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旅好き必見!人気急上昇のUK俳優、ジョシュ・オコナーと一緒にイギリス南岸へトリップ

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
ジョシュ・オコナー(写真:REX/アフロ)

 エディ・レッドメイン、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ホランド、トム・ヒトゼルストン、ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、そして、最長老のアンソニー・ホプキンスと、活躍中の世代が広範囲にわたるイギリス人俳優たち。彼らの人気はもはやブームというよりも完全に定着した感がある。映画界は彼らなくして存在することは難しい、と言い切れるほどに。そんな中で、ここ数年で人気急上昇中なのがジョシュ・オコナーだ。

 オコナーと言えば、Netflixで配信中の『ザ・クラウン』(16~)で演じた若き日のチャールズ皇太子役が挙げられる。エリザベス2世を主軸にイギリス・ロイヤル・ファミリーの実像を描く同シリーズは、過去エミー賞をトータルで10部門を制覇。オコナーも今年のゴールデン・グローブ賞でダイアナ妃を演じたエマ・コリンと共にTVドラマ部門の主演女優賞受賞と主演男優賞を受賞している。脚本を受け取った際、オコナーは『皇太子は死なないことが唯一の仕事だと考えている人で、そんな境遇の人物に同情しないわけにはいかない』とコメント。それが演技に生かされた結果の主演男優賞受賞ではなかっただろうか。

チャールズ&ダイアナin『ザ・クラウン』
チャールズ&ダイアナin『ザ・クラウン』

『ザ・クラウン』の最新シーズン5は今年7月からロンドンでクランクインすることが発表されたが、来るシーズンでオコナーはシリーズを卒業。新たな皇太子役はドミニク・ウエストが引き継ぐことが決まっている。しかし、オコナーは『ザ・クラウン』のオリヴィア・コールマンやコリン・ファースと共演する第一次大戦下が舞台の不倫ドラマ『Mothering Sunday』の公開を控えていて、今まさに”ホットストリーク”(前記のイギリス人俳優たちがほぼ全員経験しているブレイクスルー・シーズンを意味する)の只中にいる。

 1990年、オコナーはイギリス南部の港町、サウサンプトンで生まれる。少年時代からアーティストになりたいと考え始めたのは、祖父が彫刻家のジョン・バンティングで、母方の叔母が作家でコメンテーターのマデリン・バンティングだったせいかもしれない。ブリストルのOld Vic Theatre Schoolで演技課程を終了したオコナーは、スティーヴン・フリアーズ監督による自転車選手、ランス・アームストロングの伝記映画『The Program』(15)や、メリル・ストリープとヒュー・グラントが共演した『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16)に出演後、遂に当たり役と巡り会う。『アンモナイトの目覚め』(21)で女性たちの運命的な出会いと、その後に待ち受ける確執を描いて話題になったフランシス・リー監督の前作で、批評家たちの間では『ブロークバック・マウンテン』(05)と比較されることが多い『ゴッズ・オウン・カントリー』(19)の主人公、ジョニー・サクスビー役だ。

“神の恵の地”と呼ばれるイギリス、ヨークシャーで、廃れゆく牧畜業を親から受け継ぎ、孤独で過酷な労働の憂さを、日々の酒と、パブで出会った男たちとの行きずりのセックスで紛らわせているのが、オコナー演じるジョニーだ。だが、ある日、ジョニーはルーマニアからやって来た季節労働者のゲオルゲが羊に優しく接する姿を見て、それまで感じたことのない感情を抱くようになる。彼は恐らく生まれて初めて恋に落ちたのだ。

授賞式でリー監督を囲むオコナー(右)と共演のアレック・セカレアヌ
授賞式でリー監督を囲むオコナー(右)と共演のアレック・セカレアヌ写真:Shutterstock/アフロ

