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視聴者をAI時代の闇へと誘う話題のドラマがOA開始間近!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
43年ぶりに現れた黒装束のガンマン

間もなく日本でも放送を開始するHBO(R)の新作ドラマ「ウエストワールド」のビジュアルイメージが、ドラママニアのみならず、普段それ程ドラマに接していない映画ファンの興味をも惹きつけている。渓谷の上に佇む黒装束のガンマンの後ろ姿が妙に現実離れしているのと、演じるエド・ハリスの皺だらけの顔が漂わせる凄味がハンパないからだ。

"カリブの海賊から生まれたオリジナル・ストーリー

ハリウッド映画通にとって「ウエストワールド」(73)は思い入れの強い作品だ。なぜなら、SF作家のマイケル・クライトンがかつてディズニーランドの人気アトラクション、カリブの海賊にインスパイアされて書いたという脚本を自ら監督した作品は、その後の"AI(人工知能)映画"に少なからず影響を与えたからだ。「ジュラシック・パーク」(93)は同じくクライトン原作小説を映画化したメガヒット作だし、アーノルド・シュワルツェネッガーは「ターミネーター」(84)で近未来のアンドロイドを演じた際、クライトンの「ウエストワールド」を参考にしたと言われる。

ユル・ブリンナー→シュワルツェネッガー→エド・ハリス

シュワルツェネッガーがお手本にしたのは同作でロボットのガンマンに扮し、作品のテイストを決定づけた名優、ユル・ブリンナーの演技だ。体験型巨大テーマパーク内の西部開拓時代でゲストたちを心地よく持てなすはずのロボットが、突如、システムの不具合から反乱を開始する。中でも、ゲストの一人をあろうことか射殺した末に、撃たれても撃たれても息を吹き返し、同じスピードと歩幅で迫ってくる"ガンマン406"のロボット独特の光る目と、にも関わらずなぜか切なげなブリンナーの表情は、やがて来るAI時代の闇を予見していたかのようであった。。。

あれから43年。実際のAI技術も必然的にそれを描く映像も急激な成長を遂げた今、アメリカのTV界をリードするHBO(R)が同じコンセプトを安易に踏襲するはずはない。彼らはかつてマイケル・クライトンが構築した世界観をさらに深めるために、クリエーターチームにJ.J.エイブラムス、ジョナサン・ノーラン等、気鋭の人材を迎え入れ、今回はゲスト(新参者=ニューカマーと呼ばれる)ではなく、逆にロボット(ホストと呼ばれる)の目線から、プログラムがアップデートされる度に違う設定で違う役割を演じさせられる側の内面を探索して行く。そうすることで、人間の限りないエゴイズムが強調されるというわけだ。第1話では、この設定の反復が頻繁に繰り返される。それまでの物語が直後に削除され、瞬く間に上書きされていく感覚は、少しディテールが異なるデジャブ体験に近いかも知れない。また、人間と、どう見ても人間にしか見えないAIが共存する世界は、何が本物で何が偽物かという判断を不鮮明にする怖さもある。試されるのは、勿論、視聴者の感性だ。

AIがその瞳の奥に宿す記憶は消去され続ける
AIがその瞳の奥に宿す記憶は消去され続ける

去る10月2日、全米で放送された第1話では、さらに想定外のフックを仕掛けてファンの度肝を抜き、HBO(R)史上最高の初回視聴者数、330万人を獲得。ニュージーランドの一部メディアはそのバジェット規模(60億円)から同局の代表作と比較して、「ニュー・ゲーム・オブ・スローンズ」と銘打つ等、多方面で話題はヒートアップ。そして、今週の木曜、「ウエストワールド」はいよいよこの日本でも放送がスタートする。果たして、ビジュアルイメージで先陣を切ったエド・ハリスのガンマンはユル・ブリンナーの後継者としてシリーズを牽引して行くのか?映画版では明らかにされなかったシステム不具合の原因は特定されるのか?今後の展開から目が離せない。

「ウエストワールド」10月13日(木)23時よりスターチャンネル1 プレミアムにて独占日本初放送

(10月13日、10月29日は第1話無料放送/毎週木曜23時~ほか)

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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