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阪神移籍のチェンは3位、元阪神の大砲の息子が2位!2020年にMLB球団から受け取った金額ランキング

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
2020年メジャーリーグ年俸ランキングで3位に入ったウェイン・チェン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの影響でレギュラーシーズンの公式戦が162試合から60試合へと短縮になった上、無観客で行われた2020年のメジャーリーグ。試合数が減ったことで、選手の年俸も契約年俸より63%削減されてしまった。

 そんな状況の中でも63%の減俸の対象にならなかった選手たちもいる。複数年契約を結びながらも、契約満了前に解雇された選手たちだ。

 公式戦60試合全試合に出場しても63%減俸される選手がいる一方で、1試合もプレーしなくても保証額全額を受け取る選手もいる。2020年にMLB球団から受け取る金額ランキングの上位には、そんな「ラッキー」な選手が多く名前を連ねた。

1位:ジョン・レスター(シカゴ・カブス)2556万ドル

カブスから2556万ドルを得て、2020年にMLB球団から最も多くの金額を受け取ったジョン・レスター(写真:三尾圭)
カブスから2556万ドルを得て、2020年にMLB球団から最も多くの金額を受け取ったジョン・レスター(写真:三尾圭)

 2020年の契約年俸が1500万ドルのレスターが2556万ドルも手にしたのは、次のようなカラクリがある。

 まず、2020年に年俸として手にしたのは1500万ドルの37%に当たる556万ドル。

 レスターはフリーエージェント(FA)になった2014年オフにカブスと6年総額1億5500万ドルの契約を結んだが、契約金3000万ドルのうち1000万ドルは2020年に受け取る約束になっていた。

 そして、この6年契約には7年目の2021年に年俸2500万ドルのオプションが付随していたが、カブスは10月末に1000万ドルのオプション買取金を払ってオプションを破棄した。

 年俸556万ドル、契約金1000万ドル、オプション買取金1000万ドルの合計2556万ドルを手にしたレスターが、2020年にMLB球団から最も多額の金額を得た選手となった。

2位:プリンス・フィルダー(元テキサス・レンジャース)2400万ドル

2020年、MLBトップの2400万ドルの年俸を手にしたプリンス・フィルダー(写真:三尾圭)
2020年、MLBトップの2400万ドルの年俸を手にしたプリンス・フィルダー(写真:三尾圭)

 2016年シーズン途中で現役を引退したフィルダー。メジャーのフィールドで4年半もプレーしていない巨漢選手が、2020年MLBから大金を得る選手ランキングで2位となった。

 FAだった2012年1月に当時は歴代4位となる9年総額2億1400万ドルの超大型契約を結んでデトロイト・タイガースに移籍したフィルダー。移籍1年目の2012年は162試合全試合に出場して、打率.313、30本塁打、108打点と大型契約に相応しい成績を残したが、翌13年は成績を落として、そのオフにトレードでレンジャースへ放出された。

 2015年には打率.305、23本塁打、98打点と復調して、アメリカン・リーグのカムバック賞に選ばれたが、16年シーズン途中に首の痛みが再発して、ドクター・ストップがかかった。レンジャースは2017年シーズン終了後に、年間2400万ドルの契約を3年残していたフィルダーを解雇。チーム側が解雇したので、フィルダーの残り7200万ドルの契約はチームに支払い義務がある。

 9年契約最後の年となる2020年シーズン、フィルダーの2400万ドルの年俸は、トレード時の条件としてタイガースが600万ドルを負担、900万ドルが保険会社から支払われ、残りの900万ドルをレンジャースが払った。

 プリンス・フィルダーはメジャーで通算319本塁打を放ったが、阪神タイガースからメジャーに復帰後に大ブレイクした父のセシル・フィルダーのメジャー通算本塁打数も同じ319本。セシルとプリンスはメジャーの歴史で唯一、年間50本塁打を超えた父子でもある。

3位:ウェイン・チェン(元マイアミ・マーリンズ)2200万ドル

2020年はマリナーズとマイナー契約を結んで春季キャンプに参加したウェイン・チェン(右)
2020年はマリナーズとマイナー契約を結んで春季キャンプに参加したウェイン・チェン(右)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 2020年はNPBの千葉ロッテ・マリーンズにシーズン途中で加わり、CSでも先発をしたチェンが3位にランクイン。

 チェンは2016年1月にマーリンズに5年総額8000万ドルの契約でFA移籍。16年は開幕投手を務めたが、22試合に先発して5勝5敗、防御率4.96と期待を大きく裏切った。17年は2勝1敗、18年も6勝12敗と不振が続き、先発を外された19年は勝ち星なしで、防御率も6点台。契約4年目の年俸2200万ドルを残しながら、マーリンズは19年シーズンオフにチェンを解雇。

