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”2019年の顔”となったアニメ「鬼滅の刃」とは:近年稀にみる盛り上がり方の特徴

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:アフロ)

先週発表された「Yahoo!検索大賞2019」にて、アニメ部門賞を受賞した「鬼滅の刃」。注目作だけあって、漫画好きやアニメ好きの方はもちろん、そうでない人もその名前や評判を耳にすることがあったのではないでしょうか。

2019年も数々の話題作があった中で見事今年の顔に輝いた本作ですが、その盛り上がり方には ある特徴が見受けられました。

■「鬼滅の刃」とは

「鬼滅の刃」とは、週刊少年ジャンプで連載中の、吾峠呼世晴氏による漫画原作の作品です。

人を喰う「鬼」の棲む大正時代を舞台に、鬼にされた妹を人間に戻すため、鬼狩りの組織に入った主人公が、仲間と共に、元凶である「最初の鬼」に立ち向かう”和風剣戟奇譚”となっています。

今年4月から9月に渡って放送されたアニメは、原作に裏打ちされた魅力的な物語やキャラクター、映像ならではの迫力のアクションシーンや情緒溢れる音響などが総合的に好評を得て、大いに話題となりました。

アニメの評判を受け、昨年250万部ほどだった原作漫画の累計発行部数は現在2500万部を突破、先日発表された「ネット流行語100 2019」でも、ノミネート100単語の多くを本作の関連用語が占めるなど、その盛り上がりは随所で散見されています。

■盛り上がり方の特徴

そんな本作の盛り上がりには、近年の話題作とは違った特徴があったのも印象的でした。

それは瞬発的に”バズ”ったり、いわゆる”覇権アニメ”と呼ばれるのではなく、長い時間をかけて着実に人気が広がり、放送終了後もなお右肩上がりの盛り上がりをみせていることです。

あくまで独断と偏見によるイメージですが、その盛り上がりを比較すると以下の図のようになると思います。

作品の盛り上がりイメージ(筆者作成)
作品の盛り上がりイメージ(筆者作成)

今回「鬼滅の刃」がこのような盛り上がり方をみせたのには、アニメ化前から一定数の根強い原作ファンがいたことと、アニメが全26話の2クール制であったことが大きかったのではないでしょうか。

本作はそのために、例えば同じく今年の話題作であった「プロメア」のような”ゼロからの爆発的な盛り上がり”とも異なり、アニメをみた元々のファン層から”長いスパンをかけて徐々に”人気が増していったように思うのです。

実際、アニメ放送前の特別上映「鬼滅の刃 兄妹の絆」(アニメ1話から5話の劇場先行上映)が好評につき上映延長されるなど放送前から根強い人気はあったものの、本作が今に至るまでの盛り上がりを見せるようになったのは、1クール目終盤の夏頃からだったと記憶しています。

以降、上記の図のようにアニメの評判は原作ファン以外にまで浸透し、登場キャラが増えるにしたがって夏コミ前後からコスプレ人口やファン創作も爆発的に増え、2クール目終盤にはアニメ・漫画ファン以外にまでその人気が広がり、放送終了後の現在もなお、その盛り上がりは右肩上がりとなっているのです。

こうして長い時間をかけてじわじわと着実に人気を高め、3月ごろからのおおよそ一年間、常に話題になっていたことで、例えばこれも同じ今年の話題作であった「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」や「名探偵コナン 紺青の拳」、「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」さえ抑えて、こうして”今年のアニメの顔”として本作が選ばれたのだと思います。

■あの作品との類似点と相違点

こうした「鬼滅の刃」の盛り上がり方には、2013年に初のアニメシリーズが放送された「進撃の巨人」を思い出す人も多いのではないでしょうか。

確かに、アニメ化前から一定の根強いファンがいて、アニメの評判をきっかけに原作未読のアニメファンや漫画ファン、更にはそれ以外の人々にまで人気を広げた点や、アニメ放送終了後に続きを知りたい人々によって原作漫画が爆発的に売れている(※1)点、主題歌アーティストがその年の紅白歌合戦に出場する点など、その盛り上がりには多くの共通点が見受けられます。

※1「鬼滅の刃」原作漫画は、アニメ放送終了直後に1200万部だった累計発行部数が放送終了後3か月を経た現在倍の2500万部を突破している

そう考えると、この「鬼滅の刃」は、その後「おそ松さん」(2015)や「ユーリ!!! on ICE」(2016)、「けものフレンズ」(2017)や「ポプテピピック」(2018)と、それこそ”覇権アニメ”という言葉を生んだ近年の爆発的な盛り上がりをみせてきた作品群とは異なる、「進撃の巨人」以降久々に、長いスパンで広く一般的にまで知名度が広がった深夜アニメ(※2)といえそうです。

※2 そのため2014年の「妖怪ウォッチ」は除く

このように、数々の類似点がある両作ですが、その後新作の放送までに4年のブランクがあった「進撃の巨人」と異なり、「鬼滅の刃」は来年2020年に新作劇場版「無限列車編」の公開が既に決定しています。

年末の紅白歌合戦でLiSA氏の歌唱バックにアニメ映像が流れれば、その認知度はさらに上がるでしょうし、盛り上がりが落ち着かぬ間に新作を公開する本作の勢いは、まだしばらく止まることはないでしょう。

まさに今年の顔を飾るにふさわしい作品であった「鬼滅の刃」ですが、来年以降もますます目が離せない作品となりそうです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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