で利用者同士を結び付けるには、グッドリーズが良い。

ーこれからも読者情報を公開してゆくのか?

チャンドラー氏:そうする。(昨年出した、ポルノ小説)「フィフティー・シェーズ・オブ・グレー」のグラフ(米国のどの州で最も読まれているかなどをグラフ化)のようなものを、もっと作りたい。

***

ペイドコンテンツのローラ・ハザード・オーエン記者は、アマゾンによる買収で、グッドリーズは利用者についての情報をあまり公開しなくなるかもしれないという。

例えば、過去には、グッドリーズは会議やブログを通じて、利用者がどうやって購買する書籍を見つけるのか、読書習慣、プラットフォームの利用状況(キンドル利用者の多くがアップルのアイブックストアも利用しているなど)を紹介してきたという。このような情報は、アマゾン側にすれば、競合他社には出したくないものだ。

同記者の記事に寄せられた反応のいくつかを紹介してみる。

「非常におもしろい」、「自分の情報をどれほど自分で管理できるのか、成り行きを見守りたい」(Black’n Write Reviewer)

「ほかの小売店でもリンクで本を買える部分はなくなるのじゃないか」、「アマゾンはリンク以外にはグッドリーズのコンテンツには影響を及ぼせないと思う」(bmljenny)

「アマゾンはマルチのプラットフォームで販売できるとして、書店からもっとお金を巻き上げようとするのではないか」(David Thomas)

「自社サイトの書評もきちんと管理できないアマゾンがほかの書評サイトを買収する権利があるのだろうか?自分の本がめちゃくちゃに評された」、「一体アマゾンの書評のどれぐらいがサクラなのか?」(Sharon Bakar)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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