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5・4開催のSKE48荒井優希の「プロレス本格デビュー戦」は、女子プロレス版アイドルフェス

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
5月4日に戦う遠藤・伊藤組と荒井・渡辺組(写真提供:東京女子プロレス)

 いよいよ明日、5月4日に女子プロレスラーとして本格デビューを果たすSKE48の荒井優希。

 これまでAKBグループのメンバーが出演した豆腐プロレスと、アイアンマンヘビー級王者としてDDTの時間差入場女子バトルロイヤルに出場したことはあるが、この2試合はあくまでもアイドルとしてリングで戦ったもの。5月4日の試合はアイドルではなく、プロレスラーとして戦うが、この試合は女子プロレスラー版アイドルフェスと呼べるメンバーが集まったタッグチームである。

 荒井の”デビュー戦”はプロレスの聖地「後楽園ホール」で行われるが、新型コロナウイルス感染拡大により3度目の緊急事態宣言発令により無観客開催となってしまった。大会はインターネットテレビ局『ABEMA』格闘チャンネルにて無料で実況生中継されるだけでなく、優良動画配信サービス『WRESTLE UNIVERSE』で全編英語で実況・解説を付けて、世界に向けても生中継される。

 ゴールデンルーキー、荒井の”デビュー戦”はシングルマッチではなく、タッグマッチ。荒井は渡辺未詩とタッグを組んで、伊藤麻希&遠藤有栖組と戦うが、この4人は全員プロレスラーだけでなく、アイドルとしての活動経験も持つ。

荒井優希デビュー戦メンバーのプロフィール(表作成:三尾圭)
荒井優希デビュー戦メンバーのプロフィール(表作成:三尾圭)

 紅白出場を経験しているメジャー・アイドルグループの出身はSKEの48の荒井だけだが、LinQ出身の伊藤は東京アイドルフェスティバル、アップアップガールズ(プロレス)の渡辺は@JAM EXPOの舞台に立っている。Cheer1出身の遠藤は「Midnight Swan」や「走れ!T校バスケット部」など4本の映画出演経験を持つ。

 アイドルとして様々なバックグラウンドを持つ4人の女子プロレスラーが戦うこの試合は、まさに女子プロレス版のアイドルフェスティバルだ。

 4人の中でプロレスラーとしての経験と実績が飛び抜けているのが伊藤。東京女子プロレス第2のベルト「インターナショナル・プリンセス」を保持したこともあり、今年3月にはアメリカ第2のプロレス団体AEWで試合をしていた。

 「現状、伊藤麻希から見る荒井優希は『SKE48の肩書きに救われているだけのヤツ』としか思えない」と伊藤は荒井との「格の違い」を口にしたように、世界のトップレスラーと戦ってきた伊藤と、プロレスラー・デビューを控える荒井の間には大きな差がある。

 本来ならば、今年1月にデビューしたばかりの遠藤とのシングルマッチが荒井のデビュー戦には相応しいように思えるが、それだと荒井優希というゴールデンルーキーの”デビュー戦”としてインパクトが弱い。

 また、プロレス経験が不足している荒井は、プロレスの試合を組み立てる技術がまだ身についていないと思われる。そこで、シングルマッチではなくタッグマッチにすることで、プロレスの試合として成立しやすくなる。

荒井優希の本格デビュー戦の相手を務める遠藤有栖(左)と伊藤麻希(写真提供:東京女子プロレス)
荒井優希の本格デビュー戦の相手を務める遠藤有栖(左)と伊藤麻希(写真提供:東京女子プロレス)

 ゴールデンルーキーの”デビュー戦”がタッグマッチと聞いて、谷津嘉章の国内デビュー戦が頭に浮かんだ。

 20歳で1976年のモントリオール五輪にレスリングのフリースタイル90kg級で出場して8位。80年のモスクワ五輪では金メダルの有力候補と言われながらも、政治的な理由で日本が不参加を決めたために「幻の金メダリスト』と呼ばれた谷津。

 80年に新日本プロレスに入団すると、すぐにアメリカへ武者修行に行き、プロレス・デビュー戦の舞台は世界のプロレスの聖地、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンだった。

 アメリカで半年間修行してきた谷津の日本デビュー戦は、アントニオ猪木と組んで、スタン・ハンセン&アブドーラ・ザ・ブッチャー組と対戦。最強外国人コンビにフルボッコで血だるまにされ、悲惨な国内デビュー戦となった。

 その谷津は2019年に右足を膝下から切断してレスラーを引退したが、義足を付けて6月6日に東京女子プロレスも属するサイバーファイトが主催する大会で復帰戦を行う。

 現役アイドルの荒井が谷津のように”デビュー戦”から血だるまになることはないと思うが、谷津と同じく対戦相手から力の差を嫌というほどに思い知らせられることはあるかもしれない。

