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戦争の時代にもウィスキーを!!スコットランドから届いた映画「ウイスキーと2人の花嫁」の味わい方

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
「ウイスキーと2人の花嫁」

 戦争の時代を描いた映画には傑作が多い。例えば、第2次大戦下のヨーロッパ戦線を背景に、ダンケルクの攻防にフォーカスしたクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」、そして、同じ歴史の一コマをイギリスの宰相とその周辺から検証する「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(3月30日公開)は、どちらも現地時間3月4日に発表される今年のアカデミー賞(R)の作品賞候補に名を連ねている。

 でも、そんな殺伐とした時代にあっても、ひたすら、自分たちの秘かな楽しみを追求した人々もいたことが、スコットランド映画「ウイスキーと2人の花嫁」を観ればよく分かる。

ウィスキーを箱ごと回収する島民たち
ウィスキーを箱ごと回収する島民たち

 第2次大戦最中の1941年、スコットランドの西に浮かぶアウター・ヘブリディーズ諸島の中の小島、トディー島に定期的に配給されていたウィスキーが、遂に底をついた頃。リバプールからニューヨークに向けてウィスキー5万ケースとその他の貨物を積んだ船が、トディー島沖の岩場で座礁するという海難事故が発生する。島民たちの酒好きの血が騒いだことは言うまでもない。一方で敬虔なカトリック教徒でもある彼らは、キリストの行いに習い一日を休息の時間に充てる安息日が明けるのを我慢強く待って、ウィスキー回収のために月夜の海へと漕ぎ出すのだった!

結婚式にウィスキーは必需品
結婚式にウィスキーは必需品

 1941年に実際にあった"SSポリティシャン号座礁事故"をベースにしている本作の映画化に際し(1949年に1度映画化されていてイギリスで大ヒットを記録)、メガホンを執ったのは、物語の舞台であるスコットランド出身のギリーズ・マッキノン監督。昨年末、映画のPRで来日した監督に、まずは彼らスコティッシュにとっての安息日と、溢れる"ウィスキー愛"について訊いてみた。

ー目の前の海に5万ケースのウィスキーが浮かんでいるのに、ちょうどその日が安息日だったがために1日お預けを食らうという設定が秀逸ですね。でも、実は安息日を守らなかった人だっていたんじゃないですか?

「いなかったんですよ、あの時代にはね。特にスコットランド北部ハイランドのカトリック教徒はとても敬虔で、安息日の日曜日には牧師が街の一軒一軒を回って人々が本当に何もしていないかチェックしたほどです。本も読んじゃいけないんですよ。少なくとも20年前まではそうでしたね。でも、その分、前日の土曜日は毎週みんなどんちゃん騒ぎで、そりゃあ、ワイルドでしたよ。酔っ払ったまま日曜日の朝を迎えて、野原で寝ている人もいたくらいで(笑)」

ギリーズ・マッキノン監督は饒舌だった!
ギリーズ・マッキノン監督は饒舌だった!

ーそんな時、飲むのは当然スコッチですよね?映画でも、一度は諦めたウィスキーを偶然とは言え再び手に入れたおじさんが、昼間っから酔っ払ってボトルを抱いたまま、うたた寝しているのが微笑ましかったです(笑)。

「勿論。我々も撮影中に暇があればパーティを開いて、ウィスキーで親睦を図りました。これはコミュニティの話ですから、特に俳優たちは酒を酌み交わすことで親近感が増し、それが結果的に、芝居をする上での潤滑油になったと思います。そうそう、ロケハンでプロデューサーの親戚の家を訪れた時には、まだ昼間の3時なのに、出るのは紅茶じゃなくてウィスキーでした。でも、アルコール度が高いウィスキーを、我々のようにストレートで一気飲みするのは、健康上だけでなく、危険な行為です。一気に酔っ払うと感情が麻痺して、言うつもりではなかったことを思わず口走ってしまい、それが人間関係をダメにしてしまうこともありますからね」

至福のひとときが流れていく。
至福のひとときが流れていく。

ーなるほど。でも、劇中では主人公の郵便局長、ジョセフが、長女のフィアンセに言いますよね。「君と娘の婚約披露と結婚式がもし開かれるとしたら、そこにウィスキーは必需品だよね」って。また、次女のフィアンセにはいかにもスコティッシュな頑固者の母親がいますが、彼女が少しも表情を変えずにスコッチを一気に口に流し込むシーンがかっこよすぎです。つまり、この映画を見終わると、間違いなく、即行でウィスキーを飲みに行きたくなるんですよ。それも、いつものハイボールジョッキではなく、ストレートで。

「だろうね(笑)。だったら、ウィスキーの一番美味しい飲み方を君に教えてあげようか。それはね、水割りやオン・ザ・ロックや、勿論ハイボールではなく、ストレートに一滴だけ水を加えることだよ。そうすると、グラスの底からモルト独特の芳醇な香りが立ち上がってきて、何とも美味なんだよ」

実は監督はワイン党だったのだが。。。
実は監督はワイン党だったのだが。。。

 そんな風に、たとえウィスキー好きでなくても、いつもの居酒屋ではなく、久しぶりにカウンターバーに足を運びたくなる「ウイスキーと2人の花嫁」。同時に、どんな時にも自分たちの日常と嗜好を貫こうとする人々の姿は、戦争の時代を生き抜く上で、ある意味ヒントにもなり得るもの。まだまだ寒い今年の冬に、心からオススメしたい1作だ。

「ウイスキーと2人の花嫁」

2月17日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

(C) WhiskyGaloreMovieLimited2016

 

 

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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