日本と韓国:アニメ「KING OF PRISM」の応援上映にみる日韓の違い

韓国ソウル・MAGABOX東大門ロビーに設置されていた作品POP(筆者撮影)

※当記事の内容はあくまで筆者個人の調査に基づくファン文化の分析であり、ここで取り上げる各作品及び製作委員会、配給会社、映画館各位とは一切関係ございません。

日本国内における応援上映文化

応援上映とは、普段は禁止されている映画館での声援やアフレコ、サイリウムの使用やコスプレが許可されている特別興行形態のことです。

最近の作品ですと「名探偵ピカチュウ」や「プロメア」、劇場版「名探偵コナン」などでも実施されており、日本のエンタメシーンにおいてはすっかりお馴染みの言葉となりました。

映画「プリキュア」シリーズでの応援や、「アナと雪の女王」(2014)のシング・アロングなど、似たような上映形態は以前からあったものの、現在の形での応援上映がここまで日本で定着するきっかけとなったのは、2016年に公開された劇場版アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm」のヒットと考えてまず間違いないでしょう。

「KING OF PRISM」はその後、「KING OF PRISM-PRIDE theHERO-」(2017)、「KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-」(2019)と続編が製作されてきましたが、どの作品でも劇場での公開時には通常上映と応援上映の両方が実施されてきました。

地域毎の応援文化

この「KING OF PRISM」シリーズにおける応援上映の特徴として、”地域ごとの応援文化ができてくる”というものがあります。

日本全国どの映画館でも上映される映画の内容は同じなのですが、そこで行われる応援は映画館に通う各地域の人々によって徐々に作り上げられていくため、地域ごとに異なる応援のフォーマットがみられるようになってくるのです。

例えば筆者が直接応援上映に参加したいくつかの地域でも、次のような違いがみられました。

地域ごとに異なる応援文化の例(筆者作成)
地域ごとに異なる応援文化の例(筆者作成)

日本国内だけでもこれだけの違いがあるということは、海外での応援上映であればなおさら日本にはない応援文化がみられるのではないでしょうか。

日本と同様に「KING OF PRISM」シリーズの応援上映が実施されてきた韓国での現地調査を通して、日本の応援上映との比較をしてみたいと思います。

韓国での応援上映

韓国においても、「KING OF PRISM」シリーズは「KING OF PRISM by PrettyRhythm」時代から劇場上映が行われ、日本と同様に応援上映も実施されてきました。

このことは日本人のキンプリファン・通称エリートの間でも有名で、「KING OF PRISM」の鑑賞をしに渡韓したことを示すハッシュタグも作られ、決して少なくない数の日本人が実際に韓国での応援上映に参加していることが確認できます。

今回筆者が韓国で参加したのは「KING OF PRISM」シリーズの最新作、「KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-」の応援上映です。

本作は日本で、今年の3月2日からテレビ放送に先駆けた全4部の劇場上映が実施されており、封切のタイミングは違うものの、韓国でも同じ時期に劇場上映が行われていました。

韓国でこの「KING OF PRISM」が上映されているのは「MEGABOX」というシネコン系列です。

今回の渡韓では5月3日から6日の4日間で、ソウル(首爾)とキョンギド(京畿道)の9劇場(MEGABOX 東大門、新村、倉洞、江南、COEX、木洞、白石、霊通、安山中央)にて計17回の応援上映に参加してきました。

各劇場の詳しい位置関係はこちらでご参照ください(外部サイト:Google map)。

この時期に韓国で上映されていた「KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-」第3章での応援上映の様子をもとに、韓国の応援上映文化の特徴と、日本の応援上映文化との違いをみていきたいと思います。

韓国の応援上映の特徴

韓国の応援上映で特に印象的だったのは以下の3項目でした。

1.全ての上映回が応援上映

2.韓国語でのリアクション

3.一緒にセリフを言う、歌う

それぞれについて、詳しくみていきましょう。

1.全ての上映回が応援上映

前作までは日本と同様に通常上映と応援上映の両方が実施されていましたが、今作の「KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-」では、通常上映は東大門・新村・釜山で数日間限定的に行われたのみで、韓国では基本的にすべての上映回が応援上映でした。

