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没後20年、鮮明画像で蘇る"9"ベスト・オードリー・ショット

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
パリの恋人

オードリー・ヘプバーンが63歳で突如、この世を去ってから20年目の秋、その代表作が劇場で再上映される。それも、デジタル・リマスター版で。もはや改めて解説する必要はないだろう。でもはやり、取り上げないわけにはいかない。女優オードリーが恐らくその絶頂期で演じた当たり役「ティファニーで朝食を」を皮切りに、彼女のファッション・アイコンとしての魅力が最も顕著な「パリの恋人」、そして、モノクロ映像で変身物語の原点が紡がれる「麗しのサブリナ」へと繋がる計3本には、繰り返し観ても決して飽きない珠玉のオードリー映像がぎっしりと詰まっているのだから。ここで、その瞬間を羅列しよう。

ティファニーで朝食を
ティファニーで朝食を

「ティファニーで朝食を」

<Shot 1>早朝のマンハッタン、5番街×57丁目のティファニーの前にイエローキャブから降り立ったホリー・ゴライトリー。ウィンドーの前でおもむろにコーヒーカップの蓋を開き、紙袋の中からデニッシュを取り出して儀式のように朝食を始める。高級ジュエラーと大胆な"ながら食い"。このミスマッチが伝説となり、ティファニーで食事ができると勘違いした日本人がいたとか、いないとか。

<Shot 2>いつものように日が高くなるまで爆睡していたホリーが、同じアパートに越してきた作家の卵、ポールのブザーで叩き起こされる。その日が毎週シンシン刑務所に受刑者を訪問する木曜日だと知って慌てたホリーが、事情をポールに説明しながら大急ぎで歯を磨き、メイクをし、服を着る間にポールになくした片方のヒールを探させ、イヤリングを付け、最後、郵便受けの蓋に貼り付けた鏡を見ながらリップを塗り、仕上げに香水を振りかけ、ポールのパトロン、2Eと入れ違いでタクシーに乗るまでの約10分間は、オードリー一世一代の名演。その流れるような動きはオスカー3個分に値する。

<Shot 3>一旦は喧嘩別れしたホリーとポールが土砂降りの街角で猫のキャットを挟んで強く強くハグ&キス。2人の間で悶絶寸前のキャットに気づいたオードリーが、メインテーマが流れるラストシーンで本当に笑っちゃってるのがいい。忍耐強い猫だこと。

「パリの恋人」

<Shot 4>グリニッチビレッジの本屋に乱入したファッション誌の編集長と部下たちが、本棚に立てかけられた階段を乱暴にプッシュ。すると階段の上ではオードリー扮するヒロインのジョーがいて悲鳴を上げながら階段ごと猛スピードでスライドする。何という登場シーン!!移動しながら画面に現れるなんて!?

<Shot 5>キャンペーンモデルに選ばれたジョーがパリの名所を背景にフォトシューティング。色彩のコラージュとストップモーションで終わる各ショットの斬新さは、今見ても完璧に新しい。ファッションフォトグラファーのリチャード・アヴェドン監修の下、オードリーが演じるのだから当たり前か?

<Shot 6>ウェディングドレス姿のオードリーが無名時代に夢にまで見たフレッド・アステアにエスコートされ、郊外の泉に浮かぶ筏に乗って幸せへと旅立つエンディング。実はこのシーン、ソフトフォーカスでごまかしてはいるが前日まで大雨でオードリーとアステアの足下は泥だらけ。筏は池に潜ったスタッフたちが人力で動かしている!!

麗しのサブリナ
麗しのサブリナ

「麗しのサブリナ」

<Shot 7>ロングアイランドに豪邸を構える大富豪ララビー家に仕える運転手の娘、サブリナは、ララビー家の次男で放蕩息子のデヴィッドに夢中だ。しかし、遊び人のデヴィッドの興味はサブリナにはなく、存在を意識すらしていない。ヨットパーティの夜、それを見せつけられ、傷ついたサブリナが泣きながら顔を背ける木の上のショットは、冒頭で観客の心を捉えて放さないオードリーのベストショット

<Shot 8>デヴィッドを忘れるためにパリに料理留学したサブリナは、料理学校の名門、ル・コルドン・ブルーでまずはスフレ作りに挑戦するが、最後に肝心のオーブンのスイッチを入れ忘れる始末。これじゃあスフレが膨らむワケがない。そんなサブリナに年老いた同僚が一言。「まずはその馬の尻尾みたいなヘアスタイルを止めるべきだよ」。しかし、そのヘア、映画でブームになったオードリー必殺のポニーテールなのだ。

<Shot 9>撮影中、デヴィッド役のウィリアム・ホールデンがオードリーに恋してしまい、逆に、長男ライナス役のハンフリー・ボガードはオードリーを気に入らず終始冷淡だったという噂。しかし、物語上は、サブリナはデヴィッドを諦め、ライナスと共にパリへと新婚旅行に旅立つ。舞台裏を知った上で観ると、この3画関係、際どい味わいがある。

スクリーン・ビューティーズ

Vol.1 オードリー・ヘプバーン

「ティファニーで朝食を」「パリの恋人」「麗しのサブリナ」

9月28日(土)-10月18日(金)3週間限定、全作品デジタル・リマスター版にて新宿ピカデリー他全国ロードショー!

「ティファニーで朝食を」

Copyright(C)1961 by Paramount Pictures Corporation and Jurow-Shepherd Productions. All Rights Reserved.

「パリの恋人」

Copyright(C)1956 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.

「麗しのサブリナ」

Copyright(C)1954 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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