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遂にハリウッド映画が劇場に戻って来る!?幕開けを飾る『ラーヤと龍の王国』のテーマはアジアだ

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で約1年近く閉鎖されていたアメリカ、ニューヨーク市の映画館が、遂に明日3月5日から再開されることが決まった。定員の25%、もしくは1スクリーンあたり最大50人という入場制限付きだが、長いトンネルの中にある映画業界にとっては久々の吉報と言える。そして、オープニングを飾る形で3月5日に劇場公開されるのが、ディズニー・アニメの最新作『ラーヤと龍の王国』だ(ディズニーの動画配信サービス、Disney+でも同日より配信開始)。

『ラーヤ~』は記念すべき作品だ。まず、本作は『チキン・リトル』(05)以来、ジョン・ラセターの関与なしに製作された最初のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品であり、『モアナと伝説の海』(16)以来になるオリジナル・アニメーションである。また。『アナと雪の女王2』(19)に次いで2020年代の最初に公開されるアニメ版の”ディズニー・プリンセス・ムービー”だ。さらに枠を広げると、『白雪姫』(37)に始まり、『眠れる森の美女』(59)、『リトル・マーメイド』(89)、『美女と野獣』(91)、『ポカホンタス』(95)、『ムーラン』(98)、(13) 『ズートピア』(16)、そして『アナと雪の女王2』まで、連綿と受け継がれてきた”ディズニー・ヒロインもの”として、実に19番目の作品にあたる。

孤高の戦士、ラーヤ
孤高の戦士、ラーヤ

 さて、主人公のラーヤは2020年代の幕開けを飾るに相応しいパワフルなヒロインだ。彼女は突如出現した邪悪な魔物によって最愛の父を失い、分断された我が王国、クマンドラを再び統一するため、伝説の”最後の龍”を探して、たった1人で旅に出るのだ。彼女にはそばに寄り添う味方がいない。強いて言うなら、ラーヤを背中に乗せて勢いよく大地を転がっていくアルマジロ(に似た生き物)のトゥクトゥクだけ。パワフルだけど、こんな淋しいヒロインは未だかつて見たことがない。

 それでも、ラーヤは旅の途中で掛け替えのない出会いに恵まれる。キッズ実業家ブーン、見た目は厳ついが子供好きな森の住人トング、赤ちゃんみたいにつぶらな瞳で泥棒軍団を率いるノイたちだ。中でも、王国を救う鍵となるはずが、魔力が失われていた”最後の龍”シスーの、相手が誰だろうがすぐに信じてしまう天真爛漫な性格は、他者や自分の運命に対して懐疑的になっているラーヤの閉ざされた心を徐々に開いていく。そして、ラーヤは分断されたクマンドラに再び和平をもたらすために命をかける。戦争の時代に終止符を打つ希望のヒロインとして躍動するのだ。

東南アジアの色彩にうっとり
東南アジアの色彩にうっとり

 最大の見せ場は背景の美しさだ。舞台はディズー・アニメ初となる東南アジアのどこか。製作チームは架空の幻想世界、クマンドラを映像化する際、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、フィリピン・ラオスといった東南アジア諸国からインスピレーションを得、リサーチのためにミャンマーとマレーシアを省く全ての国を実際に訪れて、そこで見た風景やカルチャー、食べ物、そして、ファッションを作品に取り入れている。”東南アジア・ストーリートラスト”と名付けられた製作チームを率いたのは、人類学者として知られ、ドキュメンタリー映画の監督としても活躍するカリフォルニア州立大学スタニスラウス校の准教授、スティーヴ・アラウンサック博士のコンサルタントチームだ。彼らが描くクマンドラやその他の地域は、ブルーとグリーン、ピンクと紫、緑と黄緑、黄色と茶色が混じり合う中間色のグラデーションがドラマチックで、思わず見惚れてしまう。そこは架空とはいえ、色といい、質感といい、湿度といい、アジアそのものなのだ。また、ラーヤが2本の棒を持って敵に立ち向かう格闘スタイルは、フィリピンのマーシャルアーツ、カリを模倣したものだとか。

ラーヤとシスー、正反対の友達
ラーヤとシスー、正反対の友達

 そう、アジアはもう一つの重要なテーマだ。舞台だけではない。ヴォイスキャストもアジア出身の俳優たちがずらりと並ぶ。ラーヤを担当するのは両親がベトナム人のケリー・マリ・トラン、シスーは中国人と韓国人を両親に持つオークワフィナ、トングは両親が香港出身のベネディクト・ウォン、他にも、中国系イギリス人のジェンマ・チャン、プサン出身のダニエル・デイ・キムたち、アジアにルーツを持つ今やハリウッド映画ではお馴染みの面々が競演。彼らが話す英語は実にクリアで聴き取りやすいので、字幕版でご覧になるのも一興かも知れない。

 果たして、ディズニーが全面的にアジアを意識した2020年代最初のディズニー・アニメ『ラーヤと龍の王国』は、1年ぶりに再開する劇場にどれだけ観客を呼び込むことができるだろうか?因みに、『ラーヤ~』に続く劇場公開予定作品は以下の通りだ。

・『Chaos Walking』(3.5公開/デイジー・リドリー、トム・ホランド共演のSFアドベンチャー)

・『Nobody』(3.26公開/『ブレイキング・バッド』でお馴染みのコメディ俳優、ボブ・オデンカーク主演のクライムアクション)

・『ゴジラvsコング』(3.31公開/モンスターバース・シリーズの第4作)

・『フリー・ガイ』(5.21公開/ライアン・レイノルズ主演の冒険アクション)

・『Infinite』(5.28公開/マーク・ウォールバーグ主演のSFスリラー)

・『Samaritan』(6.4公開/シルベスター・スタローン主演のアクション・ドラマ)

また、3月12日にはコロナ禍で果敢に劇場公開されたクリストファー・ノーランの『TENET テネット』が、IMAXでの鑑賞を待ちわびていたニューヨーカーたちに向けて、リベンジを期して再リリースされる。春から初夏にかけて、ハリウッド映画はまさに勝負のシーズンを迎えることになる。

『ラーヤと龍の王国』

公式サイト

3月5日(金)

映画館 and ディズニープラス プレミア アクセス 同時公開

※プレミア アクセスは追加支払いが必要です。

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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