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「鬼滅の刃」「呪術廻戦」が席巻、2021年上半期本ランキングにみるヒット作の特徴

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:西村尚己/アフロ)

本やコミックス、ライトノベルなど、各種書籍の推定売上部数をランキング化した「2021年 上半期本ランキング」が発表されました。

内容をみると、未だ勢いの続く「鬼滅の刃」や、人気上昇中の「呪術廻戦」が、該当カテゴリにこぞってランクイン。コミックランキングに至っては、トップ25位中22作品をその2タイトルが占めるなど、大きな存在感を示しています。

今回の結果からみえる、直近の人気タイトルのヒットの動向を概観してみましょう。

■勢い続く「鬼滅の刃」と人気上昇の「呪術廻戦」

「鬼滅の刃」及び作者の吾峠呼世晴氏は、「BOOKランキング」、「BOOK 作家別ランキング」、「コミックランキング」、「コミック 作品別ランキング」、「ライトノベル 作品別ランキング」のなんと5部門で1位を獲得しています。

原作完結から1年以上が経ちましたが、テレビアニメ第2期の放送も控えており下半期の盛り上がりも期待できることから、まだまだ今年もその勢いは続いていきそうです。

加えて今回のランキングで注目なのが、アニメ放送を経て更に人気をのばしている「呪術廻戦」です。

昨年下半期に発表された2020年の年間ランキングでは、「コミック作品別ランキング」に入るのみでしたが、アニメ第1期の放送を終えての今回、「コミックランキング」では既刊15巻+0巻が全てトップ20入り、小説版も既刊2冊が「BOOKランキング」と「ライトノベル 作品別ランキング」にランクインする人気ぶりをみせました。

2019年以降の「鬼滅の刃」同様、本作もテレビアニメの放送を経て、その知名度や人気を更に上げたことがよく分かる結果です。

加えて先月末には上記の通り、シリーズ累計発行部数が5000万部を突破、本日発売の最新巻は初版200万部ということから、アニメ放送終了後も未だ勢いは続いていることが窺えます。

また本作は当初、適度に複雑な世界観や設定もあり、ファン層がある程度ハイティーン以上の漫画・アニメ好きに絞られることも予想されていたのですが、最近ではランチボックス文房具といったより幅広い層に向けたグッズ展開や巣ごもり需要などもあり、ここにきてファン層も更なる広がりを見せ始めているようです。

海外人気も高く、原作の展開も話題になり続ける本作。今冬の劇場版公開までにその熱気がどのように広がっていくのか、まだまだ目が離せません。

■アニメによるブーストと相乗効果

上記「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」をはじめ、今回「コミック作品別ランキング」トップ5に入ったタイトルは、アニメ放送を経て、原作漫画の盛り上がりに更なるブーストや相乗効果があった作品が目立ちました。

中でも特筆すべきは、「鬼滅の刃」「呪術廻戦」に続く3位にランクインした「東京卍リベンジャーズ」。この4月にアニメがスタートするやいなや話題となり、1ヶ月ほどで累計発行部数を約600万部伸ばすという爆発的なブーストをみせました。

メインビジュアルの第一印象だけで視聴すると驚かされる展開に、次週までアニメの続きが待てない人が次々と原作に手を伸ばし始めているであろう本作。アニメ放送との相乗効果でどこまで勢いを伸ばすのか注目です。

原作の完結と、今年3月まで放送されていたテレビアニメファイナルシーズンの国内外での反響が大きな相乗効果を生んでいた「進撃の巨人」も、今回久々の作品別トップ5入りを果たしました。

そして第5位には、この中では唯一まだアニメ未放送の「チェンソーマン」がランクイン。放送時期は未定ですが、「呪術廻戦」と同じMAPPA制作ということで、アニメへの期待は既に高まっており、海外ファンからも熱視線が集まっています。

今月6月27日開催の「MAPPA STAGE 2021 -10th Anniversary-」では、第1弾PVの解禁も予定されており、今後もアニメとの盛り上がりの相乗効果が期待される作品です。

■ブーストと相乗効果の一因

こうしてみると、いわば直近のヒット作が並ぶ「コミック作品別ランキング」トップ5には、アニメ放送による知名度や話題性の上昇が著しい作品が多かった印象です。

とはいえアニメ化した作品が売れるのは、当たり前といえば当たり前。アニメ放送を機に話題となった作品が盛り上がることも、今に始まったことではありません。

しかし直近の人気タイトルのアニメをきっかけとしたヒットについては、それだけではない特徴がみられます。

何よりもまず大きいのは、アニメ化を機に話題となった作品が登場したとき、食指が動く層が、熱心なアニメファンに止まらず、これまであまりアニメをみなかった層にまで、徐々に広がってきている点です。

恐らく「鬼滅の刃」の国民的ヒットや、長引く自粛期間による配信サイトの更なる定着も手伝っているのでしょう。これまであまりアニメをみなかった層も、現在配信サイトで気軽に様々な作品を見始めています。

そうした人々の興味は、溢れる作品群の中、自然とレコメンド作品や話題作に集中するようで、更にそこからアニメだけでなく原作コミックスを読み始める人も多いのか、今回の「コミック作品別ランキング」トップ5は、今まで積極的にはアニメをみていなかった層が手を伸ばし始めている、配信サイトのオススメやSNSに頻繁に登場する作品でもありました。(※未放送のチェンソーマンを除く)

国民的ヒット作の誕生や巣ごもり需要を機に、アニメ人気との相乗効果による原作漫画の盛り上がりは、今や熱心なアニメ・漫画ファン内のムーブメントに止まらず、これまで以上に幅広い層の間で生じるようになってきているようです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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