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韓国はイ・ビョンホン主演作を選出。日本は?本年度アカデミー国際長編映画賞の行方

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
主演作がオスカーレースにエントリーするイ・ビョンホン(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

パンデミック下でもオスカーレースは密かに始まっている

 第93回アカデミー賞授賞式は2021年4月25日に開催される(ノミネーションの発表は3月15日)。つまり、まだ半年も先の話だ。しかし、メディアによる各部門の候補予想はコロナ禍でも密かに始まっている。そこで、業界紙”Variety”による予想をヒントに、本年度の注目ポイントを以下に挙げてみよう。

★作品賞レースのフロントランナーとされる『ノマドランド』(サーチライト・ピクチャーズ)を、『シカゴ7裁判』『Mank マンク』(Netflix)や『One Night in Miami』(アマゾン・スタジオズ)など配信系が追走する中、今年のサンダンス映画祭で評価されたA 24製作の『Minari』の追い上げが急。

★監督賞は『ノマドランド』のクロエ・ジャオ、『One Night in Miami』のレジーナ・キングという共に女性監督が本命と対抗。2人を追うのが『Mank マンク』のデヴィッド・フィンチャーと『シカゴ7裁判』のアーロン・ソーキン、『Minari』(A24)のリー・アイザック・チョンあたりか?

★主演男優賞は『The Father』(ソニー・ピクチャーズ・クラシックス)で認知症の恐怖を演じたアンソニー・ホプキンスが本命視されるが、『マ・レイニーのブラックボトム』(Netflix)でトランペッターを演じた故・チャドウィック・ボーズマン(本作が遺作)が対抗として浮上。ボーズマンは『ザ・ファイブ・ブラッズ』( Netflix)で助演男優賞の候補入りも有力視されている。

★主演女優賞は『ノマドランド』でアメリカ各地を車でさすらう”ホームレス”ならぬ”ハウスレス”の女性を演じるオスカーの常連フランシス・マクドーマンドを、『Pieces of a Woman』(Netflix)で自宅出産により子供を亡くした母親を演じるヴァネッサ・カービーが猛追。『The Prom』(Netflix)のメリル・ストリープがオスカー史上最高のノミネート回数を上積みするか?

★助演男優賞候補に『シカゴ7裁判』から何人入るか?ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、フランク・ランジェラ、マーク・ライランス、エディ・レッドメイン等が有力だが、法廷に立つ政治活動家の1人、アビー・ホフマンを演じたサシャ・バロン・コーエンの候補入りが最有力とされる。

去年『パラサイト~』が制覇した国際長編映画賞。今年の韓国代表は?

 さて、中でも気になるのは国際長編映画賞(外国語映画賞改め)だ。去年、この部門で受賞が有力視されていた韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が、蓋を開けてみると、国際長編映画賞をはじめ、監督賞、作品賞など主要4部門を独占し、歴史的快挙を達成したのは記憶に新しい。その流れを受けて、去る10月22日、韓国映画協会は今年のアカデミー国際長編映画賞の韓国代表として、イ・ビョンホン主演の実録サスペンス『KCIA 南山の部長たち』(2021年1月公開)を選んだと発表した。同作は、韓国が軍事政権下にあった1979年、政権内で絶大な権力を誇っていた中央情報部(通称KCIA)の部長、キム・ギュピョン(ビョンホン)が、時の大統領、朴正煕を暗殺するに至る40日間を、事実に基づき映画化したもの。監督は前作『インサイダーズ 内部者たち』(16)でもイ・ビョンホンとコラボしているウ・ミンホだ。

 今年1月下旬、韓国で公開された同作は、映画の興行がパンデミックの影響を受ける中、10 月時点で今年の国内最高興収である3450万ドルを記録。前出の”Variety”は「驚異的な経済成長で知られる韓国の歴史の中で、ややダークな一面を描いた魅力的な作品」と表現。また、韓国の”聯合ニュース”は「ギュピョンが暗殺を決意するまでの心理的変化を微妙な表情を駆使して演じるイ・ビョンホンの演技力の高さについては疑う余地はない」と評している。

 果たして、来るオスカーで『KCIA 南山の部長たち』はどんな評価を受けるのか?そこで、他国の代表作品(もしくは予想)をチェックしてみよう。以下はすべて、国際長編映画賞のルールに則り、それぞれの国内で2019年10月1日から2020 年12月31日までに公開または公開予定の作品だ。昨年度の国際長編映画部門には世界中から92本(91本という説もある)がエントリーしたが、今年は新型コロナウイルスの影響でそれより減少するのは間違いないだろう。それでも、いち早く映画サイト”IndieWire”が候補の予想を立てている。

国際長編映画賞を狙うその他の有力作と日本映画

 同サイトのイチオシは、すでにカンヌ映画祭、東京国際映画祭、サンセバスチャン映画祭で高い評価を得ているデンマーク映画『Another Round』だ。”北欧の至宝”と謳われるデンマークの国民的名優、マッツ・ミケルセン演じる冴えない高校教師が、同僚たちと一緒に血中内のアルコール濃度が生活にどう響するかに挑戦する異色の人間ドラマである。ミケルセンとトーマス・ビンダーベア監督は傑作『偽りなき者』(13)でも組んだ仲。現在、デンマーク映画協会は『Another Round』も含めて候補作3本まで絞り込んでいて、11月18日に正式エントリーを発表する予定だ。

 以下、”IndieWire”が同賞のフロントランナーに挙げているのは、アグニエシュカ・ホランド監督によるチェコ共和国製作の『Charlatan』(1950年代の全体主義時代に薬草を用いた治療で人命を救った実在の医師、ヤン・ミコラーシェクの生涯を描く)、アレクサンダー・ナナウ監督のルーマニア映画『Collective』(ルーマニアの新聞記者たちが罪のない多くの市民を死に追いやった医療詐欺の実態を暴く)、スイス映画の『My Little Sister』(ベルリンに別れを告げスイスで暮らす劇作家が、病に倒れた双子の兄を見舞いに母国へと帰還する)等。その他、ウクライナ映画の『Atlantis』(PTSDに苦しむ帰還兵がボランティアと共に荒廃した社会に平和なエネルギーを取り戻そうとする)や、ジョージア映画『Biginning』(新興宗教の指導者を夫に持つ女性を通して歪んだ現実の実態をほぼセリフなしで描く)などが有力作として挙げられている。因みにフランスは12月1日に正式エントリーを発表する予定だ。

 そんな中で、一般社団法人「日本映画製作者連盟」は10月29日、河瀬直美監督の『朝が来る』を日本代表作品に選出したことを発表した。『パラサイト~』を機に映画の国境が一気に崩壊しつつある今だからこそ、アカデミー国際長編映画賞に対する注目度は主要部門以上に高い。

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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