一見すると普通に映画を鑑賞したい人にとっては不便な興行体制にも思えますが、そこは目的ごとに鑑賞する劇場を選ぶことで、応援したい人はこの劇場で、静かに見たい人はこの劇場で、といった具合に上手く“棲み分け”が行われているようでした。

筆者が参加した9劇場の中で、特に応援が盛り上がっていたのは東大門の劇場です。

ここは韓国のファンの間でも一番応援が盛んな劇場として認識されているそうで、劇場側も装飾(写真1.2)や後述する独自イベントなどを行ってファンの盛り上がりに応えている様子がみられました。

写真1.MEGABOX東大門内の壁画(筆者撮影)
写真1.MEGABOX東大門内の壁画(筆者撮影)
写真2.MEGABOX東大門内のPOP(筆者撮影)
写真2.MEGABOX東大門内のPOP(筆者撮影)

ソウル市内の劇場では、次いで江南やCOEX、新村での応援が盛り上がっていましたが、その一方で、木洞と倉洞では声援を送る人もサイリウムを使う人もいなかったため、応援上映であるにもかかわらず通常上映と同じ形での鑑賞となりました。

このように、サイリウムや声援で目一杯に盛り上がる劇場もあれば、サイリウムも声援も、拍手などのリアクションもなく、完全に通常上映と同じ状態で鑑賞できる劇場もあるため、積極的に応援をしたい人は東大門や江南、COEXや新村あたりで鑑賞し、静かに見たい人はそれ以外の劇場や、早朝や深夜の時間帯(一番早いものだと6時55分、遅い時間だと24時10分からの上映がありました)での上映を選んで鑑賞をしていたようです。

ただこうした棲み分けによって変に気を遣いすぎてしまうこともあり、観客が少ない回だと「もしかしたらこの劇場に来ているのは静かに鑑賞したい人なのかも…」という不安から声援を送ることもサイリウムを出すこともできずにいたところ、後から話してみたら実は他の人達も、応援したかったけど同じように遠慮して何も出来なかったということが判明した上映回もありました。

地域ごとの応援文化に関しては、ソウルとキョンギド内だけでは先に紹介した東京・大阪ほどのはっきりとした違いは観察できませんでしたが、現地のファンによると、プサン(釜山)やテグ(大邱)くらい離れていると、応援の雰囲気が違ってくるとのことでした。

2.韓国語でのリアクション

「KING OF PRISM-Shiny Seven Stars-」の上映は、日本語音声に韓国語字幕が流れるものでした。

対する観客からの声援は基本的に韓国語なのですが、その意味やタイミングは日本での声援と同じものが多く見受けられました。

例えば日本の応援上映では、本編直前に流れる企業ロゴに向かって「(企業名)ありがとー!」という声援を送りますが、韓国もそこでは「(企業名)カムサハムニダー!」という感謝の声援が送られます。

日本で流れるエイベックス・ピクチャーズとタカラトミーアーツ、タツノコプロといった企業に加え、韓国での配給会社であるDongwoo A&Eと上映劇場であるMEGABOXにも、同様に「(企業名)カムサハムニダー!」という声援が送られていました。

他にも、キャラクターが言ったセリフに対して「そうだねー(マジャー)」と同意したり「そんなことないよー(アニャー)」とフォローしたり、「何ー?(モンデー?)」と質問したり「はい!(デー)」と返事をしたり、「大丈夫ー?(ケンチャーナ?)」と心配したり…。日本に住んでいる韓国人のファンがSNSで発信したり、日本の応援上映に参加した韓国人のファンが持ち帰った応援方法もあるそうですが、それにしても言語が違うだけで日本の応援と同じタイミング、同じ意味で発せられる声援が予想以上に多かったのは印象的でした。

