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英デジタルテレビ会議 -ソーシャル・テレビ、オンデマンドの可能性とは

小林恭子ジャーナリスト
一日の平均的な「画面」利用 コムストア調べ

「テレビはつまらない」-そんな会話を日本語のネット空間で時々、目にする。

しかし、近年、テレビというメディアが見直されてきたような気がする。決して古色蒼然とした存在ではない。

夏のロンドン五輪がその一例だ。ウェブサイトと24の追加チャンネルを駆使して、英BBCは、数千時間にものぼる全競技を生放送して見せた。テレビ画面を追いながら、白熱する競技の進展やその結果についてソーシャルメディアで情報を交換し合うのは、スリリングな体験だった。

デジタル・メディアの1つとなったテレビの将来を探る会議が、今月上旬、ロンドンで開催された(「デジタル・テレビ・サミット2012」、主催はメディアの調査会社インフォーマ・テレコムズ・メディア社)。英国や欧州各国の状況を、紹介したい。

―ソーシャルテレビに注目

テレビとソーシャルメディアを組み合わせる「ソーシャルテレビ」が、今、注目を浴びている。

テレビ番組を視聴しながら、友人や知人同士でフェイスブックやツイッターなどで情報交換をする、番組側の呼びかけに応じて情報を送る、指定されたハッシュタグを使いながら意見を述べるなど、双方向性がある視聴が楽しめる。

こうした視聴方法は、テレビを「第1の画面」とすると、いわば「第2の画面=セカンド・スクリーン」、つまりは携帯機器(携帯電話、タブレットなど)が広く普及したことで注目されだした。

第1の画面と第2の画面をどうつなげば、どんな視聴が可能になるのか、あるいはどんなビジネスチャンスがあるのか?試行錯誤が続いている。

ーツイッターを見てから、番組を視聴

会議のスピーカーの一人、ツイッター英国のダン・ビデル氏によれば、英国の利用者は1000万人を超える。つぶやきの40%は、夜のゴールデンタイムに発信されているという。ツイッターでの評判を見てから、どの番組を見るかを決めるという人が76%もいる。

具体例としては、有名人数人がジャングルなどの過酷な状況で生活する様子をドキュメンタリーとして描く「私は有名人、ここから出してくれ」という番組(英国の民放ITV放送のシリーズ物、最新は11月11日から12月1日まで放送)の場合、生放送中に番組のハッシュタグを作り、利用者にツイートしてもらったところ、番組終了までに44万を超えるツイートがあった。

数人を一つの部屋に入れ、カメラがその様子を監視する「ビッグブラザー」米国版でも、誰が部屋から退出するべきかをツイートしてもらったところ、6万5000以上のツイートが出た。

「ツイートと番組の相乗効果で、ツイッターおよび番組の認知度が上がった」(ビデル氏)。これを基にして、例えば、ツイッター社では広告のリーチを広げることができたという。

英放送局が新たな広告収入源として力を入れているのが、番組のオンデマンド・サービス(再視聴サービス。デジタルテレビあるいはネット上で利用可)だ。

このサービスを、いち早く2006年から提供しているのが、英民放チャンネル4だ。英国のテレビ局大手は公共放送BBC,民放ITV(最大手)、民放チャンネルファイブなどがあり、チャンネル4は「異なる視点」をキャッチフレーズに番組を制作している。

チャンネル4のオンデマンドサービスは「4oD」(フォー・オー・ディー)という名称がつけられている。登録しなくても利用できるものの、チャンネル4は利用者に登録を勧めている。目下、600万人が登録中だ。登録者のなかで44%がオンラインでの視聴だった(チャンネル4担当者セーラ・ミルトン氏)。

サービスについてのメールを週に一度発信しており、このメール内にあるアドレスをクリックすることで番組をネット視聴した人の数は月に30万人に上る。今年1年で、ネット視聴用にストリーム放送した番組コンテンツは5億を超えたという。

特筆すべきは、4oDの若者層へのリーチ率だ。ミルトン氏によれば、このサービスを通じて、チャンネル4が英国内の16-24歳の30%に届くようになっているというのである。

チャンネル4は動画の中に入れる広告の出し方(例えば視聴者のプロフィールによって出す広告を変えるなど)について、実験中だ。

ー英国のネット利用は19%が携帯機器から

世界のインターネットの利用を見ると、米コムストアの「グローバル・インターネット・オーディエンス」(15歳以上の利用者、昨年10月から今年10月。以下もコムストア資料)では、ダントツがアジア太平洋地域の6億2900万人(前年比6%増)、これに続くのが欧州の4億500万人(8%増)、北米2億1400万人(1%増)、中東・アフリカ1億3500万人(8%増)、ラテンアメリカ1億3000万人(3%増)。

欧州のネット利用者の中で、携帯機器(タブレット、携帯電話など)を使ってネットを閲覧している人の割合が最も高いのが英国(18・7%)。これにドイツ(7・5%)、イタリア(7・1%)、フランス(5・7%)、スペイン(4・7%)が続く。

日本同様、英国でもテレビはほとんどの人が視聴する媒体だ。スマートフォン、PCなど、何らかの形でインターネットを利用する人の大部分がソーシャルメディアを利用している。

ソーシャルメディアのリーチが95%にまで上昇するのが、15歳から24歳の若者層。スマートフォンを使ってのソーシャルメディア利用では51%対49%の割合で女性がやや多い。これがタブレットになると、54%対46%で男性がより多くなる。

英国のタブレット利用者の年齢別内訳は55歳以上が22.8%、これに25-34歳(21・4%)、35-44歳(18.7%)、45-54歳(15・4%)、18-24歳(14・3%)、13-17歳(7・4%)。高齢者の比率が意外と高い。

1日の携帯機器の利用状況を見ると、朝はスマートフォンの利用率が高く、昼は仕事で使っている人が多いためか、PCの利用率が高まる。午後8時以降は、自宅でタブレットを使う人が増えてくる。

機器が何であれ、「画面」を見ている時間はどんどん増えている。コムストアの調べでは、テレビの視聴が1日に4時間強、これにタブレットやスマートフォン、PCを入れると、8時間30分にも到達するという。

画面を制するものがビジネス上の勝者となるのだろう。

コムストアのグレッグ・デイリー氏は、「デジタル人口の85%がソーシャルネットワークを使っている」、「オンライン上の行動の5分に1分はソーシャル関連」と述べる。

「ながら視聴で携帯機器を操る人々も取り込むことができる、ソーシャルテレビには、大きな可能性があると思う」。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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