Yahoo!ニュース

『ジョーカー』は最後に笑うか!?ちょっと早すぎる2020オスカー予想

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

 映画界は秋の陣が始まった。話題を牽引しているのは勿論、全世界で大ヒットを記録している『ジョーカー』だ。そして、その『ジョーカー』を含めて、すでに業界内では来年のアカデミー賞を占う声が出始めている。まだ、授賞式は3ヶ月半も先の話なのに、ノミネーションも出ていないのに早すぎじゃないか!?と思うかもしれないが、さにあらず。オスカーの行方を左右するベネチア国際映画祭(金獅子賞は『ジョーカー』)、トロント国際映画祭(観客賞は『ジョジョ・ラビット』)、そして、そのトロントよりも前に話題作が集まるテルライド映画祭での評価が出揃った今が、オスカーレースの開始を意味するからだ。まして、来年のオスカーナイトは例年より2週間も早い2月9日に行われる。いつもより時間がないのだ。そこで、各映画祭の受賞結果、映画サイトの予想、製作会社の戦略等を踏まえつつ、ちょっと早すぎる2020年オスカー予想を試みてみたいと思う。

『ワンハリ』vs『アイリッシュマン』のフロントランナー対決

ブラッド・ピットの助演男優賞もアリの『ワンハリ』
ブラッド・ピットの助演男優賞もアリの『ワンハリ』

 まず、現時点でオスカーレースのフロントランナーと目されているのが、クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。理由は明白。全編に溢れるハリウッド及び映画へのオマージュが、映画ファンは勿論、アカデミー会員の気持ちを掴み取っているからだ。過去にも、『ラ・ラ・ランド』(16)『アルゴ』(12)『アーティスト』(11)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)等、同じコンセプトを持った秀作が作品賞他、メインカテゴリーを制している。

NY映画祭で揃い踏みの『アイリッシュマン』の面々
NY映画祭で揃い踏みの『アイリッシュマン』の面々

 その『ワンハリ』と並走しているのがマーティン・スコセッシによる上映時間3時間半の一大叙事詩『アイリッシュマン』だと言われている。昨年、『ROMA/ローマ』を作品賞受賞ギリギリまで持って行ったものの、最後に『グリーンブック』にうっちゃられたNetflixは、今年こそ目的達成を目指して『アイリッシュマン』をブロードウェーのベラスコ劇場で来月11月1日から12月1日までの1ヶ月間、限定公開すると発表。勿論、アカデミー賞ルールに則った作戦だ。これは『ROMA/ローマ』の3週間よりも長い。Netflixには他にも、ノア・バームバック監督が離婚に纏わる夫婦の苦悩を両側から描いた『マリッジ・ストーリー』と、バチカンに於ける枢機卿と教皇の対話を綴る『2人のローマ教皇』という、共に強力なラインナップを有する。2つの作品はどちらもテルライドやトロントで好評だった。特に、『マリッジ・ストーリー』は『クレイマー、クレイマー』(79)以来となる離婚葛藤ドラマとしてオスカーに輝く可能性が指摘されている。

『パラサイト』は外国語映画として作品賞に挑むのか?

ここに来て注目度急上昇の『パラサイト』
ここに来て注目度急上昇の『パラサイト』

 果たして、Netflixはストリーミング映画として史上初のアカデミー作品賞制覇を成し遂げられるだろうか?しかし、より大きな偉業に挑戦しようとしているのが韓国映画『パラサイト 半地下の家族』だ。『殺人の追想』(03)、『グエムル-漢江の怪物-』(06)、『オクジャ/okja』(17)等で知られるポン・ジュノ監督が、正反対の家族が想像を絶する悲喜劇へと雪崩れ込む過程を描く映画は、すでに、今年のカンヌ映画祭で韓国映画初のパルムドールを受賞。8月のテルライド映画祭でも高く評価され、10月11日からニューヨークとロサンゼルスで限定公開されるや、公開第1週の週末興収が劇場平均で12万5000ドルという今年最高の記録を達成。そんな反響を受けて、ここに来て、一部でオスカー史上初の外国語映画での作品賞受賞すら囁かれ始めた。過去にアカデミー賞に於ける言語の区分けを破壊した唯一の作品は、フランス映画の『アーティスト』だが、あれはほぼ無声映画だったから例外だ。もし、『パラサイト』が偉業を達成すれば、去年、作品賞を逃し、外国語映画賞(監督賞と撮影賞も)に止まったメキシコ映画『ROMA/ローマ』を超えることになる。映画を言語で区別することがあまり意味をなさなくなってきた今、今後も『パラサイト』の動向からは目が離せない。

 他の有力作としては、去年の『グリーンブック』と同じく、オスカーに最も近いと言われるトロント映画祭の観客賞に輝いた『ジョジョ・ラビット』、シャーリーズ・セロンやニコール・キッドマン等、オスカー女優を動員してTV局の一大スキャンダルの内幕を暴く『ボムシェル』等が挙げられる。その後、賞レースが本格化する12月には、オスカー監督、サム・メンデスによる第一次大戦ドラマ『1917』や、グレダ・ガーウィグが『若草物語』のリメイクに挑む『リトル・ウィメン』、そして、クリント・イーストウッドがアトランタ・オリンピックで爆発物処理を行った実在の警備員を映画で称える実録ドラマ『リチャード・ジュエル』等、有力作が相次いで公開される。

賛否両論の『ジョーカー』はオスカージンクスを跳ね返すか!?

画像

『ジョーカー』はどうだろう?コミックキャラクターを万人が共感できるレベルに落とし込んだこの斬新な物語に対する映画ファンの熱狂、それを見事に具現化したホアキン・フェニックスの熱演を理由に、これをフロントランナーの一つに挙げるオスカー・ウォッチャーは多い。反面、観客に与える負の影響や、コミックの映画化作品に対するアカデミー協会の冷遇等を鑑み、有力候補から外す意見も見受けられる。昨年の『ブラックパンサー』に続いて2年連続で同ジャンルから作品賞候補は出ないだろう、というのが否定派のロジックなのだが、さて、どうなるか?

 以上はあくまで、アワードシーズン幕開け直後の予想に過ぎない。例年にも増して混戦が予想される中、今後意外な有力作が浮上してくる可能性もあり得るだろう。勿論、『ジョーカー』が最後にオスカージンクスを覆すことだって。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

公開中

『ジョーカー』

公開中

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

『アイリッシュマン』

Netflixオリジナル映画

11月27日(水)独占配信開始

『パラサイト 半地下の家族』

2020年1月、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

清藤秀人の最近の記事