日本初登場!!スイス人監督が語る痛烈コメディ「まともな男」の"日本人度"とは!?

 世界を見渡しても海外の映画が満遍なく公開されているはずのここ日本で、過去の作品が数多くの映画賞を受賞していながら、なぜか、未だ日本未公開の監督がいる。ドイツ生まれのスイス人監督、ミヒャ・レビンスキー(44)もその1人だ。そして当然の如く、ようやく今秋、彼が日本デビューを飾る。1998年に創設されたスイス映画界の祭典、スイス映画賞で、昨年度の最優秀脚本賞に輝いた最新作「まともな男」が、晴れて本日11月18日、限定公開ながら日本の映画ファンの目に触れることになったのだ。そこで、映画の公開を機に初来日を果たした監督に、日本デビューへの思いと、作品と、そしてこの機会に、我々にはあまり馴染みがないスイス映画界の現状諸々について聞いてみた。

「まともな男」は果たしてまともか!?
「まともな男」は果たしてまともか!?

ーまずは日本デビューおめでとうございます!しかし、随分時間がかかりましたね!?

 確かに、遅かったかも知れませんね(笑)。でも、逆に言えば、この映画で日本デビューできたのはラッキーだと思っています。日本の方々が、この物語から何かを感じてくれることが、僕としては大きな喜びですから。

 何かを感じるどころの話ではない。家族とスキーリゾートに訪れた真面目なサラリーマンのトーマスが、立場上断り切れず上司の娘を旅のメンバーに加えたことで、楽しいはずのスキー休暇が地獄へとシフトしていく。若干の忖度が悲劇へと転じるおぞましいプロセスは、むしろ日本人の胸にこそ刺さるのだ。

ー誰にでもボタンを掛け違えから不運のスパイラルに巻き込まれることはありますよ。でも、トーマスの場合は救いがない。なぜ、彼をそこまで追いつめるのですか?

 だって、コメディというのは何でもエスカレートして行くのが常でしょう?チャップリンだってそうじゃないですか。でも、自分には少し意地悪なところがあるのかも知れない。象徴的なのが映画のエンディングです。最後にトーマスは救われることもないけれど、同時に、罰せられることもない。それは彼にとって最も過酷な状況であり、描いた自分は冷たい人間のような気もしますね。

倦怠期だったはずのマルティナとトーマス
倦怠期だったはずのマルティナとトーマス

ートーマスと妻のマルティナは長らく倦怠期に陥っています。でも、それまで必死で事態の収拾に奔走していたトーマスが、遂に一線を越えて"ある行動"に出た後、帰宅すると、ベットで寝ていたマルティナが珍しくトーマスに触れてくる場面が痛烈ですね。

 それは、いつも事なかれ主義で物事を避けてきたトーマスが、やったことは間違っているけれど、初めて本能に従って行動した結果、その姿が女性から見て魅力的だったからではないでしょうか。

ー劇中には気になる台詞があります。雪山で旧知のスイス人の友人が、トーマスに対して「君はドイツ人にしてはいい奴だ」みたいなこと言いますよね。トーマスはスイスに住まうドイツ人という設定は分かるのですが、この台詞の意味を説明して頂けますか?

 スイス人はドイツ人に対して少しコンプレックスを感じている部分があるんです。国の規模は違うし、自分たちが普段話すドイツ語は訛っているし。一方で、ドイツ人はスイス人に比べて声が大きいし、何しろ遠慮というものがない。そんなドイツ人を常日頃無礼だと感じているスイス人は多いでしょうね。それをご指摘の台詞は表しているんです。

ドイツ人vsスイス人
ドイツ人vsスイス人

ートーマスを襲う悲劇の背後にはそんな両国民間に介在する偏見があるのでしょうか?

 スイス人がドイツ人に対して言う、「君はほとんどスイス人だね」というフレーズは、確かに友好の意味もあるけれど、さらに解読すると、スイス人ではないということでもあります。トーマスの問題はまさにそこで、事の本質から目をそらし、ぶつかり合いを避け、言いたいことを言わない事なかれ主義こそが、彼の弱点であり、悲劇の発端でもあるのです。

ー監督はこの物語をベルリン市内を自転車で走行中に思いついたらしいですね。危ないですよ。いつもそんな風にアイディアが閃くんですか?

 勿論、自転車を降りてアイディアを反芻しましたよ(笑)。いつもそんな風にプロットが閃くのですが、だいたいがダメで、「まともな男」は特別でした。しかし、その後、色々プロジェクトが進みかけては頓挫することが相次いで、映画を作り続けるべきかどうか悩んでいた時に、この物語のことが頭に蘇ってきたんです。そうして、一か八かで挑んだ、さらに言えば、最後の映画かも知れないと思って着手した映画が、結果的に母国で評価され、こうして日本でも公開されることになって、本当に良かったと思います。

ーお聞きしますが、スイスでの映画製作の現状はどうなっているんですか?

 スイスはたたでさえ小さな国なのに、4つの言語圏に分かれているから、ドイツ語が話せるスイス人がだいたい500万人くらいしかいないんです。その中から自分が求める役者を探し出すこと自体が、まず大変。なので、今後はよりマーケットが大きく、また選択肢も多いドイツでの映画作りを目指したいとは思っています。

ーでも、スイスの良さもあるんでしょう?

 ありますよ。まず、国が小さいから物事がシンプルに進む。例えばドイツだったら、資金を調達するのに3年はかかるし、大勢のスタッフに給料を支払わなくてはいけない。でも、スイスは人数が少ないし、マーケットも小さいから、お金集めも、製作のプロセスも、何しろシンプル。それがメリットです。

終始和やかなミヒャだった。。。
終始和やかなミヒャだった。。。

 確かに、「まともな男」が脚本賞を受賞したスイス映画賞には、ドキュメンタリー賞、短編映画賞、アニメーション賞は設けられているものの、何と監督賞はなく、助演男優賞と助演女優賞も助演賞として1つにまとめられているほど。映画賞のカテゴリーにしてから実にシンプルなのだ。

ー今、僕たち業界仲間の間では「まともな男」の話で持ちきりです。どう思われますか?

 不思議な感覚です。この映画がヨーロッパ各国で話題になったのは去年の話で、1年経った今、日本で注目されているというのは。

ーヒットすることを願っています。

 ありがとう。じゃあ、次は日本で映画を作ろうかな(笑)。

 リップサービスで終わったインタビューは、遅れてやって来たスイス映画の傑作と、作品に対する監督の思いと、スイス映画の今を知る上で貴重な時間になった。忖度が状況をこじらせ、やがて、取り返しの付かない事件に発展する恐ろしくも笑える物語は、日本の疲れたサラリーマンと、目の肥えた映画ファン・フレンドリーな1作。興味を持った方は、大急ぎで劇場へ!!

 

『まともな男』

11月18日(土)より、新宿K's cinemaほか全国ロードショー

公式ホームページ:http://www.culturallife.jp/matomonaotoko

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