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公開迫る『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の見どころをチェック!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の日本公開(4月10日)まで、あと約50日。そこで、現時点で共有、または、一部メディアが深読みしている情報を簡単にまとめてみよう。

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ダニエル・クレイグはこれを最後にボンド役を引退

 シリーズ25作目であることから当初は『BOND 25』と題されてスタートした最新作は、オフィシャル・シリーズに出演したボンドアクターとして5作目になるダニエル・クレイグが、これを最後にシリーズ卒業を明言している区切りの作品だ。まずは、ここを少し深掘りしてみたい。今年の3月に52歳になったクレイグは、気がつけば『美しき獲物たち』(85)に出演した時のロジャー・ムーア(57歳)、番外編だが『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(83)に出演時のショーン・コネリー(53歳)に次ぐ高齢のボンドアクターになってしまった。前作『スペクター』(15)撮影中に膝に怪我を負った際、手術後、即行で現場に戻ったクレイグの危険な献身ぶりを目の当たりにした妻で女優のレイチェル・ワイズが、これ以上の危険は冒して欲しくないと懇願したのも、無理はない。結果、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のオープニング・シーケンスには、シリーズで初めて、アクションをしないボンドが登場する。現れるのは、現役を退き、思い出深いジャマイカで余生を送るボンドなのだ。

 しかし、そのジャマイカでクレイグは怪我を負っていた。浮き桟橋を走って渡るシーンを撮影中に、滑って足首の腱を断裂し、手術すれば10週間で現場に復帰できるという主治医の提言を拒否。撮影スケジュールに支障が出るという主演俳優としての責任感から、2週間で現場に戻っていたのだ。「ダニエルを静止するのは至難の技だ。たとえ、怪我の後遺症が撮影終了後まで長引くことが分かっていたとしても」とは、スタント・コーディネーター、ゲイリー・パウエルの言葉だ。また、レイチェル・ワイズは撮影現場を”ボクシング・リング”と表現している。この状況から見ても、クレイグのシリーズ引退は説得力がある。だが、一部のメディアはその情報を怪しんでいる。これまでも、引退を口にしながら結局続投を選んできた彼だから、まだ次があるかも。というのが彼らの論調だ。

悪の首領、サフィン(ラミ・マレック)
悪の首領、サフィン(ラミ・マレック)

 

ラミ・マレック演じるヴィランは過去へのオマージュか? 

 さて、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のストーリーに戻ろう。前記のように映画の幕開けはジャマイカ。数々の命がけのミッションをやり終え、今はジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンド(クレイグ)のもとに、CIA出身の旧友、フェリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が訪れ、新たな任務を伝える。人類にとって重要な鍵を握る科学者のヴァルド・オルブチュクが何者かに誘拐されたという。そこで、犯人を特定し、彼らの目的を阻止するというのが、ボンドに与えられた使命だった。公開されているシノプシスはここまで。これ以降は、キャラクターの紹介と共に話の展開を追って行こう。現場に復帰したボンドは、早速MI6内に囚われている黒幕、ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)から、悪の首謀者と思しきサフィン(ラミ・マレック)の居場所を聞き出そうとする。このサフィンなる人物。プロデューサーのバーバラ・ブロッコリによると、「最も悪質で、ボンドの皮膚の内側に侵入するような人物(心理的な意味なのか、皮膚科学的意味なのかは不明)。と説明。また、演じるマレック自身は、「ボンドと同じく、サフィンは自分をヒーローとみなしている人物」と分析。一説には、サフィンはシリーズ第1作『ドクター・ノオ』(62)に登場したアメリカの宇宙開発を妨害する謎の中国人、ドクター・ノオの再来ではないかと言われている。理由は、ノオを演じたジョセフ・ワイズマンとマレックが、その黒髪といい、強い顎のラインといい、見た目がそっくりなことと、物語の舞台が同じジャマイカだという点だ。製作側に伝説のシリーズ第1作と区切りの25作目を何らかの形でリンクさせたいという企みがあったとしても、何ら不思議ではない。

