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「アイアンマン3」のヒットとハリウッドスターの関係

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
「アイアンマン3」4月26日(金)より2D/3D公開中

4月26日に日本公開された「アイアンマン3」は期待通り、週末4日間の興収が8億円弱、北米を省く全世界で3億ドルを突破するスマッシュヒットとなった。ファンの視線はすでに「アベンジャーズ2」(2015年5月1日全米公開)で同じマーベルヒーローたちと再タッグを組むトニー・スタークの勇姿に注がれている。そして、勿論、クリス・ヘムズワース主演の「マイティ・ソー/ダーク・ワールド(原題)」(2013年11月8日全米公開)や、クリス・エバンス主演の「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(原題)」(2014年4月4日全米公開)等、仲間たちの次回作にも。シリーズ・マスト・ゴーオン。ハリウッドのイベントムービーは離合集散を繰り返しながらヒットを狙い続けるのである。

ヒットシリーズを熱望していた演技派俳優ダウニー・Jr

さて、その「アイアンマン」は2人の映画俳優の運命を変えた。一人はトニー・スターク役のロバート・ダウニー・Jr。ハリウッド屈指の性格俳優で業界内に多彩な人脈を誇る彼は、出演作には事欠かない隠れた売れっ子として有名だったが、そんなダウニー・Jrですら、ヒット作との遭遇を熱望していたことを物語るエピゾードがある。あれは今から5年前、「アイアンマン」のキャンペーンで15年ぶりに来日した時、僕を含めたインタビュアーの前で彼は絞り出すように呟いたのものだ、「やっと、本当にやっとシリーズ映画に巡り会えたよ」と。それが、ヒット至上主義のハリウッドを生き抜くスターの本音であり、生活の安定を意味していたことは言うまでもない。その後のダウニー・Jrの活躍はご存知のはず。願い通り、「アイアンマン」「シャーロック・ホームズ」「アベンジャーズ」と合計3つのヒットシリーズを手に入れた彼は、昨年、経済誌"フォーブス"が発表した「今年最も稼いだ映画俳優」の第1位に輝いている。

グウィネスはオスカー受賞後、スランプに

もう一人、「アイアンマン」と言うより、「アイアンマン」シリーズを挟んで新たなステイタスをゲットしたのは、トニーの秘書兼恋人、ペッパー・ポッツ役を演じているグウィネス・パルトロウだ。彼女の場合は、少し意味が異なる。第1作目の「アイアンマン」(08)ではあくまでアクションの脇役に過ぎなかったのが、その後、人気TVドラマ「glee」にゲスト出演して歌とダンスを披露したかと思えば、カントリー歌手を演じた映画「カントリー・ストロング(原題)」(11)の主題歌"Coming Home"で想定外の歌手デビュー。さらに、デビュー曲がアカデミー歌曲賞候補になった際には、オスカーナイトの壇上で緊張しながらパフォーマンスを披露して、アカデミー会員の度肝を抜く。当夜、コダックシアター(現ドルビーシアター)を埋め尽くした会員たちを驚かせたのは、グウィネスの歌唱力ではない。それより遡ること13年前、まだ演技力に関しては未知数だった彼女が「恋におちたシェイクスピア」(98)で見せた瑞々しい感情表現に対して、期待の意味を込めてアカデミー主演女優賞を授与した自らの判断が、果たして正しかったのかどうかという疑問に、瞬間、囚われてしまったのだ。オスカー受賞後のグウィネスが、多くの先輩受賞者たちと同じくスランプに陥り、クリス・マーティンとの結婚を機に主な住まいをロンドンに移して以降、メジャー作品から遠ざかったことを思えば、彼らの困惑は想像して余りあるものがある。

だが、シリーズを挟んでしたたかにサバイバル

しかし、グウィネスはなりふり構わず蘇った。これが女優とプロデューサーを両親に持つお嬢様セレブとは思えないしたたかさで、女優で歌手という経歴に加え、マクロビオティック(玄米菜食主義)をベースにした料理レシピ本を発刊する傍ら、先月末にはL.A.にヘアサロンをオープン。今後もジム、ヘルシーレストラン、ネイルサロンと開店ラッシュが予定される中、同月、雑誌ピープルの「世界で最も美しい女性」の1位に選ばれた彼女。そのニュースが「アイアンマン3」の全米公開5月3日直前だったこともあり、映画のL.A.プレミアにヒップと恥骨が丸見えのシースルードレスで現れたグウィネスのニュースが、肝心のレビューよりも話題の上位に食い込んでしまった。

受賞と引き替えに仕事が来なくなるというおぞましいオスカージンクスを跳ね返し、モードセレブとしてのイメージ戦略を巧みに展開して"起業女優"としてサバイバルしてしまったグウィネス・パルトロウ。ダウニー・Jrとは違って「アイアンマン」シリーズは今や彼女にとってサイドビジネスでしかないのかも知れない。

「アイアンマン3」4月26日(金)より2D/3D公開中 (C) 2013 MVLFFLLC. TM & (C) 2013 Marvel. All Rights Reserved.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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