ロケ地巡りツアーも発売中!背景が物語るヒット作「君の名前で僕を呼んで」の新しい魅力

 4月27日に公開された「君の名前で僕を呼んで」が静かなブームを呼んでいる。注目すべきは観客層だ。普段は主婦層が多い東京・渋谷のBunkamura ル・シネマによると、連日10代を含む若年層が多く来館していて、中には制服を着た女子高生の姿も見かけられるとか。同館にこれほど若い観客が詰めかけるのは、レオナルド・ディカプリオ主演の「太陽と月に背いて」(95)以来、22年ぶりのことで、映画が上映されていない中国を含め、海外からわざわざ駆けつけてくる熱狂的なファンもいるという。

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 さて、この映画が若い観客を中心に国境を越えてファンを魅了する理由は何だろう?すでに拡散されているレビューの論調は、概ね以下の3つに分類できると思う。1、エリオとオリバーの恋のプロセスにジェンダーを超えた普遍性がある。2、初恋の暴走と喜び、そして喪失が誰の胸にも深く突き刺さる。3、ラストで父親がエリオに伝える言葉に世代間で異なる自由の範囲が描かれている。

 以上、どれもが正しいのだが、同時に、どこか核心を突いていない気もする。なぜなら、物語の背景となる北イタリア、ロンバルディア地方の夏の風景が、単なる美しさを越えて、人物の表情や言葉、そして行動と対等に、時にはそれ以上の存在感を以て描かれているからだ。それは例えば、キャサリン・ヘプバーンの「旅情」(55・休暇でベニスを訪れたアメリカ人キャリアウーマンの束の間の恋)のように、背景が人物の感情を増幅させるとかではなく、むしろ、背景こそが主役だと感じさせるレベルなのだ。

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 映画の冒頭、主人公の2人が初めて出会う夏の太陽と緑に囲まれた瀟洒なヴィラ、いつも開け放たれた窓辺、風を感じながら皆で囲む朝食のテーブル、エリオとオリバーが自転車を駐めるクレマの町のランドマーク、大聖堂広場の眩しくて閑散とした昼下がり、2人が遺跡のかけらを持って遊ぶガルダ湖畔を撫でる湖上のそよ風、さらにサイクリングで遠出するパンティーノからグラデッラまでののどかな道のり、抱擁する乾いた草むらetc。どの瞬間も、人物が完全に風景と一体化している。オリバーがエリオに秘密の合言葉を耳打ちする閉ざされているはずの深夜の寝室ですら、窓から侵入してきた冷えた外気と虫の音が空間を支配しているのだ。

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 エリオとオリバーの語らいや行いが、時折生々しくもあるのに、それらが観客の目と耳に自然に吸い込まれていくのは、すべてが背景の一部としてフレームの中に完璧に収まっているからではないだろうか。ストーリーを起点にこの映画を論じようとしても決定的な説得力を持ち得ないのはそのためだ。

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 監督のルカ・グァダニーノは映画の舞台を原作リビエラのリグリアから、監督自身が住むクレマに変更している。クレマの平和で牧歌的な暮らしや風景を、人物、例えばエリオの両親、パールマン夫妻のライフスタイルに投影できると確信したからだ。監督はさらに「パールマン家の人々はカントリーライフを満喫し、自然と一体化することで官能的な感覚に浸っているんだ」とも説明している。

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 自然と一体化することで生まれる官能的な感覚。それはグァダニーノ監督が「ミラノ、愛に生きる」(09)で描いた、ミラノに住むロシア人のブルジョワ主婦が、恋に落ちたコックとセックスする太陽が燦々と降り注ぐ山荘の畑と虫の声、さらに、前作「胸騒ぎのシチリア」(15)で映画の撮影隊が初めて足を踏み入れたという、ドロドロとした男女関係と対等に渡り合う地中海、パンテッレリーア島のゴツゴツとした岩場だらけの海岸や、山肌を切り拓いて作られた野外レストラン等、これまでも試みてきたロケ効果ではあった。

 しかし、「君の名前で僕を呼んで」に於ける背景の役割はさらに拡張され、遂に、背景そのものが物語となった感さえする。そういう意味で、本作は"ロケーション・ムービーの新機軸"と言えるのではないだろうか!?

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 ところで、そんな映画の魅力、そしてブームに呼応するように、イタリア・ミラノ旅行者向けとして、クレマを始め、エリオとオリバーが旅するベルガモ、パンディーノ、そして、"エリオの秘密の場所"等を8時間で巡るオプショナルツアーが発売されている。料金は68000円。但し、日本ーミラノ間の航空券代とホテル宿泊費はこれに含まれていない。ツアーの発売期間は5月から6月までなので、申し込むなら急いだ方が良さそうだ。

君の名前で僕を呼んで

全国公開中

配給:ファントム・フィルム

(C) Frenesy, La Cinefacture