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英国で、紙の本より高い電子本は将来の姿?

小林恭子ジャーナリスト

英国の書籍業界の雑誌「ブックセラー」によると、いまや国内の電子書籍の売り上げは年間約2億6000万ポンド(約320億円)に達し、書籍市場全体の15%を占めるという。

実際に、電子書籍端末市場の80%を牛耳るアマゾン・キンドルを片手に読書を楽しむ人の姿を電車内でよく見かける。

英国で電子書籍が人気となっている理由として、1つの端末に複数冊保管できるため「場所をとらない」、「軽く、持ち歩きやすい」などの物理的利便さとともに、紙の単行本よりも値段が安いことが挙げられる。

ところが、サンデー・タイムズ紙(9月30日付)が人気の高い本(フィクションおよびノンフィクション)の価格を調査してみると、電子本の価格が紙版よりも高い場合が3分の1を占めた。

JKローリングの新作も電子本の方が高い

サンデー・タイムズがアマゾンのウェブサイトで調べたところ、先週発売されたばかりの、「ハリーポッター・シリーズ」のベストセラー作家JKローリングが書いた「ザ・カジュアル・ベイカンシー」の場合、ハードカバーの単行本が1冊9ポンド(約1130円)で、電子書籍は11・9ポンド(約1490円)。

売れっ子コメディアンのデービッド・ミッチェルが書いた自伝「デービッド・ミッチェル、バックストーリー」が紙版は10ポンド(約1250円)、電子本は12・99ポンド(約1630円)であった。それぞれ、300-400円の差がある。

ちなみに、出版社がつけた「ザ・カジュアル・ベイカンシー」の価格は20ポンド(約2500円)、「バックストーリー」は同じく20ポンドである。アマゾンでは、電子でも紙でも大幅ディスカウント価格で販売されてしまうのだ。

電子書籍にすると、確かに印刷、製本、配送をしなくてよくなるが、実際には、制作費は書籍の出版コストの中で「ほんの5%」であるため、それほど大きな節約にはならない、と出版社側は説明する。残りは著者への執筆の前払い金や販促・マーケティング費用で、この部分は電子であろうとなかろうと、変わらないのだ。

調査会社「エンダース・アナリシス」のベネディクト・エバンズ氏は「書籍作りの費用構造はあまり変わっていない。電子本だからといって、紙の本よりも価格を低くする必要はない」という(サンデー・タイムズ紙)。

欧州全体では電子書籍はまだまだマイナーな存在だ。別の調査会社「フューチャーソース・コンサルティング」によれば、昨年の欧州内の書籍の売り上げの中で、電子書籍の比率はほんの6%。しかし、2016年には16%にまで伸びると同社は予測する。

欧州の中で最も電子書籍の利用が広がっているのが英国だが、電子本所有者の45%が専用端末(アマゾンのキンドルやソニーのイーリーダーなど)ではなく、パソコンの画面で閲読しているという。

現在は、同じ本であれば電子版のほうが価格が低い場合が普通だが、「本」といえば電子本を指すところまで市場が変化すれば、紙の本の価格を低くして何とか買ってもらおうとしたり、あるいはいっそ、紙版は無料にして、電子本のおまけになる、ということもあるかもしれない。

英国のベストセラー本の一部で、紙版の価格が電子版よりも低かったという調査結果は、書籍市場の近未来を垣間見せた感じがする。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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