ダルビッシュとスネルを補強したパドレス先発陣は本当にメジャー最強ローテーションなのか?
サイ・ヤング賞投手のブレイク・スネルと、昨季のサイ・ヤング賞次点のダルビッシュ有を補強したサンディエゴ・パドレス。カブスとレイズのエースを加えただけでは飽き足らずに、ピッツバーグ・パイレーツのエースだったジョー・マスグローブまでもトレードで獲得した。
パドレスはメジャー最強のローテーションを確立したと言われているが、果たしてパドレスの先発ローテーションは本当にメジャー・ナンバー1なのだろうか?
昨季途中にトレードで補強したマイク・クレビンジャーが健康であれば、パドレスの先発陣がメジャー・ナンバー1と呼ばれることに異論はないが、クレビンジャーは昨年11月にトミー・ジョン手術を受けて、2021年シーズンは全休する。
メジャーリーグでは5人の投手で先発ローテーションを回すのが普通なので、21年のパドレスのローテーションは、ダルビッシュ、スネル、ディネルソン・ラメット、マスグローブ、クリス・パダックの5投手になると予想される。
ここに6人目の先発候補として、期待の大型新人、マッケンジー・ゴアが加わりそうだ。
ラメットは昨季のサイ・ヤング投票で4位に入っているし、パダックはルーキーだった2019年にWHIP0.98を記録。マスグローブが加わったことで、昨季の奪三振/四球の比率が6.25で球威と制球力を兼ね備えたエリドリアン・モレホンをロングリリーフ要員としてブルペンに置けるようになった。
しかし、これだけの先発投手陣を揃えても、メジャー・ナンバー1どころか、所属地区ナンバー1にもなれないかもしれない。
それは同じ地区にいるロサンゼルス・ドジャースの先発ローテーションが、パドレスに劣らないくらいに強力だからだ。
ドジャースにはサイ・ヤング賞に3度輝いたクレイトン・カーショウを筆頭に、2012年のサイ・ヤング賞投手のデビッド・プライス、若手三羽烏のウォーカー・ビューラー、ダスティン・メイ、フリオ・ウリアスなど実績あるベテラン投手と勢いがある若手投手が揃っている。
パドレスとドジャースの先発ローテーションの比較
それではパドレスとドジャースの先発6投手を比較してみたいと思う。
まずはデータサイトの「ファングラフス」の成績予想をみてみたい。ファングラフスには様々の方程式を使って算出された成績予想が掲載されているが、今回比較材料として使うのは「ZiPS」予想値と「Steamer」予想値の2つを基に算出した「デップス・チャート」予想値。
「デップス・チャート」が弾き出した各投手の2021年予想成績は上の表に記載したが、ここでは貢献度を表す指標であるWARを比較対象とする。
「デップス・チャート」の試算によると、2021年に最も優秀なWARを記録する先発投手は6.0を挙げるニューヨーク・メッツのジェイコブ・デグロム。
ビューラーの4.2は7位、ダルビッシュの4.0は9位となっている。
パドレスの先発6投手の合計WARは17.5で、ドジャースの15.2を上回る。
ファングラフスの予測データによると、ドジャースよりパドレスの先発ローテーションの方が強力で、2チームの差は大きい。
ビル・ジェームズの指標でもパドレスが上
次にセイバーメトリクスの第一人者であるビル・ジェームズ氏が編み出した「先発投手ランキング(SPR)」で両チームを比較してみる。
SPRは「ゲームスコア」を用いた評価方法。
「ゲームスコア」とはジェームズ氏が作り出した先発投手の評価システムで、先発ごとに評価される。
投手が先発すると50ポイントが与えられ、アウトを1つ取るごとに1ポイントが追加される。5回以降は1イニングを投げるごとに2ポイント追加となる。
三振は1つにつき1ポイント追加だが、安打を打たれると1安打につき2ポイントの減点、1自責点につき4ポイント減点(自責点以外の失点は2ポイント減点)、四球を与えるごとに1ポイントの減点となる。
9回を投げて、27奪三振の完全試合を記録したときのゲームスコアは114となり、実際の試合で記録された最高のゲームスコアは、1998年にケリー・ウッド(シカゴ・カブス)が1安打、無四球、20奪三振で完封勝利を収めた試合で記録した105ポイント。
SPRでは、投手が先発するごとに「ゲームスコア」の30%を加算。以前のSPRスコアは3%ずつ減少させていく。
先発登板の間隔が7日以上開くと、1日につき0.25ポイントずつ減点していく。オフシーズンは全ての投手が減点対象となるが、全投手が同じ下げ幅での減点となるので、ランキング順位に変動はない。
先発登板間隔が201日以上空いた場合のみ、SPRポイントは1日1ポイントずつ減点される。
SPRでは直近のゲームスコアが重要だが、ランキングの上位に来るためには過去数年間で安定した投球が求められる。現在の実力と過去の実績がほど良いバランスで混ぜられたシステムだといえる。
先発投手ランキングの1位は、ニューヨーク・ヤンキースのゲリット・コールでSPRポイントは462.3。442.2のデグロムが2位にランクインしている。
パドレスとドジャースの投手では、カーショウが4位、ダルビッシュが7位、ビューラーは10位、スネルは13位、ラメットが19位と、30位以内までにパドレスから3投手、ドジャースから2投手が入っている。
両チームの先発6投手の合計SPRポイントはパドレスが2,245.3で、ドジャースは2,240.7。僅差でパドレスが上回った。
このSPRポイントでは、マスグローブを補強する前まではドジャースが2.83だけ上だっただけに、パイレーツのエースを加えた影響は大きい。