韓国独自の声援としては、韓国”語”ではないのですが、情緒的なシーンで「Ah~」や「Oh…」といった感嘆詞をため息交じりに口に出すというリアクションがありました。

シリアスなシーンでも意外と鑑賞の邪魔にはならず、むしろ登場人物の悲しみや戸惑いに感情移入しやすくなるという、日本にはない興味深い応援文化だと思います。

3.一緒にセリフを言う、歌う

韓国の応援上映において、日本の応援と最も違った部分が、日本語で一緒にセリフを言う、歌うということでした。

日本では応援上映の約束として、指定場所以外での生アフレコは禁止されており、歌唱も許可されていません。

韓国でも下記の通り、応援上映の約束として「むやみに叫ぶのはNG、登場人物の声もちゃんと聞いてください」といった注意書きがあります。

しかしその一方で、応援上映の説明書きには「”歌ったり”キャラを応援したりする観客参加型上映」という紹介があるので、歌唱については日本と比べていくらか寛容なのかもしれません。

日本語で一緒にセリフを言う部分に関しても、むやみに叫んで登場人物の声をかき消すのではなく、”みんなで一緒に決め台詞を言う”という感じなので、本編の邪魔になる禁止行為というよりは、あくまで作品を盛り上げる応援方法のひとつとして行われているようでした。

日本で行ったら即バッシングものの行為ではありますが、こうした応援文化はまだ応援上映にマナー映像がついていなかった初期の応援上映や、「KING OF PRISM」のスピンオフ元作品の劇場版である「プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン」(2014)時代の、いい意味でまだ無秩序だった応援上映を思い出す懐かしいものでもありました。

今後の応援上映の海外展開

その他に印象的だった韓国の応援上映文化の特徴としては、作中のライブシーンでオリジナルのコールをしたり、「Hooooo!!」という歓声がとにかく多いというものがありました。

現地のファンによると、こうしたライブシーンでの応援、とくにコールについてはK-POPのファン文化の影響もあるとのことでしたので、日本と韓国の応援の違いには、そうしたファン文化のバックグラウンドの違いというのも関わっているのかもしれません。

今回は「KING OF PRISM」に関する日韓応援上映の比較でしたが、最近では他にも「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」(2019)の応援上映(マジLOVEライブ上映)が台湾で行われたりと、アジア圏を中心に日本の劇場版アニメの応援上映文化が広がっている印象です。

元々アメリカのように大きなリアクションができたり、「ロッキー・ホラー・ショー」(1975)や「The Room」(2003)のような上映会文化があるわけでもなく、”映画は静かにみるもの”という雰囲気が根付いてしまった日本から発信されるこの文化が、今後海外へどのように広がり、そこでどう受け入れられていくのかには、これからも注目していきたいと思います。

備考・応援以外での独自文化

筆者が渡韓した5月3日は韓国で第3章が封切された翌日、さらに4日と5日は作品の登場人物の誕生日かつ週末だったため、現地の配給会社によるゲリライベントや配布会が開催され、応援以外の面でも韓国独自の劇場文化を体験することができました。

5月4日は登場人物の誕生日ということで、ゲリラ特典として誕生日を迎えたキャラクターのブロマイドが東大門の劇場で配布されました。

同じく東大門では、上記日程でファンが作ったポストカードやシールといった創作物を無償で配る”配布イベント”も開かれました。

日本ではその時期、本編前に誕生日を記念した先付映像が期間限定で上映されていたのですが、韓国ではそれが流れていなかったため、その差を補うものとして、こうして日本にはない特典や独自のイベントを開催しているようです。※余談ですが、先付映像はないものの、登場人物の誕生日当日の東大門での応援上映では、本編前に観客によるハッピーバースデーの大合唱が起きました。

MEGABOX東大門ロビーにて、上映前の配布イベントに参加する人々の列(筆者撮影)
MEGABOX東大門ロビーにて、上映前の配布イベントに参加する人々の列(筆者撮影)

韓国では通常の入場特典も日本では手に入らない韓国限定のグッズであることが多く、そういった面からは現地の配給会社がパンフレットやサイリウムといった日本の公式グッズが韓国では販売されていないこととのバランスを上手く取ろうとしている様子もうかがえます。

とはいえ手に入らないものほど欲しくなってしまうのはファンの性(さが)ですので、そうしたグッズを求めて韓国へ行く日本人のファンや日本に来る韓国人のファンも多く、そうしたファンの行き来も、それぞれの国の応援上映文化の輸入や逆輸入を促す一因になっているのではないかと思いました。