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69歳の今も体は戦闘態勢をキープ。リーアム・ニーソンはなぜアクション映画にこだわるのか?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
『アイス・ロード』

スタローンもシュワルツェネッガーもそれなりに元気だが

アクション俳優、リーアム・ニーソンの勢いが止まらない。今年は『ファイナル・プラン』が7月に公開され、今週末11月12日には『アイス・ロード』が、そして、年明けの1月7日には『マークスマン』が相次いで公開される。どれもニーソン主演のアクション映画である。ニーソンは今年69歳。ハリウッドにはさらに高齢の俳優たちが元気に持ち場を守っている。

シルベスター・スタローン(75歳)は『エクスペンダブルズ』のシリーズ第4弾で主役の座をジェイソン・ステイサムに譲りはしたものの、変わらずアクションシーンに挑戦しているし、アーノルド・シュワルツェネッガー(74歳)はアクション映画ではないが、大ヒットコメディ『ツインズ』(‘88年)の続編『トリプレッツ』で再びダニー・デビートと共演することが決まった。また、『インディ・ジョーンズ』シリーズ第5弾のリハーサル中に怪我を負ったハリソン・フォード(79歳)も、その後無事に現場復帰。高齢化社会に順応してハリウッドアクションに於ける年齢の壁は徐々に取り払われつつあるようだ。

リーアム・ニーソンがライバルたちと少し異なる理由

ただ、リーアム・ニーソンと他者が異なる点がある。50歳を過ぎてアクション俳優に転身したことだ。きっかけは『96時間』('08年)だ。以来、彼は分かり易いマッチョ系ではない、一見インテリに見えて、実は過去に戦争経験を持つ主人公が、意外なスキルを発揮して悪漢どもを撃破し、危機に瀕した家族や人々を助けると言う、テッパンの方程式を確立する。ファンはお約束だが馴染みの展開を期待して劇場に足を運ぶ。そんな安心感がニーソンのアクション映画にはあるのだ。それは最新作でもしっかり踏襲されている。

凍りついた湖上に佇むニーソン
凍りついた湖上に佇むニーソン

『アイス・ロード』では爆発事故で鉱山内に閉じ込められた作業員を救出するため、凍結したカナダのウィニペグ湖上(実際にウィニペグで撮影された)を突っ切るイラク戦争帰還兵のトラックドライバーを、『マークスマン』では麻薬カルテルから逃れて国境を越えてきたメキシコ人少年を助ける元海兵隊の狙撃手を、各々演じているニーソン。『マークスマン』の劇中でニーソン演じるジムと少年のミゲルが、モーテルの一室にあるテレビでクリント・イーストウッド主演の『奴らを高く吊るせ!』(‘68年)を一緒に観るシーンがある。それは、監督のロバート・ロレンツが長年イーストウッド作品にプロデューサーとして関わったことからオマージュの意味もあると言う。また、『マークスマン』でニーソンが演じるジムのキャラ設定は、イーストウッドが最新作『クライ・マッチョ』(‘21年)で演じる、少年をメキシコからテキサスに送り届ける元ロデオカウボーイの主人公、マイクを彷彿とさせる。言うまでもなく今年91歳のイーストウッドはこのジャンルの最長老だ。

『マークスマン』のニーソンと少年
『マークスマン』のニーソンと少年

今もエージェントの手元にはアクションの出演依頼が続々

『マークスマン』の全米公開に合わせて行われた”Entertainment Weekly”のインタビューで、ニーソンは69歳でアクションに挑戦し続ける理由について、こう答えている。『私は69歳になったばかりだが、今、エージェントと交わす言葉は決まってこんな感じ。エージェントが『リーアム、この脚本を読んだことはあるかい?アクション映画の脚本なんだけど』と聞くと、僕が『聞いておきたいんだけど、彼らは僕の年齢を知っているよね?知りたいのはそれだけだ。よし、やってみよう』となって出演が決まるんだ。とは言え、この種の映画に出るためには健康を維持する責任がある。35歳のアーノルド・シュワルツェネッガーになる必要はないけれど、それ相応のスタミナがなければならない。そのために、毎日ちょっとしたトレーニングを続けているんだ。』。

ちょっとしたトレーニングの中身は、恐らく69歳にしてはけっこうハードだ。毎日1.8キロのランニングと、スクワットと腕立て伏せと、それにパワーウォークを組み合わせたもので、トレーニング前のウォームアップは特に丁寧に行うのがルーティンだとか。引き締まったボディをキープするために炭水化物を控えて、脂肪分の少ないタンパク質を多めに摂る食事を続けているという。こうして、いつアクションを依頼されても対応できる最低限の体作りを心掛けているというわけだ。