ビリー・アイリッシュの主題歌が暗示するボンドとスワンの関係

 先日公開されたグラミー賞シンガー、ビリー・アイリッシュが歌う主題歌の歌詞が、何やら、ボンドと恋人のマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)の関係を暗示している。その内容は、”あなたを信じたのは馬鹿だった?私は無謀な手伝いをしたかしら?私は嘘のために堕ちたのね。なのにあなたは側にいなかった。私は1度ならず2度も騙されたのね。あなたは楽園?それとも死?”等々、かなりの恨み節に聞こえる。このことから、どうやらスワンはボンドを裏切ることになりそうで、その証拠に、公開中のクリップにはボンドが”私を許して”と認められたメモを握り締めているショットが。危険なミッションの陰で、最近のシリーズが重要視してきたラブロマンスの行方も気になるところではある。

パロマ(アナ・デ・アルマス)
パロマ(アナ・デ・アルマス)

 また、アナ・デ・アルマスが演じるCIAエージェント、パロマも、重要な位置を占めていそうだ。何しろ、アルマスは『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(19)で共演した際、その才能に惚れ込んだクレイグ自らが推薦した逸材。アルマス自身はパロマのことを、「無責任で陽気な女性」と表現しているが。そして、引退したボンドに代わって”00”のライセンスコードを引き継ぐ女性スパイ、ノミの存在も気になる。発表当初、「007が女性に取って代わる」と騒がれたキャラクターだ。演じるラシャーナ・リンチはアフリカ系ジャマイカ人で、ロンドンで演劇を学んだ新星。『キャプテン・マーベル』(19)で主人公とは空軍に同期入隊の親友、マリアを演じた彼女をご記憶のことと思う。リンチのキャスティングにはダイバーシティを意識した製作側の意図が読み取れる。他にも、ベン・ウィショー演じるガジェット調達係のQ、レイフ・ファインズ扮するMI6のトップ、M、ナオミ・ハリスのミス・マネーペニー等、鉄板のレギュラー陣がファンに安心感をもたらしてくれるのは言うまでもない。

"00"のノミ(ラシャーナ・リンチ)
"00"のノミ(ラシャーナ・リンチ)

アストン・マーティン、オメガ、トム・フォードとハイブランドが結集

 ダニー・ボイルが監督を降板後、メガホンを託されたキャリー・フクナガは、HBOの犯罪ドラマシリーズ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(14)でエミー賞の最優秀監督賞に輝いた日系アメリカ人。フクナガと『ラ・ラ・ランド』(16)でアカデミー撮影賞を受賞している撮影監督のライナス・サンドグレンは、シリーズ初となる65mmI MAXフィルムカメラを導入し、ジャマイカ、イタリア、ノルウェー、ロンドンでロケを敢行。中でも、ボンドが愛車のアストンマーティンV8ヴァンテージに乗り、ノルウェーの街を疾走する場面は劇中でも白眉。登場する車はV8以外にも、『ゴールドフィンガー』(64)に登場したアストンマーティンDB5、スポーツタイプのDBSスーパーレジュラやヴァルハラ等、新旧のカーマニア垂涎の逸品ばかりだ。また、オメガが提供したオメガ・シーマスター、バートン・ペレイラのサングラス、そして、トム・フォードがデザインしたコスチュームからも目が離せない。特に、オフィシャル・プロモーション・フォトで紹介された、アストンマーティンV8を背景にポーズをとるクレイグの鍛え上げられたボディにまとわりつく、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックのスーツは、ウエストの位置とポケットの角度が完璧。こんなにもかっこいいクレイグ=ボンドが、本当に見納めかと思うと、マジで淋しくなるシリーズ第25作なのだ。

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

  • コロナウィルスの感染拡大により、日本公開は11月10日(金) に延期されました

監督:キャリー・フクナガ/製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン 

脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、スコット・バーンズ、キャリー・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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