 2020年はメジャーに昇格できたら年俸56万ドルという条件で、シアトル・マリナーズとマイナー契約を結んでメジャーのキャンプに招待選手として参加したが、新型コロナウイルスの影響でキャンプは途中で中断。サマーキャンプが始まる前にマリナーズからも解雇された。

 今オフには阪神タイガースと2年総額400万ドルの契約を結んだが、年俸200万ドルは2020年に手にした2200万ドルの9割減となる。

4位:ジャコビー・エルズベリー(元ニューヨーク・ヤンキース)2114万ドル

2020年の年俸2114万ドルの支払い義務を巡ってヤンキースと揉めているジャコビー・エルズベリー(写真:三尾圭)
2020年の年俸2114万ドルの支払い義務を巡ってヤンキースと揉めているジャコビー・エルズベリー(写真:三尾圭)

 長いヤンキースの歴史の中で「史上最悪の契約」と呼ばれるのが、2013年オフにエルズベリーと結んだ7年総額1億5300万ドルの契約。

 契約直後にはライバル球団のボストン・レッドソックスからエルズベリー強奪に成功したことをヤンキース・ファンは喜んだ。しかし、ヤンキース入団後のエルズベリーは度重なるケガに泣かされ、毎年のように故障者リスト入り。2018年、19年と2年続けて全休して、19年終了後にヤンキースから解雇された。

 フィルダー同様に、ヤンキースには契約の残り分の支払い義務があるが、ケガで離脱中に球団の承認を得ない医療機関の治療を受けたのは契約違反に当たるとして、ヤンキースは支払いを拒否。大リーグ選手会が球団に対して苦情申し立てを行っている。

 エルズベリーの7年契約は2020年が最終年だが、契約8年目となる2021年シーズンはヤンキースが年俸1600万ドルで契約を延長できるオプションを持っていた。ヤンキースはもちろんこの8年目の契約も破棄したので、その際(19年11月)に発生した500万ドルの契約買取料の支払い義務もあるが、こちらも支払われてはいない。

5位:スティーブン・ストラスバーグ(ワシントン・ナショナルズ)1873万ドル

2つの契約を合わせた複雑な契約内容で2020年に1873万ドルを手にしたスティーブン・ストラスバーグ(写真:三尾圭)
2つの契約を合わせた複雑な契約内容で2020年に1873万ドルを手にしたスティーブン・ストラスバーグ(写真:三尾圭)

 ワールドシリーズ制覇を成し遂げた昨オフに7年総額2億4500万ドルでナショナルズと契約を結び直したストラスバーグの契約内容は少し複雑だ。

 もともとストラスバーグは2016年のシーズン中に、17年から始まる7年総額1億7500万ドルの延長契約をナショナルズと結んだが、その契約には19年と20年シーズン終了後にストラスバーグが残りの契約を破棄してFAになれる条項が含まれていた。ストラスバーグは昨オフにその権利を行使してFAとなった後に、ナショナルズと新たに7年契約を結び直したのだが、16年に結んだ契約にはもう1つ別の条約も盛り込まれていた。それは、2019年オフに残りの契約を破棄した場合には、19年の年俸3500万ドルのうち3000万ドルは20年、21年、22年にそれぞれ1000万ドルずつ分割して支払われるというもの。この条約に則って、ストラスバーグは2020年夏に2019年の年俸分として1000万ドルを受け取っている。

 2020年のストラスバーグの年俸は3500万ドルだが、このうち1143万ドルは2027年に支払われる契約なので、2020年の受け取り分は2357万ドル。この2357万ドルの37%に当たる873万ドルがストラスバーグが2020年に受け取る分となる。

 2020年の年俸873万ドルに、2019年分の1000万ドルを加えた1873万ドルをストラスバーグは受け取った。

6位:クレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース)1631万ドル

年俸を大幅に下げる先見の明で、今季の損失額を減らしたクレイトン・カーショウ(写真:三尾圭)
年俸を大幅に下げる先見の明で、今季の損失額を減らしたクレイトン・カーショウ(写真:三尾圭)

 カーショウの2020年度の年俸は2333万ドル。メジャーのトップクラスの投手が年俸3500万ドル以上を手にしているのに、サイ・ヤング賞を3度も獲得しているカーショウの年俸が2333万ドルというのは非常に格安に思える。

 2014年にドジャースと7年総額2億1500万ドルで延長した際の契約では、20年の年俸は3300万ドルになるはずだった。しかし、2018年オフにその契約を破棄して、新たに3年総額9300万ドルで19年から21年までの契約を結び直した。このときに20年の年俸は3300万ドルから2333万ドルへ約1000万ドル下げる代わりに、契約金として2300万ドルをゲット。この契約金は19年から21年までの3年間、3分割で支払われる。