 ヨークシャーの荒涼とした大地で愛し合う男たちに訪れる、『アンモナイト~』とは真逆の至福感溢れる結末を用意し、同時に、今のヨーロッパが抱える移民問題の皮肉な側面を描いた『ゴッズ~』は、批評家たちから高評価を獲得。2017年のイギリス・インデペンデント映画賞の作品賞、監督賞、そして、オコナーには主演男優賞が授与される。役作りのために約1ヶ月間を牧場での労働に費やし、ひたすら体重を落としたというオコナーは、ジョニーについて『ろくに口も聞けず、誰かを愛したことも、愛されたこともない人物だと思う。でも、だからこそ彼に安らぎを与えたかった』と説明。そんなオコナーの繊細で計算し尽くされた演技に対して、『ザ・クラウン』の製作者、ピーター・モーガンは『巨大だが目立たない技術を持った天才的なサッカー選手のようだ』と称賛。一方、フランシス・リーは”クィアホラー”と銘打たれた最新作の主役に再びオコナーを起用している。リーに因ると、『以前から作る機会を模索していた20世紀が舞台の時代劇』なのだとか。

ロンドンで行われたLOEWEのローンチに現れたオコナー
ロンドンで行われたLOEWEのローンチに現れたオコナー写真:REX/アフロ

 ハイブランドとのコラボも人気のバロメーターだ。スペインのラグジュアリー・ブランド、LOEWEでクリエイティブ・ディレクターを務めるジョナサン・アンダーソンも、『ゴッズ~』でオコナーの純粋でナチュラルな演技に魅了された1人だ。アンダーソンは同ブランドが目指すサステイナビリティを意識したアウトドアライン、Eye/LOEWE/Natureのイメージキャラクターにオコナーを起用。アンダーソンにとって5シーズン目になる2021年春夏コレクションでは、デジタル・プリントのコットンTシャツとパッチワークのコットンパンツで決めたオコナーのジャンプショットがキー・イメージに使用されている。また、オコナーはハイジュエラー、ブルガリのアンバサダーも務めていて、今春のゴールデン・グローブ賞の授賞式には同ブランドのステンレススティールウォッチ”オクト フィニッシモS”を着けて登場している。

アネット・ベニング&J.オコナー『幸せの答え合わせ』
アネット・ベニング&J.オコナー『幸せの答え合わせ』

 さて、そんなオコナーが、ある日突然、両親から離婚の知らせを受けて戸惑う心優しい息子を演じる『幸せの答え合わせ』(18)が今週末、日本で公開される。物語は、個性的で理想が高く、要求が強い妻のグレース(アネット・ベニング)との29年に及ぶ結婚生活に疲れ果てた夫のエドワード(ビル・ナイ)が、いきなり家を出るところから始まる。努力では到底埋められない生き方と価値観の違いが別れを決意した理由だとエドワードは説明するが、あまりに突然のことでグレースはすぐには受け容れられない。端から直球で熟年離婚の厳しい現実に切り込む映画は、やがて、オコナー演じる息子のジェイミーが、危機に瀕した両親と久しぶりに語らううちに、幼い頃の思い出と、両親に対する愛情と、それを機に改めて自分の生き方と向き合うことになる家族の物語へとシフトして行く。ここでも、オコナーの朴訥としていながら役柄の内面を理解した自然な演技が、作品をさらに魅力的なものにしているのは確かだ。

シーフォードの絶景
シーフォードの絶景写真:REX/アフロ

 もう一つ、本作には大きな魅力がある。物語の舞台になるイギリス南海岸に位置するイーストサセックス州の街、シーフォードの風景だ。かつて、『つぐない』(07)や『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)を始め、多くの名作映画の舞台になって来た景勝地である。中でも、白い石灰岩の断崖が海にそそり立つ丘から見下ろすシーフォード湾と、ずっと先に見える港町、ニューヘブンまでのランドスケープはまさに絶景。劇中でグレース、エドワード、ジェイミーが丘の上を歩くシーンは、イギリス好きはもちろん、コロナ禍で旅に飢えたすべての海外旅行マニアをうっとりさせるに違いない。

 今、最も勢いがある若手UK俳優と、眩しい南イングランドの景色が一緒に楽しめる『幸せの答え合わせ』を、この機会に是非劇場で。

Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』

シーズン1~4独占配信中

『幸せの答え合わせ』

公式サイト

6月4日(金) キノシネマほか全国順次公開

(C) Immersiverse Limited 2018

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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