 伊藤・遠藤組は、世間からの注目が大きい荒井の”デビュー戦”で、荒井を喰うチャンスを狙っているはずだ。

 アイドル・フェスでも、マイナーなアイドルが目玉参戦するメジャー・アイドルのファンを虜にして奪うのは珍しくない。伊藤と遠藤は、注目度の高いこの一戦の主役を新人選手に譲る気持ちはゼロなはずだ。

 新人のプロレスラーにとって、最も大切なことは技を身につけることよりも、受け身を覚えること。4月28日に行われた荒井の公開練習でも、受け身を受ける時間が多かった。

 ”デビュー戦”で荒井ができることは限られてくるだろう。荒井にとって最も有効な武器はかかと落としではなく、諦めない心。SKE48でも根性で今の地位を勝ち取った荒井は、気持ちで伊藤と遠藤に負けるわけにはいかない。

 気持ちで戦う荒井にとって、伊藤はうってつけの相手である。なぜならば、伊藤もプロレス技術よりも気持ちでトップまで上り詰めたレスラーだからだ。

 4月17日の後楽園ホール大会では、東京女子プロレス最強の象徴であるプリンセス・オブ・プリンセス王者に挑戦した伊藤は気迫を剥き出しにして王者の辰巳リカに挑んだ。

 福岡のローカルアイドルグループ「LinQ」出身の伊藤は、小学校6年生まで野糞していた野生児で、「AKB48選抜総選挙」、「豆腐プロレス」、「秋元康」、「テレビ朝日」などに噛み付いて、喧嘩を売ってきた狂犬でもある。

 LinQを「クビ」になった自称「戦うクビドル」はへこたれない不屈の精神で、アメリカのメジャー団体「AEW」のビッグイベントに呼ばれるまでのレスラーになった。

 世界に出て行ったことで伊藤の知名度も格段にアップして、ツイッターのフォロワー数は荒井の3万人に対して、伊藤は13万人と圧勝している。

 2018年には豆腐プロレスに出演している48グループの「レスラー」たちに対して、「本気でやってるって言うなら、それがどれくらいのものなのか確認したい。本気でプロレスやる大変さは、自分自身が味わってきた」と挑発。「大手の方なので、こういう売れてないアイドルには触らないと思う」と言っていた伊藤と、豆腐プロレスReal出身の荒井がついに「本当のプロレスのリング」で混ざり合う時が来た。

 プロレスの技術と経験では伊藤の足元にも及ばない荒井だが、気持ちと根性だけは負けていないし、客寄せパンダになるつもりもない。荒井が伊藤とリングで対峙したとき、魂と魂がぶつかり合うプロレスができれば、勝敗に関係なくプロレスラーとして認められるはずだ。

 デビュー戦までの準備期間が短すぎる気もするが、東京女子プロレスを運営するCyberFightの高木三四郎社長は「最初から5月4日というゴールが決まっていたのではなく、僕は夏か秋くらいにデビュー戦ができればと考えていました。ところが、彼女の適正が素晴らしく、こちらの想定を超えてきました。彼女は運動神経があり、身体も柔らかい。練習を見ている中で、5月4日にデビューできると判断しました」と言い、荒井が持つポテンシャルの高さは、DDTプロレスの将来のエース候補と呼ばれる竹下幸之介に匹敵すると高評価を与える。

 最も懸念される部分はプロレスの基本である受け身が取れるかだが、公開練習でも半分以上の時間を受け身に割いたようにある程度の受け身は取れるようにはなっている。

 「受け身やマット運動などの基礎を中心に教えています。練習時間の7、8割は受け身ですね。荒井さんが素晴らしいのは、教えたことを名古屋に持ち帰って反復練習をしていること。東京女子はアイドルやグラビア出身の子が多いので、ケガのリスクを回避する受け身の技術などのノウハウは持っています」(高木社長)

 この公開練習でも何度もマットに投げられても立ち上がる荒井の姿から、彼女の負けず嫌いさが伝わってきた。

 会見では伊藤に目の前で中指を立てられながらも物怖じすることなく、堂々と対処した荒井。プロレスラーとしてはまだ未知数な部分は多いが、ケニー・オメガや飯伏幸太を育てた高木三四郎が認めた逸材なので、大きく化ける可能性は高そうだ。

伊藤麻希に顔の目の前で中指を立てて挑発されても、目を背けずに堂々と振る舞った荒井優希(写真提供:東京女子プロレス)
伊藤麻希に顔の目の前で中指を立てて挑発されても、目を背けずに堂々と振る舞った荒井優希(写真提供:東京女子プロレス)

 荒井がプロレスラーとして本格的な一歩を踏み出す5月4日の本格デビュー戦は、プロレスファンとアイドルファンならば絶対に見逃せない。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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