ニュージーランドが「空撮ドローン」をリードする?

映画産業に力を入れるニュージーランドが、空撮ドローンでも有力な存在になる可能性(写真:ロイター/アフロ)

映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ホビット』シリーズの撮影が行われた場所と言えば、南半球の景勝地ニュージーランドだ。ニュージーランド政府は1970年代から映画産業を支援しており、2014年のニュージーランド映画産業全体の売上は約31.6億NZドル(約2560億円)に達している。また前述の2シリーズが世界的なヒットを収めたり、その監督として知られるピーター・ジャクソン監督を輩出するなど、国際的な成功を収めている。

そんなニュージーランド政府が新たに取り組んでいるのが、空撮専用のドローン開発の支援だ。現在同国では、「C-Prize」というイベントが開催されている。これは映画撮影に特化したドローンの開発を目的としたコンテストで、「静かに飛行して会話まで録音できる」「悪天候の中でも使用できる」「特殊効果処理用に被写体の追跡撮影が行える」など、いくつかの条件を提示。これに合致するコンセプトを提示した案には、1万NZドル(約81万円)と技術的サポートが与えられ、プロトタイプを作成することができる。そして12月に発表される優勝者には、5万NZドル(約405万円)の償金と、2016年にラスベガスで開催される見本市「National Association of Broadcasters Show」に出展するための予算が与えられることになっている。既に参加者の受付は締め切られているが、80社/団体がエントリーしており、最終選考に残った6案が7月24日に発表される予定だ。

実はニュージーランドは、単にロケに最適な自然環境があるから映画産業が盛んというわけではない。ポストプロダクション(撮影後の映像処理作業)の分野でも、高度な技術を有した企業が数多く存在しており、実際に2014年度の映画産業売上31.6億NZドルのうち、約6億NZドルがポストプロダクションにおける売上だった。こうしたポストプロダクションにおける処理を含めた、様々な映像関連技術を向上させることに政府や関連団体が力を入れており、空撮ドローン開発はその一環というわけである。

実際にドローンを使った空撮は、ドローンの産業用活用の一大分野となっており、今後も拡大が予想されている。たとえば米国映画協会は、FAA(米連邦航空局)に対してドローンの空撮活用に関する規制を緩和するよう強く働きかけており、実際にこれまで米国内で特例として認められたドローンの商業活用700件のうち、約半数が空撮に関するものだったとの報道もある。映画産業をリードしていくためには、ドローン空撮の分野でも先進的な取り組みを行っていくことが欠かせないというわけだ。

「ドローンにカメラを付けて飛ばす」という、一見簡単そうなドローン空撮だが、一筋縄でいくものではない。確かに市販のドローンに市販のジンバルとアクションカムを取り付けるだけでも、それなりに美しい映像を撮影することができ、実際にこうした「お手軽ドローン空撮」がホビー用ドローンの売上を牽引する一因となっている。しかし映画撮影などプロ用のニーズに応えるためには、より高性能のジンバルや撮影機材を搭載し、安定した飛行が長時間行えるドローンが必要となる。この「空撮専用ドローン」の分野はまだまだ発展段階であり、たとえば今年5月に幕張で開催された「国際ドローン展」でも、日本のプロドローン社が開発したペイロード約30kgという大型の空撮ドローンが、驚きを持って迎えられていた。このドローン「PD6-B」は既に、キヤノンがCM撮影用に使用しており、その撮影の様子を収めた映像が公開されている。

ただ日本で空撮ドローンの開発に本格的に取り組む企業は僅かで、この分野では海外勢に大きく水をあけられているそうだ。最近『ドローン・ビジネスの衝撃』という本を執筆したのだが、その取材の中で、日本勢の遅れを指摘する声が何度も聞かれた。ニュージーランドのように国を挙げて空撮ドローン開発を支援するくらいの大きな流れが生まれてこなければ、その差はさらに大きくなるだろう。

もちろん空撮はドローンの産業用利用のひとつでしかないが、前述の通り、それはドローンの需要を牽引する大きな分野となっている。また映画に使用できるレベルの映像・音声をあらゆる状況下で記録できるドローンの技術は、測量や農業、インフラ点検といった様々な派生分野にも応用可能だろう。キャズム理論で言うところの「ボウリング・ピン」(ボウリングのピンを1つ倒すと、次々に周囲のピンが倒れていくように、ニッチ市場を攻略した製品が次々と隣接するニッチ市場を攻略していくこと)のように、ドローン空撮という専門分野で確立された技術が、次第に隣接分野へと波及していくことも考えられる。ニュージーランドの空撮ドローン開発支援がどのような実を結ぶのか、興味深いところだ。