 2020年は年俸2333万ドルの37%に当たる864万ドルに加えて、契約金767万ドルの合わせて1631万ドルを手にした。

 2018年オフに契約を見直したときに、まさか今年のパンデミックを予見していたわけではないが、結果的に年俸を大幅に下げて、多額の契約金に移したのが大正解だった。

7位:マックス・シャーザー(ナショナルズ)1500万ドル

2020年分の年俸受け取り額はゼロながら、1500万ドルの契約金を受け取るマックス・シャーザー(写真:三尾圭)
2020年分の年俸受け取り額はゼロながら、1500万ドルの契約金を受け取るマックス・シャーザー(写真:三尾圭)

 FAだった2015年1月にナショナルズと7年総額2億1000万ドルの契約を結んだシャーザー。

 2020年の年俸は3500万ドルのはずだったが、63%の減俸により1296万ドルまで減ってしまった。シャーザーは19年から21年までの年俸(3年合計1億500万ドル)をその年に受け取らずに、22年から28年までの7年間、毎年1500万ドルずつを受け取る契約になっている。そのため、1296万ドルは今年受け取らず、今年の受け取り分はゼロとなる。

 しかし、2015年に大型契約を結んだ際に発生した5000万ドルの契約金を一度に受け取らずに、2015年は500万ドル、2019、20、21年の3年間は毎年1500万ドルを受け取るようにアレンジしていたので、2020年は契約金の一部である1500万ドルのみを受け取る。

8位:トロイ・トゥロウィツキー(元トロント・ブルージェイズ)1400万ドル

2010年オフにロッキーズと結んだ10年の長期契約のおかげで、20年に1400万ドルを得たトロイ・トゥロウィツキー(写真:三尾圭)
2010年オフにロッキーズと結んだ10年の長期契約のおかげで、20年に1400万ドルを得たトロイ・トゥロウィツキー(写真:三尾圭)

 2019年を最後に現役を引退したトゥロウィツキーだが、コロラド・ロッキーズに在籍していた2010年オフに10年総額1億5775万ドルの長期契約で延長。2015年シーズン途中にブルージェイズへトレードされたが、契約はそのまま引き継がれた。

 2018年シーズン終了後に、契約を2年間(総額3800万ドル)残しながらも、自由契約を言い渡された。3800万ドルの内訳は2019年の年俸が2000万ドル、20年の年俸1400万ドルに、21年のオプション契約買取金が400万ドル。

 2019年の年俸2000万ドルのうち1500万ドルは19年度に払われ、残り500万ドルは年利3%を加えて、2025年から34年までの10分割で支払われる。オプション買取金は21年と22年にそれぞれ200万ドルに分けて支払われるが、20年分の年俸1400万ドルは全て20年に払われる。

9位タイ:マイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)、ゲリット・コール(ヤンキース)1333万ドル

メジャー最高年俸となる3600万ドルを得るはずだったマイク・トラウト(写真:三尾圭)
メジャー最高年俸となる3600万ドルを得るはずだったマイク・トラウト(写真:三尾圭)

 2019年開幕前にエンゼルスと12年総額4億2650万ドルのメジャー史上最高額の超大型契約を結んだトラウトは、2020年に年俸3600万ドルを手にするはずだった。

 コールは昨オフに9年総額3億2400万ドルでヤンキースにFA移籍。今季の年俸はトラウトと並んで、メジャー最高年俸の3600万ドル。

 しかし、公式戦が60試合制となったことで、年俸は1333万ドルまで下がり、約2300万ドルを失ってしまった。

 本来ならばメジャートップの3600万ドルを手にするはずだったトラウトとコールは、パンデミックの影響で辛うじてトップ10入りした。

昨オフに9年総額3億2400万ドルでヤンキースにFA移籍したゲリット・コールは、今季メジャー最高年俸を手にするはずだったが、実際に得た金額は1333万ドルで辛うじてトップ10入りした    
昨オフに9年総額3億2400万ドルでヤンキースにFA移籍したゲリット・コールは、今季メジャー最高年俸を手にするはずだったが、実際に得た金額は1333万ドルで辛うじてトップ10入りした    写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

やはりボラスは凄腕代理人

 今回のランキングを見て感じたのは、大物代理人スコット・ボラスの凄さ。

 2020年はメジャーで1試合もプレーしなかったフィルダー、チェン、エルズベリーの3選手の契約は全てボラスによるもの。契約が「不良債権化」して、契約満了をまたずに解雇されるのは選手にとっては不名誉だが、代理人として大きな仕事をした証である。

 現役選手でもストラスバーグ、シャーザー、コールの大物3投手の契約もボラスによるもの。ストラスバーグやシャーザーの複雑な契約内容を見るだけでも、あの手この手を使ってボラスが少しでも選手に有利な契約条件を引き出そうとしているのが窺える。

今回のランキングではトップ10のうち6選手、トップ5のうち4選手の契約を担当した超大物代理人のスコット・ボラス(写真:三尾圭)
今回のランキングではトップ10のうち6選手、トップ5のうち4選手の契約を担当した超大物代理人のスコット・ボラス(写真:三尾圭)

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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