『マークスマン』でのスナイパーぶり
『マークスマン』でのスナイパーぶり

つまり、アクション俳優リーアム・ニーソンにはまだニーズがあり、ニーズがある以上、本人もやる気なのだから、誰にもそれを止める権利はないのだ。『アイス・ロード』と『マークスマン』の彼を見ると、自然体のまま”強い男”を体現してきた俳優の自信と余裕と安定感があって、少なくとも年齢的な違和感は皆無である。

スティーヴン・スピルバーグがホロコーストを描いた『シンドラーのリスト』(‘93年)でアカデミー主演男優賞の候補となり、同年、『アンナ・クリスティ』でブロードウェー・デビューを果たしてトニー賞候補になったニーソンだが、その後、映画で演じたキャラクターには一つのパターンがあった。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(‘99年)のクワイ=ガン・ジン、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(’02)のヴァロン神父、『バットマン・ビギンズ』(‘05年)のヘンリー・デュガード/ラーズ・アル・グール、『キングダム・オブ・ヘブン』(‘05年)のゴッドフリー・オブ・イベリンと、どれも若い主人公に影響を与える指導者やトレーナー、もしくは父親のような役どころだ。

アクションのルーツ『96時間』直後に起きた悲劇

しかし、それが『96時間』を境に一転する。脚本を受け取った時、映画がヒットすることは分かっていたものの、初めてのジャンルに戸惑ったというニーソンだったが、出演を決めてからは4ヶ月間撮影地のパリに止まって空手の特訓に没頭。こうして、予想通り映画は大ヒットしてアクションヒーローとしてのニーソンが起動することになる。

生前の妻リチャードソンとニーソン。2008年撮影
生前の妻リチャードソンとニーソン。2008年撮影写真:Shutterstock/アフロ

ところが、映画が公開されてから2ヶ月後、妻で女優のナターシャ・リチャードソンがバカンスで訪れていたカナダのケベックでスキー中に転倒し、外傷性脳損傷によりそのまま帰らぬ人となる。2009年3月のことだ。15年間連れ添った愛妻を亡くしたニーソンは、それでも数ヶ月後に仕事に復帰。今から7年前、アメリカCBSのドキュメンタリー番組”60 ミニッツ”に出演した際、キャスターのアンダーソン・クーパーからその時のことを聞かれたニーソンはこう答えている。『僕は仕事をしないとダメなんだ。特に、息子たちには悲しみに浸っている父親の姿は見せたくない』と。また、2011年の”Esquire誌”のインタビューでは、リチャードソンの死を乗り越えられたのは『96時間』シリーズのおかげだとした上で、『仕事のためにトレーニングを積み、準備することは可能だけれど、悲しみは準備することはできないし、たとえ泣いて済ませようとしても、絶対にうまく行かないんだ』とも答えているニーソン。

かつて、思い切ってチャレンジしたアクションというジャンルが、最愛の妻を亡くしたことをきっかけに、自分が、そして子供たちが元気に暮らすための手段になってからすでに10年以上。その間、ニーソンの中で何がどう変化したかは想像するしかないけれど、本人の言葉通り、今はアクション映画の出演依頼を自然に受け入れ、そのためのルーティンワークで汗を流す69歳は、充実した日々を過ごしているのではないだろうか。そして、そんな父親から2人の息子たちはいつも勇気をもらっているに違いない。やっぱり、こんなバックグラウンドを持つアクション俳優は他に見当たらない。

来年以降もアクション俳優、リーアム・ニーソンは多忙を極める。『Blacklist』では組織内の腐敗を暴いていく政府機関の工作員役を、『Memory』では犯罪組織からの危険な任務を断ったばかりに命を狙われる殺し屋を、『Retribution』では車に仕掛けられた時限爆弾と格闘する銀行マンを、各々演じる予定のニーソン。プロデューサーからの出演依頼が途絶える時はいつ訪れるのだろうか?

ベルリンで『Retribution』を撮影中のニーソン
ベルリンで『Retribution』を撮影中のニーソン写真:Splash/アフロ

『アイス・ロード』

11月12日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

配給 : ギャガ

(C) 2021 ICE ROAD PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『マークスマン』

1月7日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

配給 : キノフィルムズ

(C) 2020 AZIL Films, All Right Reserved.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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