今年の優勝争いの行方を大きく左右する「トレード・デッドライン(トレード期限)」が現地7月30日に終わった。今年の一番の移籍劇はワールドシリーズ2連覇を狙うロサンゼルス・ドジャースが、マックス・シャーザーとトレイ・ターナーのオールスター選手2人をワシントン・ナショナルズから獲得したもので間違いない。

 2015年開幕前に7年総額2億1000万ドル(現在のレートで約230億円)の大型契約でナショナルズへフリーエージェント移籍したシャーザーの契約は、今季が最終年。

 7月28日の時点でナショナルズは46勝54敗。ナショナル・リーグ東地区で地区首位のニューヨーク・メッツと8.0ゲーム差の地区4位、ワイルドカード争いでもワイルドカード枠2位のサンディエゴ・パドレスから10.0ゲームも離されており、プレイオフ出場を諦めて、来季以降の立て直しに目を向けた。

 そこで、今トレード・デッドラインの目玉となったのが、今年のオールスターゲームでもナショナル・リーグの先発投手を務めた37歳のシャーザー。

 年齢は気になるが、今季もリーグ屈指の投手として活躍しており、今季限りの「助っ人」投手としては申し分のない存在。多くのチームがナショナルズにシャーザー獲得を打診した。

 シャーザー獲得にとくに熱心だったのが、激しい地区優勝争いを繰り広げているサンフランシスコ・ジャイアンツ、ドジャース、パドレスの3チーム。28日の時点では地区首位のジャイアンツが、2位のドジャースに2.0ゲーム差、地区3位のパドレスに5.5ゲーム差をつけていた。

 シャーザーを獲得できたチームは地区優勝に近づくだけでなく、プレイオフで勝ち進むチャンスも大きく上がるとあって、この3チームはペナント争い以上に激しいシャーザー争奪戦を展開していた。

 トレード期限前日の7月30日のアメリカ西海岸時間の午後1時には、これまでにも数々の大スクープを報じてきた辣腕記者のケン・ローゼンタール氏が、「パドレスがマックス・シャーザー獲得に近づいた」とツイート。シャーザーのパドレス入りはほぼ決定かと思われた。

 シャーザーのパドレス入りが秒読み段階とのニュースが球界に広まった1時間後には、トレード関係の情報では球界随一と言われるジェフ・パッサン記者が、「ドジャースは、ロイヤルズから左腕のダニー・ダフィーを獲得するための最終調整を行ってる」とツイート。

 ドジャースはシャーザー獲得を諦めて、代わりにダフィー獲得に方向転換したと多くのファンは思った。

 しかし、ドジャースがダフィー獲得のニュースが出たとほぼ同時刻に、ローゼンタール記者が、「ナショナルズとパドレスはトレードに基本的な合意はしているが、関係者筋によると複数のチームがシャーザー獲得を諦めておらず、パドレス以上の提示をしている」とシャーザー争奪戦にどんでん返しがある可能性を匂わせ始めた。

 シャーザーのトレードに関しては、シャーザーはトレード拒否権を持っており、シャーザー自身が認可しないとトレードが成立しない。シャーザーは西海岸のチームへのトレードは認めると報じられており、ナ・リーグ西地区3チームへのトレードの障害はないと思われていた。

 多くの記者がシャーザーのトレード先を真っ先にすっぱ抜こうと動く中、ドジャース行きを最初に報じたのはパッサン記者。西海岸時間の午後5時過ぎに、「ドジャースがシャーザーとターナー獲得に大きく前進。交換要員は複数の有望マイナーリーガー」とツイート。

 パッサン記者がシャーザーがドジャース入りに前進と報じた約10分後には、ローゼンタール記者が「ドジャースが用意した交換要員にはプロスペクト・ランキング16位の捕手、キーバート・ルイーズが含まれている」とツイート。その後も続けざまに、「ジョサイア・グレイもトレード要員」、「ドナバン・ケーシーも交換要員」と交換相手の名前を報じていった。

 西海岸時間の午後6時前にパッサン記者が「ドジャースはシャーザーとターナーのトレードの最終調整に入った。超大物中の超大物トレードが実現する」とツイートして、翌30日にトレードが発表された。

SNSに飛び交う玉石混淆な情報

 ドジャースがパドレスよりも魅力的な交換相手を用意したので、ほぼ合意に達していたパドレスとの話を蹴って、ナショナルズはドジャースとの話をまとめた。

 この一文で説明できるほど、今回のトレード劇は単純ではない。

 前述したように、メジャーリーグ在籍10年以上、チーム在籍5年以上のシャーザーはトレード拒否権を持っていた。

 今回のトレード劇で主権を持っていたのは、ナショナルズではなくシャーザー。最終的にシャーザーが合意しなければ、ナショナルズはトレード話をまとめることができなかった。

 シャーザーの代理人を務めるスコット・ボラス氏は、ロサンゼルス郊外のニューポートビーチに事務所を構えており、ロサンゼルス・エンゼルスとドジャースの試合には頻繁に訪れている。

 今季終了後にFAとなるシャーザーにより大きな契約を与えるためには、ドジャースでワールドシリーズ2連覇の立役者になるのが良いとボラスが考えたのかもしれない。

 また、パドレスのマニー・マチャドはプロ入り時はボラスの顧客だったが、メジャーへ昇格する直前に他の代理人と契約して、ボラスは首を切られている。そんな因縁もあり、ボラスがパドレス入りよりもドジャース入りを勧めた可能性もゼロではない。

 ツイッターでは、ニューヨーク・ポスト紙の偽パロディ・アカウントが、「全力プレーをしない奴(マチャド)にチェーンをかけられるのが嫌だった」とシャーザーが語ったかのようなジョークをツイートしている。

 今季のパドレス躍進の象徴ともなっているスワッグ・チェーンは、若さと勢い、自由奔放さを体現しているが、良く思わないベテラン選手がいても不思議ではない。

 そのスワッグ・チェーンをシャーザーが着用している写真もツイッターには出回っているが……

 こちらはシャーザー本人ではなく、そっくりさんの写真。

 このようにSNSには、嘘の情報も多いので、本物を見分ける目が必要となってくる。

 2009年からツイッターを使い始めたローゼンタール記者は、「私の情報は打率3割ではなく、9割でもなく、10割を目指している。信頼できる情報源が間違った情報を伝えてくることもあるし、私が発信するニュースを利用しようと動くこともある。だから、複数の関係者に確認して、確信できてから情報を出すようにしている。パドレスとシャーザーの件は、私は『確定』という言葉は使っていないが、ほぼ合意に達していたと複数の関係者から聞いている。私がいう関係者とは、一球団職員ではなく、実際に交渉に携わっている人たちだ。それでもこの情報社会では、刻一刻と状況は変わっていくので、常に正しい情報を出すのは簡単ではないが、そこを目指して仕事をしている」と自らの哲学を説明する。